8話:シリウスに会いに行く。まあ、絶対無理なの知ってるけど……。・後半
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「えっと……シリウス……様に、その……お会いしたくて……」
王宮に着いたレイは、すぐさま謁見の申し出をした。
そんな彼女を見つめながらも、門を守る門番のように立つ一人門衛。稚女の来訪は聞かされていないのだが……。そう内心に落としながらも、すぐに門前払いをしようと考えた。
しかし、よくよく見れば、眼前の稚女はシリウス第3王子の内定(暫定)婚約者のようにも見受けられる。
確か昨日、彼はかなりの荒れ具合で王宮へと戻ってきたと聞いた。
その理由までは聞かされてはいないものの――眼前の稚女の態度からして、2人の間に何かあったのは明らか。
本来ならば、事前の申請が必要なのだが――
そんなことを考えながらも門衛は、独断専行は許されない。ゆえにシリウス第3王子本人の意向を聞くため、彼女へと告げた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
けれどレイは知っている。
(どうせ断られるのはわかりきってるんだけどね……はは……は……はぁ……)
だが、絶対に断られる可能性も0ではない。もしかすると、一晩の間に、何か考えが変わっているかもしれない。そんな淡い期待を灯さずにはいられない。
(……シリウスが会ってくれるって言ってくれたら、ちゃんと謝ろ。んで、怒ってる理由を理解してないこととか、シリウスと仲良くなりたいってこととか、ちゃんと言おう。もしかすると、シリウスとまだ仲良くなるチャンスがあるかもだし……っ!)
暗く沈んだ気持ちを持ち直す為、内心で考えを纏めながらも待つこと数分。
謁見の可否を確認し終えた門衛は、レイの元へと戻ってくるなり、眉尻を下げ報告する。
「申し訳ございません。本日、シリウス第3王子は執務の方が忙しいらしく……謁見は不可となります。もし、至急の要件がございましたら、言伝として承りますが?」
レイはそれを聞いた瞬間、どうしてかわからないが、胸が張り裂けそうになった。
いや、理由はわかりきっている。シリウスに会えないということは、自身の元に、大鎌をもった死神がやってくるということ。つまり、このまま行けば待つのは処刑エンド。
ゆえに、胸が張り裂けそうになった。
しかし、何の関係もない人に、それもわざわざシリウスに会いたいって言ってるよって、確認してくれた人に、これ以上迷惑などかけられない。
レイは貼り付けたような笑みを浮かべると、空元気な態度でお礼を述べる。
「あ、そーですよね。くち……づけ? は……うん、よくわかんないけど、わかりました! また後日伺います!」
そして、門前から王宮を見上げると、一拍。すぐさま踵を返すのだった。
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(はあ……やっぱ会ってくれないよね……。うん、知ってた。ていうかなんで、門番の人が口付けとか言い出したのかはわかんないけど、チューしたら、シリウスに会わせてくれるってことだったのかな? いやいや、無理無理。流石に知らない人にチューなんてできないし。ていうか、あの人ロリコンなのかな? 普通はさ、留守電みたいに伝言聞くよ〜って言うじゃん? なのに、口付けって絶対おかしい!)
ぽっかりと空いたような虚無感。そこに問題発言をしてきた門番への不満を落としながら、とぼとぼと帰路を辿るレイ。
けれど、その足は重く。踏み出す一歩に力が籠ってしまう。
その感覚が煩わしく。彼女は思わず足を止めると、再び空を見あげた。
(うわぁ……やっぱ、空青い。なんかソーダみたいに青い。ていうか、空見てたらガ○ガ○くん食べたくなってきた。シリウスガ○ガ○くんすきかな? ……いや、シリウス、ガ○ガ○くん好きかもだけど、私のことが嫌いなんだった……はあ……)
とはいえ、こうなったのは絶対、シリウスのせい。
理由の分からない苛立ちをぶつけてきた挙句、謁見拒絶をしてきたのだ。彼が、もう少し歩み寄ってくれれば、門番さんがロリコンだったことも露見せずに済んだのだ。
つまり、原因はシリウスで――
いや……それはなんか違うのかもしれない。そもそも、今回の件でシリウスの屋敷に向かったのは、1回目。本当に執務が忙しかった可能性は十分に有り得る。それに加え、遅かれ早かれ、門番さんの性癖が露見してしまうのは必至だったかもしれない。にもかかわらず、すぐシリウスのせいにするのは、自己正当化であり、責任転嫁もいいところ。
レイは、そんな自身の性格の悪さに、思わず溜め息を漏らしてしまう。
(はあ……こんなんだから、もしかしたらシリウスに首刎ねられちゃうのかな? ほんと、このままいけば、私死んじゃいそうだよねぇ〜。なんか自業自得なように思えてきた……)
とはいえ、みすみす殺されるような真似をするつもりも毛頭ない。
あの日、自室にあった本の山が倒壊し、そこで偶然見つけたétoile princeという小説を見つけ、ここが小説の世界(?)であり、聖女を虐めた罰として、シリウスに首を刎ねられ死ぬ運命だと言うことを知った。
しかし、いくら内容を読み込んだところで、メインストーリーは聖女とシリウスの恋愛譚。レイ・ヴァーティンの断罪イベントを回避する方法など見つからなかった。
それは裏を返せば、どれだけ努力しても死を回避することができないということかもしれない。
(……私の努力ってなんの意味もなさないのかな? シリウスと仲良くなれないとか? それとも、聖女が現れた瞬間、私が身を引けば……)
最悪のシナリオを想像する度、賽の河原で石を積上げていくような心細さが、募っていく。
しかし――
「ううん、諦めない。きっと大丈夫。二度目の死なんて絶対やだ。だから……」
レイは根拠のない励ましをしながらも、再び歩みを始める。
帰る場所は、ヴァーティン邸。けれど、真っ直ぐ家に戻る気にはなれない。
彼女は、僅かに考えを巡らせた後、寄り道をすることに。
賑わいを見せるロヴィーナ。
アリスと初めてのお出かけ時のような、不快なアクシデントに遭遇することもなく、あちらこちらで客引きの声が響いている。
そんな市井を見つめながらもぽつり。
(モヤモヤがスゥ〜って、晴れる感じがして来てよかったかも!)
レイはそう内心に呟き落とすものの、やはりしこりのように残った芯は柔らかくなることを知らず、ここに居座り続けると宣言するように最悪の結末が脳裏に過ぎり続けていく。
(……。私、どうなるんだろ……やっぱり死ぬしかないのかな? もしそうなったらシリウスや妖怪火吹きハゲ太郎は喜ぶのかな?)
そんなことを考えながらも、人の視線がやけに怖く見えてしまう。ただ目が合っただけで嫌な気持ちを増幅させ、誰かが笑っているだけで自分の悪い噂をしているんじゃないかと、負の鎖がまとわりつく。
(はあ……、もうヤダ。なんかめっちゃ自意識過剰みたい)
レイは自己嫌悪に陥りながらも、人気の少ない小休憩所へと避難する。
休憩所には大理石で造られたであろう噴水が、バシャバシャッと、一定のリズムで水音を立たせ続けている。
その音に耳を癒しながらも、レイは近くのベンチに腰を下ろすと、はぁ……。大きな息を吐き出した。
視界が滲みそうになるのを必死に堪えながら、ぼんやりと噴水を眺める彼女。
そんなレイの視界の先には、神話かなにかに登場する人物なのだろうか。長い髪を緩く一本に束ねた、凛々しい男性像が佇んでいる。その姿はどこか見覚えがあるような、懐かしいような――
(この人どっかで見たような気が……? いや、気の所為?)
なんとも言えない既視感を覚えさせてくる。
しかし、それ以上の情報は何も持ち合わせていない。まるで、闇の向こうに真実があるように、手を伸ばしても一掴みすらできやしない。
いや、もしかすると、表情なり雰囲気が似ている別人と重ね合わせているだけなのかも……。
レイは、そんな男性像を見つめながらもぽつりと、問いかける。
「これから私、どうなるの?」
だが、彫刻がその声に応じるわけもなく。ただ、爽やかながらも、どこか湿っぽい風が、彼女の頬や首筋を撫で緩やかに吹き抜けていくばかり。
「私、何してるんだろ?彫刻が喋るわけないじゃん……」
レイはそう自虐的に呟きながらも、じっと彫像を見つめ―




