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悪嬢転生!?〜8歳の悪役令嬢?に転生した私は、10年後、内定婚約者である第三王子に首を刎ねられるみたいなので、今のうちに関係修復頑張ります!〜   作者: 月末了瑞
シリウス真相編

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6話:理不尽な怒り、加速していく死の香り。私、やっぱり死んじゃうのかな……?


「――お前なんか大っ嫌いだ! クローウィンのことだって、ブドワールのことだって……。お前に振り回されてばっかりだ! 全部、全部お前のせいで……なんでこんなに感情をぐちゃぐちゃにかき乱されなきゃいけないんだよ……! そのくせ、お前はいっつもヘラヘラして……ふざけるなっ…お前なんか、大っ嫌いだ……! もう…もうこれ以上、僕を振り回さないでくれ……っ!」


 シリウスは顔を真っ赤に染め上げながらも勢いよく怒号した。


 だが彼自身、そんなことを言うつもりじゃなかった。にもかかわらず、このモヤモヤとした奇妙な感覚が煩わしくて……。けれど、その感情が何ひとつ理解できず。無意識にレイ・ヴァーティンを否定する言葉を口にしてしまった。


 そんなシリウスの言葉は、広い会場内でもよく通り、周囲にいた貴族たちがみな息を呑む。


 まさかシリウス第三王子が、公の場で内定(暫定)婚約者をここまで罵倒するとはただごとではない。


 しかも相手は悪嬢として有名な、かの“レイ・ヴァーティン”


 流石のセレスティアも驚きを隠せない素振りを一瞬見せたものの、面倒事になりそうだ。と軽く息をつく。


 しかしレイだけは、未だ理解が追いつかず。


 なにも悪いことなんてしていないはず。なのに、突然シリウスから罵詈を浴びせられた。


(ブドワールの件は心当たりがあるけど……クローウィンのことは……よくわかんない。それに、なんでだろ……シリウスは違うことに怒ってる気がする)


 レイは頭を真っ白に染めながら、チラリと彼へと視線を向けた。


 彼女の眼前。何故か、とても苦しそうな顔をしているシリウスの姿が。


 それは自分でも分からない苛立ちを必死に押さえ込もうとしているようで……。


「シリウス、一旦落ち着いて!」


 レイは何もわからないまま、シリウスの両肩に軽く手を置き、彼を諭そうと試みた。

 

 公衆の面前ということも忘れ、普段通り彼を呼び捨てにしながら。


 しかし、落ち着かせようとすればするほど、彼はよけいに怒りを込み上げてしまう。それに相乗効果がもたらされ、周囲の視線が白く突き刺さってくる。


(えっと……干支……干支じゃなくて……えっと……こ、こういう時、どうすればいいの!?)


 そう必死に考えるが、感情が昂っている相手を落ち着かせる術など持ち合わせていない。


 レイは震える声で、「ごめんなさい……」そう小さく謝罪するしかなく……。


 だが、何に対して謝っているのか、それは彼女自身よくわからない。ただ、シリウスの苦しそうな表情だけが胸に刺さり、自分のせい……? と戸惑いに揺れていた。


 そんな彼女の謝罪に、シリウスはカッと目を見開くと、ぽつり。


(……なんなんだよ、その謝罪。何に対してか、どうせお前のことだから理解できてないんだろ!?)


 まるで自身の理解できぬ苛立ちをぶつけるように、そう内心で吐き捨てると、このまま会場に居座り続ければ、よけいレイに酷い言葉を浴びせそうで……。彼は、そのまま(きびす)を返し、会場を後にする。


 ギュッと胸元を強く握りしめ、グッと奥歯を立てながら。


 そんな第3王子である、シリウス・ガリウスが立ち去ると同時。会場が、ざわりとどよめき、あちらこちらでヒソヒソ、コソコソと秘密の会話が交わされる。


「もしかして、婚約破棄、かしら?」


「普段は感情を表にお出しになられぬシリウス第3王子が、あそこまで感情的になるだなんて……」


「これはただごとではないぞ。レイ・ヴァーティンもこれで終わりだな」


「運が良くて、追放のみ。悪ければ、何かしらの重い罰が下されるかもしれませんわね?」


 そんな囁きをチラリと耳にしてしまったレイ。


(なんで? どうしよ……)


 彼女は大きく瞳を揺らしながらも、思わず言葉を失った。


 こういう時、本当はシリウスを追いかけるべきだったのかもしれない。


 待って、お願い! 理由を教えて!? そう会場を後にしようとする彼の腕を掴んで、必死に訴えかけるべきだったのかもしれない。


 だけど、それができなかった。


 いや、そんなもの、現実でできるわけがない。あんなもの、ドラマやフィクションの世界の話でしかない。


 なんせ、彼から理不尽な怒りをぶつけられてしまったのだから。


 ゆえに、レイは必死にその理不尽な怒りを飲み込もうとする。


(意味、わかんないよ……。シリウスが私のこと大っ嫌いなのは最初から知ってたよ? だけど、そんなに怒んなくても良かったじゃん。それに、私への怒りじゃなくて、なんか別の物ぶつけられた気がする!)


 けれどやはり意味がわからない。あれほどまでに怒りを露わにするシリウスなど、初めてみた。


 いや、初めて見たと言うよりも“デ”ビュタント以前は、当分屋敷に来るなと拒絶した挙句、手紙さえ返してくれなかった。いや、それは誤解だ。ちゃんと、シリウスは手紙の返事を送ったと言ってくれた。だから、嘘じゃないはず。それに、ちゃんとデビュタントには来てくれた。


 でも、デビュタントまでは、あの日。シリウスから当分屋敷に来るなと言われて以降、一切顔を合わせていない。


 そして、この社交界の間も数回程度しか顔を合わせていない。


 だから、彼が何を思い、何を考え、何に怒りを露わにしたかなど――シリウス自身ではないレイには何ひとつわからない。


(そんなに怒るなら、ちゃんと理由説明してよ)


 レイはグッと唇を噛み締め、ギュッと握りこぶしを作りながらも顔を伏せる。


 そんな彼女の態度を認めたセレスティア。彼は、冷めた瞳で見つめていたが、これ以上この場に残り続ければ、確実に自身も巻き込まれかねない。それは非常に面倒だ。


 加え、少々面倒くさそう(・・・・・)な婚約者のいる野蛮童女――いや、噂とかなりのズレがある悪名高き“レイ・ヴァーティン”が糾弾される原因となったのは、多かれ少なかれ自身にも原因がある。


 そんな小さいながらも因果の一端を担ってしまった自身が、この場に留まるだけ火に油。


 ゆえにセレスティアは、シリウス同様に会場を後にした。


 そんな彼が会場を後にすると同時。


 視線がレイへと一斉に向けられる。


 そんな悪意に染まった視線に晒され続けるレイ。


 彼女は、どこにもぶつけられない不快感を必死に堪えながらも、ぽろり。


 目頭をほんのりと熱くさせ、唇をギュッと噛み締め一雫の雨を降らせる。


 けれど、それは豪雨ではない。ただ、雨かもわからぬほんの一滴の雫のみ。


 だが、そんな彼女に救いの手を差し出してくれる者などおらず。周囲はただただ、悪意に染まった視線を投じ続けるばかり。


 そんな喧騒が広がる会場の中。


(……ごめんなさい。よく、まだわかってないけど、私が悪かったんだよね? でもシリウスは謝っても許してくれなかった。私、どうしたらいいの? 別に、シリウスに嫌われたままでもいいよ。好きになってもらおうとか思ってないし。でも、死にたくない……。このままじゃ私……シリウスに殺され……ちゃうの、かな?)


 不安が胸を過ぎる。


 デビュタントも成功させ、ゆっくりではあるものの、シリウスとの関係も、頑張って修復しようとした。


 だけど、何もかもが空回りしているようで……。


(私の努力って、何か意味があったのかな?)


 すべてが無意味なように思えてしまう。


 自分なりに努力はした。でもそれは、自分がそう思ってただけで、何も出来ていなかったのかもしれない。


 自責の念が胸を刺し抉る。


 ごめんなさい……。ごめんなさい……。


 そう必死に内心で呟いたところで、既に謝罪を伝える相手が不在。


 レイはどうすれば良かったのか。何が悪かったのか。それを必死に考えながらも、徐々に呼吸を浅くしていく。


 それと同時に、ぐらりと揺れる体。しかし、こんなところで倒れるわけにはいかない。もし、こんなところで倒れてしまえば、よけいにシリウスを怒らせ、ミス・ゴーディスの顔に大量の泥を塗りたくってしまう。


 これ以上、もう自身の周りに迷惑はかけられない。


 孤独が、ぽっかりと空いた心を蝕んでいく。


(苦しい……ううん。多分……シリウスの方が苦しい思いしたんだと思う。苦しくて辛くて、暫定とかそういうのはよくわかんないし、婚約破棄のこともわかんないけど……。多分、シリウスは本当にレイのことが大嫌いだったんだと思う。でも、婚約破棄なんて、簡単にできるようなものじゃないんだと思う。だから、ずっと我慢させちゃってたのかも……)


 ぷかり、ぷかりと湧き上がる罪悪感。答えが見えない真実。


 レイは自傷するように、何度も何度も自身への罪状を内心に落とし続けた。


 そんな壊れていく彼女を見つめるのは、ひとつの影。


『僕が用意したご褒美がどう動くのか――ふふっ。とっても楽しみだね? 破滅に向かうのか、それとも……。まっ、どっちに転んでも僕得でしかないはずなんだけど〜。うーん、でも、どうせならば、修復不可能になるほど壊れてくれた方が後々楽かもしれないね?』


 影は小さく呟くと、ニマリ。不気味な笑みを浮かべレイへと近づいていく。


 そんな不穏な気配を察したレイ。彼女はハッと我に返るように顔を上げ――瞬間。


『ふふっ、キミはね? どう足掻いても幸せにはなれないんだよ』


 近づいてくる黒い何かを認めると、その何かへと手を伸ばすようにして、バタンッ。


 そのまま大理石の床へと崩れ落ちてしまうのだった。


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