4話:初めてのデート! えへへ。私、初めてのデートしちゃったよ!・4
◇◆◇
再び露店巡りを始めた2人。
「お嬢様、何が食べたいですか?」
レイはアリスのその問いかけに、キョロキョロと辺りの露店を見渡し、考える。
肉や魚の串焼きに、栗やビスケットのデザート系。どれも美味しそうではあるのだが――
そう思いながらも、パッと、とある串焼き店に目がいった。
とはいえ特に、目を引くものがないただの店。店主はどこか優しそうだが、串焼き用の肉も質の良い肉とは言い難い。
(あの店、なんか気になるけど……こんなの食べてたって知ったら、どうせあのハゲの人がグチグチ小言攻撃してきそうだな〜)
内心でそんな未来予想をしながらもレイは、そっと目を逸らし、他の店へと視線を投じる。
だが、アリスはそれを見逃さなかった。
レイお嬢様の視線を辿った先の串焼き露店。それに気づいたアリスは、懐かしむように目を細めると、ぽつり。
(あの店は……ふふっ。レイ、お嬢様らしいですね)
内心で納得を示してしまった。
そして、串焼きが気になりますか? と聞こうとした矢先。レイお嬢様が食べたいものを決めてしまったらしい。
「よし、ビスケット食べよう!」
それを聞いたアリスは、「かしこまりました」と一言。
「では、レイお嬢様は先ほど座っていたベンチの方でお待ち頂けますか?」
そうお願いをすると、彼女はビスケットとそれ用の“ミルク”を購入する為、一旦レイお嬢様の元を離れるのだった。
◇◆◇
ベンチに腰掛け、ミルクに浸しながらビスケットを食べる2人。
使われている素材は質素なもので、小麦に蜂蜜。それからちょっとしたスパイスが入っている簡素なもの。しかし、水分量が少ないからか――それとも元来、ビスケットとは、保存食として作られていたからか、思いの外硬かった。
「なんか、あんまり食べ慣れないけど美味しいね!」
レイがにっこり笑顔で言うと、アリスはそれを肯定するように、「そうですね」と一言。ふふっと笑う。
それは、平和で穏やかな時間。
(最初は馬車の事故現場見ちゃって、気分最悪だったけど、誰かと一緒に話しながら食べ歩くのって、やっぱりいいよね〜)
レイはそんなことを内心でぽつりと呟き落としながら、一拍。ふと、とあることに気づいてしまう。
ニマッと悪戯げな笑みを浮かべるレイお嬢様。
お嬢様は何を考えたのか。じっとアリスを見つめるながらも、喜色満面な笑みを浮かべ、問題発言を口にする。
「ねぇ! これデートって奴じゃない!? 私の初デート、アリスに取られちゃった!」
「……へっ?」
レイお嬢様は恐らく、素直に思ったことを口にしてしまっただけなのだろう。しかし、アリスからすれば唐突な発言。
突拍子のないそのセリフにアリスは、思わず手に持っていたビスケットを落としてしまった。
「あ……」
石畳の上をコロコロと転がり倒れるビスケット。アリスはそれを見つめながら、シュンッと肩を落としてしまう。
だが、それを見たレイお嬢様は何を思ったのか――
「ふんぬっ!」
と不思議な掛け声を上げながらも、パキンとお嬢様が持っていたビスケットを突然2つに割り始め、それを「はい!」と言って、アリスへと差し出してきた。
「え?」
しかし、突然『はい!』とビスケットの半分を渡されても理解が追いつかない。アリスは目を点にしながらも、レイお嬢様を見つめた。
そんなアリスの困惑に気づいたのか、お嬢様ははにかんだような笑みを添えながらも、予想外なことを口にする。
「アリスのビスケット落ちちゃったから、私と半分こしよ? あ、私の食べさしじゃない方だから安心して!」
それはレイお嬢様の純真無垢な優しさ。アリスは、そんなレイお嬢様の優しさに、どこかドギマギした感情を抱えながらも、お嬢様の優しさを無下にするわけにはいかない。
どうするかほんの少しだけ悩みながらも、「ありがとうございます」と一言。謝意を示し受け取った。
けれどその発言は何かおかしかったらしい。レイお嬢様はきょとりと小首を傾げながらも、自身の考えを共有してくれた。
「なんでありがとうなの? アリスが買ってきてくれたんだから、当然の流れじゃない?」
そんなレイお嬢様の優しさに、アリスは心をポカポカさせながらも、くすり。
「ふふっ。そうですね! では遠慮なくいただきますね?」
そのままの流れで、“デート”という言葉に関して言及した。
「ところでお嬢様。初デート相手に私がなってしまいますと……シリウス第3王子に怒られちゃいますね?」
しかしレイお嬢様はアリスの発言をすぐさま一蹴してしまう。
「え、なんで? そんなことないでしょ? シリウスってさ、私のことなんとも思ってないよ? 多分、命令されたから仕方なく私との婚約関係続けてるだけじゃない?」
その態度は、本気でそう思っている人のそれ。けれどアリスには、シリウス第3王子が本当にレイお嬢様の言っている通りなのか――疑わしかった。
アリス自身、シリウス第3王子のことなどほとんど知らない。知っていることと言えば、第三王子だが王位継承権がほぼないということくらい。
そんなシリウス第3王子だが、お嬢様のデビュタント当日。遅刻しながらもレイお嬢様の元へと赴いている。
加えて、ブドワールに連れ込まれたと言うにもかかわらず、未だに婚約破棄はおろか、数ヶ月後の王家主催の社交界にて、レイお嬢様を“パートナー”として呼んでいる。
いくら王族の努めとはいえ、本当に嫌っているのならば、スキャンダルだらけの内定(暫定)婚約者など直ちに切り捨てることも可能というもの。
なのに、それをすることがない。ということは――嫌っている素振りは何かしら別の要因があるから。
アリスは、そんなことを考えながらも、くすり。
「分かりませんよ?」
と、揶揄い混じりに微笑んだ。
それを認めたレイお嬢様は、絶対、私のこと嫌ってるよ〜と言いたげな困り笑いを浮かべながらもぽつり。
「うーん。じゃあ、二人だけの秘密にしとく!」
そう言って、半分に割ったビスケットをミルクに浸しふやかしながらも、食べ進めていく。
そんな2人の頭上に浮かぶ空は蒼く澄み渡り、数時間前に事故現場に遭遇した同じ日だとは思えない。それに、どうにか負傷者の手当てなど終えたのか、いつの間にか教会の使者らのいなくなっている。
(ほんと、平和だな〜)
レイはそんな幸せな時間を噛み締めながら、その後もアリスとデートを楽しむのだった。




