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悪嬢転生!?〜8歳の悪役令嬢?に転生した私は、10年後、内定婚約者である第三王子に首を刎ねられるみたいなので、今のうちに関係修復頑張ります!〜   作者: 月末了瑞
シリウス真相編

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12話:セレスティアのバカ! 誰も私のことなんて見てないし、悪者なんだよ!? 仕方ないじゃん!?・前編


 数分後――


 セレスティアは、じっと瞼を閉じたまま風を感じ続けていた。しかし、やはり隣の野猿のことが気になって仕方ない。


(……こういう時、聞いてもいいものなのか?)


 若干、迷いを孕みながらも、そんなことをいちいち気にしていても解決しない。彼は、「はぁ……」と小さく息を吐き出すと、地面に肘をつき、頭に手を添え彼女へと問いかけた。


「で、何があったんだ?」


 瞬間、ドキリと跳ねるレイの心臓。


 なぜ、セレスティアはそんなことを聞いてきたのか。いや、そもそも彼は、面倒臭がり。こんなふうにセレスティアから気遣われる(?)など思っていなかったレイは、驚きのあまり「え?」と一言。


 顔を強ばらせてしまう。


 だが、なぜそのようなことを聞いてきたのかわからない。そもそも、彼が聞いてきたのは『何があったんだ?』という、主語のない問いかけ。


 ゆえにレイは視線を逸らしながらも、いつも通りの調子を装い答えた。


「えっ、なに? 急にどーしたの? あははは〜! セレスティア、変なの〜!」


 しかし、その瞳はグラグラと揺れ、声も隠しきれない震えに裏切られている。


(演技、ド下手くそすぎんだろ)


 そんな彼女の不器用さに、セレスティアは内心で嘆息しながらも、ぽつり。ほんの少しだけ、話しやすいようにと誘導してやった。


「なんかさっきからぶつぶつ言ってから」


 だが家庭にそもそもの問題があるのか。それとも、本音が言えない性格なのか。


「え、べ、別になんもないよ……?」


“底なしのバカで野猿である野蛮童女”は、そう言って尚も本音を隠そうとする。


 だが、既にその仮面にはヒビが入り、隠しきれない負の感情が、そのヒビ割れから滲み出している。


 それは恐らく、セレスティアの瞳を通さずとも、誰の目から見ても明らかなことだろう。


(はあ……そんなに話したくないことなのか? ガキの癖にいっちょまえに暗い顔しやがって)


 セレスティアは内心口を悪くしながらも、言いたくないんならそれでいいと自己完結し、「そうか」とだけ返すと、両手を枕のように組んでゴロリと目を閉じた。


 そんな彼の態度をチラリと見遣りながらも、レイは居た堪れない気持ちで胸の中に浮かぶ小舟を沈めかけそうになってしまう。


 本当は「辛い」「苦しい」「助けて」そう言いたい。


 だが、セレスティアが面倒臭がり。そんな本音を吐き出したところで返ってくる言葉など、たかが知れている。


 恐らく、『そうか』そんな一音のみが、無慈悲に奏でられるだけだろう。ゆえに、レイは本心を呑み込んでしまう。


(言わない方がいい。言っちゃえば、きっとシリウスと同じことになる……)


 そう自分を説得するように、レイは両膝を抱え額を乗せるように体を丸める。


 あからさまな態度で沈んでいく彼女。セレスティアは、そんな彼女を一瞥するや否や――大嘆息をひとつ。内心で苛立ちを口汚い迷いを吐き出した。


(『そうか』と言っちまった以上、下手な詮索は良くないだろう。だから、放って置く方がこいつにとっても良いはずだ。それに、正直に言ってめんどくせぇ。だが、それ以上にこいつの態度は、イライラしちまう)


 しかし、苛立ちを覚えてしまうのは本当のところ。抱えるのが辛いのならば、吐き出せばいい。何故それをせず、抱え込もうとする? その非生産的な行動に、なんの意味があるのか。セレスティアは、理解できなかった。


 とはいえ、彼女の負の感情を受け、頭ごなしにイライラするというのは違う。そもそも、眼前の野猿はまだ未成年のガキ。セレスティアは、表面上は“面倒臭い”の仮面を装着しながらも、別角度から切り込んだ。


「はあ……。お前って今何歳だ?」


 けれどそれは、レイからすれば突拍子もない問いかけ。ゆえに彼女は、思わず顔を上げて目を丸くしてしまう。


「え、なんで急に……?」


 しかし、セレスティアは相変わらず横になったまま、興味のなさそうな声色で続けた。


「気になっただけだ。答えたくなけりゃ別にそれでいい」


 レイは内心で、どうして急にそんなことを聞くのか、と訝しみながらも、別にその情報を隠す必要がない。そのため、頭の中で大量のクエスチョンマークを製造しながらも、素直な様子で応じた。


「……9歳だけど」


 その言葉を受け取ったセレスティア。彼は鼻から息を吐き出すと、閉ざしていた瞼を再び開き、独りごちる。


「9歳、か。……俺と14も違うんだ。そんなガキが無理して大人ぶる必要なんざねえだろ」


 同時。口をへの字に結ぶ彼女。その態度から推測するに、図星を突かれ言い返す言葉がない。といったところだろう。


(何故そこで言い返さず、口を閉ざすを選ぶのか。どうでもいいことはぺちゃくちゃとオウムのように話す癖に、重要そうなことはなんも言わねぇって、まるで見た目と中身があべこべだな)


 セレスティアは、そんなことを内心で呟きながらも、ふと自身がガキの頃、何をしていたかと思いを巡らせた。


 ◇◆◇


 彼は、一度教えてもらったことならば、なんでもこなせる器用な子供だった。そんなセレスティアに、過度な期待をしてしまった両親は、厳しい貴族教育に加え、王家との縁を求め、強引に彼を推挙した。


 セレスティアは、それが堪らなく煩わしかった。なぜ、自分が王家に取り入らなければならぬのか。そんな苛立ちさえ覚えてしまった。しかし、露骨に反発すれば、この無能たちには悪手でしかない。ならばどうするか? 彼は少し考え、ひとつの策を導いた。


 両親らの思惑を逆に利用し、王家との縁をむしろ壊してやればいいのだと。


 だが、残念ながらセレスティアの思惑が叶うことはなかった。


 当時、セレスティアは6歳。対するリゲルは13歳。7つの歳の差はあれど、互いに似たような境遇に置かれていたからか、二人は自然と仲を深め――結果、両親らの思惑に乗ってしまった。


 とはいえ、それはそれで良かったのかもしれない。なんせ、王太子の遊び相手という名目さえあれば、両親らの監視から離れ、多少なりとも息を吸うことができた。


 そんなリゲルと過ごす時間は、唯一、完璧であれと求められない場。子供らしく振る舞うことが許される、たったひとつの救いだった。


 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。その3年後、先代であったアルデバランが病(やまい)に伏してしまったことをきっかけに、リゲルは、摂政王太子として玉座に座ることになってしまい――息が詰まる生活が再び戻ってしまった。


 もちろんセレスティアは、その後も何度かリゲルに会いに行った。しかし、摂政王太子とはいえ、次期国王になるのは必至の彼が、いつまでも一人の少年に構っていられるはずもない。会いに行くたび、リゲルは公務に追われているばかり。


 次第に、訪ねる足は遠退いた。


 けれど、家に帰ったところで何もない。あるのは両親の重圧と、果てなき期待という名の鎖だけ。

 

 帰る場所など、どこにもなかった。いや、帰る場所はあった。だが、帰りたくなかった。だから、彼はとある日。屋敷に帰る道とは異なる方へと歩を進めた。


 別に行き着く先などどうでもいい。ただ、息が吸える場所に行きたかった。


 そうして、偶然とはいえこの湖と白い庭園に辿り着いた。


 そこから、彼の癒しはこの場所になった。何かあればこの庭園へと赴き、幾度となく感情を鎮めた。


 とはいえ、そんな両親も不幸というのか、幸いというのか。立て続けに起こった不運に見舞われ、彼が十代の頃に他界してしまったのだが。


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