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悪嬢転生!?〜8歳の悪役令嬢?に転生した私は、10年後、内定婚約者である第三王子に首を刎ねられるみたいなので、今のうちに関係修復頑張ります!〜   作者: 月末了瑞
シリウス真相編

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14話:『あんなやつ、大っ嫌いだ』・3


 しかし――


「クローウィン! 私、あの子にクローウィンって付けたい!」


 レイは、Gを、Cと読み間違えながらもそう言って、にこりと破顔した。


(……間違ってるよ、レイ)


 シリウスはそう心の中で呟きながらも、すぐさま訂正しようとしたものの――レイがあまりに嬉しそうに「クローウィン、クローウィン」と言い続けるものだから、シリウスはそれ以上、言葉を紡ぐことができなかった。


 その誤りを正して、彼女の笑顔が消えるのを見たくなかったから。


 それに、“幸福”という意味が消えても、何ら変わらない。むしろ、そのおかげか、クローウィンの世話をするうちに、より一層、2人の仲は深くなっていった。


 だが――そんな幸福な日々は長く続かなかった。


 いつの頃からか、レイの悪名が、シリウスの耳にも届くようになり、家人が交わす声の端、出入りの商人が口にした名前の中に、彼女の名前が混ざるようになった頃くらいから、レイはシリウスの元へと訪れなくなってしまった。


 何があったのかわからない。しかし、それは唐突なことだった。


(……レイ、どうして来てくれなくなったの? 王宮に来る人たちが言ってる噂は嘘なんでしょ? 僕は信じるよ、レイのこと)


 シリウスはそんな彼女の不在に寂しさを感じながらも、きっと変な噂が消えるまでは、バルドフ・ヴァーティンが悪意の視線からレイを守るため、外出を控えさせているのだろうと考え直すと、ひとつの決意をした。


《レイ戻るその日まで、二人で救ったこの命を、必ず守り抜こう》


 そんな決意を。


 だが、1ヶ月、2ヶ月――月日は流れてもレイの悪評は止まることを知らず。ようやく収まったのは、それから1年半もあとのこと。


 その頃には、シリウスとクローウィンは、人間と鳥という境界線を取り払い、本当の兄弟のような絆で結ばれていた。何処に行くにもクローウィンを連れ、日々愛情を注ぎ接するシリウスは、自然と笑顔が増えるようになり、周囲の視線も冷たいものから温かいものへと変わりつつあった。


 そんな折――運命がそんなシリウスへと牙を剥く。


 バルドフ・ヴァーティンが、回復したリゲル国王陛下に呼び出されたある日。久しぶりに、レイが王宮を訪れた。

 

 その姿を見てシリウスは、胸を僅かに高鳴らせる。けれど、すぐに違和感を覚えた。


 言葉数が少なく、シリウスと目を合わせる時間も極端に短い。それに加え、瞳の奥には、顔合わせの時よりも、深く鋭い影が落ちていた。


(……なにか、あったのかな?)


 そう思うものの、レイは1年半ほど、謂(いわ)れのない悪意に晒されていた身。恐らく、以前の自身のように、再び人を信用出来なくなってしまったのかもしれない。そう考えることにした。


 だって、レイがそんなことをするはずがないから。心の優しいレイが、誰かを貶めるはずないから……。


 だから、シリウスは行動した。再びレイに会えたその時。あの日、2人で救った命はこんなにも立派になったんだよ。それを彼女に見せてあげたくて……。シリウスは、いつものようにクローウィンを放鳥する。


 いつもならば、大空を自由に滑空した後、シリウスの肩か腕に戻ってくるはずのクローウィン。けれどその影が、いつまで経っても見当たらない。


(……どこかで休憩しているのか?)


 そう思いつつも胸の奥に、説明のつかない冷たさが広がっていく。その理由は、わからない。だがなぜか、なんとも言えない胸騒ぎを覚えてしまい――


(……まさか)


 オオタカや、大型の猛禽類にモビングでもしてしまい、反撃にあってしまったのでは……。空には複数の猛禽類らしき鳥がいたこともあり、彼は無意識のうちに足を動かし森を駆け始めた。


 そして、木立の間で彼は、知りたくない真実を認めてしまう。


「はぁ……はぁ……」


 そう荒く肩で息をしながらも、瞳を大きく見開き、頭を真っ白に染め上げるシリウス。


(……どういう、こと……?)


 何も理解できなかった。だから、何度も問いかけた。しかし、その言葉は口からは零れず。ただ、胸の奥深く沈んでいくばかり。


 本当は、声を発したかった。けれど、できなかった。目の前が真っ暗に闇に覆われてしまったような感覚。何も理解したくないと叫ぶ心。目の前の光景が、現実だと拒む頭。


 そんなシリウスの眼前。


 そこにいたのは、息も絶え絶えのクローウィンを腕に抱き、無感情な瞳でシリウスを見つめる、レイ・ヴァーティンが。


 認めたくなかった。いや、認めざるを得なかった。


 いや違う。本当は、何が起きたのか。どうすれば助かるのか、聞きたいことは山ほどあった。


 だが、シリウスの口から出たのは、たったひとつの言の葉。


「……お前が、やったのか?」


 突き放すように放たれたその言葉。それが自身の声だと、すぐには理解できなかった。


 恐らく、その問い方が悪かったのかもしれない。いや、本当は、責めたいわけじゃない、信じてるんだ。そう言いたかったはずなのに……頭が真っ白に染まり、自身でもわからないことを口走ってしまっていた。


 だから、すぐに『違う』そう訂正しようとした。


 けれど――


 レイの方が、それより先に答えていた。


『ええそうよ。まだあんな汚らわしいカラスを大切にしていたのね』


 瞬間、シリウスは息を止めた。代わりに、葉が鳴った。


(……嘘、だろ?)


 ザワザワと騒ぐ心(森)内。


 だが、シリウスは動くことができなかった。駆け寄ることも、クローウィンを取り戻すことも、その『嘘だろ』を口に出すことすら――なにもできなかった。

 

 しかし、嘘か本当かなど、確かめる必要などなかった。だって、レイの瞳がそれを許さなかったから。


(……信じていたのに)


 裏切られた気持ちだった。心が優しいレイが、そんなことするはずがないって信じたかった。なのに彼女は、『ええそうよ』そう言って、自身の罪を認めてしまった。


 時が止まった。目の前が真っ暗になり、シリウスが信じていたレイが、音を立てて砕け散ってしまった。


(ああ……やっぱり……僕は誰も信じない方が良かったんだ……)


 そう、絶望した。でも、不思議と涙は溢れてこなかった。枯れたように、ただ呆然としてしまった。


 あの日、白いカラスに『死なないで』と必死に縋り、神様が赦しを与えてくれたと、涙を流して抱きついてきた、あの頃のレイは死んでしまった。


 だから、シリウスはあの優しかった頃のレイを封印し、“レイ・ヴァーティン”に別の意味を持たせるようになった。


 ◇◆◇


「あんなやつ……嫌いだ。あいつのせいで全部、ぐちゃぐちゃで……」


 呟きながらシリウスは、拳を握り締める。けれど、心の奥では別の感情が囁いていた。


(本当に、嫌い……なのか?)


 なぜ、心がそう問いかけるのかわからない。だけど、その疑問を肯定することなど今の彼には不可能。


「嫌いだ! あんなやつ大っ嫌いだ……っ!」


 シリウスは頭を振って、胸の奥から浮かび上がった疑問を打ち消そうとした。


 けれど、記憶の中に滞在する彼女の笑顔が、どうしても消えてくれない。


「どうしてまだ、僕の心を乱してくるんだよ……。絶対、お前なんかと会ってやるものか。これ以上、僕を苦しめないでくれ」


 シリウスは、抱えきれない不快な感情に振り回されながらも、不安定な決意を結ぶのだった―

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