20話:ねぇ、待って!? 私やらかした! ねぇ、やらかしちゃったんだけどどうすればいい!?・前編
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馬車に揺られ着いた会場。レイはバルドフたちと共に馬車を降り、ピタリと足を止めてしまった。
そこは広い前庭が広がり、奥にはネオクラシカル様式が用いられ、大きなロゼット柄の窓や、|優美な装飾が施された《壊したらちょー大変そうな》階段が、レイの入場を今か今かと待ち構えていた。
そんな壮大な外見を持つ会場に、レイはゴクリと唾を呑み込む。
(大……丈夫だよね? ここで失敗すれば、もう笑いもんだよ……。あ、いや。まだ始まってないのに、今から失敗ばっか考えてたら始まらないよね! うん、大丈夫。私は強い、私は最強!)
そんなことを内心に呟き落としながらもレイは、会場へと足を踏み入れてしまう。
豪奢なシャンデリアの光が眩しい会場内。
一面を覆う大理石の床の一部には、赤いカーペットが敷かれ、その上を令嬢や令息などが優雅に歩いている。そんな貴族たちを大理石でできた床が反射し、ここは“異世界”であると、ひしひし伝えてくる。
(うう……めちゃ怖いんですけど……)
そう内心で呟きながらも、眼前の普通じゃない世界にレイは、思わず足を止めかけた。
瞬間。
「お嬢様、気をわず堂々とした態度を貫いてくださいませ!」
いつの間に着いてきたのか。いや、何故この場にいるのか。突然、何の心の準備もなかったレイの耳元に、アリスの声が打たれる。
その突然なできごとに、彼女は思わず全身を粟立てながらも、うぎょっ。
「え、待って、これ夢? えっ、なんでいるの!?」
彼女は肩を大きく跳ね上がらせ、異怪にでも遭遇したように目を見開き思わず問いかけてしまった。
「ふふっ。モブリーヌ様に連れてきて頂きました!」
そんなレイお嬢様の反応を認めたアリスは、悪戯気な笑みを浮かべながらも、そっと優しくレイお嬢様の背中を押す。
「お嬢様、お嬢様はお嬢様らしく。ありのままの自分でいいんですよ?」
それを受けたレイは、目頭をジーンっと熱くさせながらもコクコク。
中程度に何度も頷きながらも、「う、うん! ありがとうアリス! 私、頑張る」そう言って、両掌を握り胸の前で小さくガッツポーズをすると、背筋を伸ばし赤いカーペットの上を歩き始める。
(びっ、びくりした〜! アリスが着いて来てるとか知らなかったんだけど!? ねぇ、もしかしてみんな、サプライズ好きだったりする!? いや、嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ、誰だっけ? モブ? モブさん、そこ教えといて!? ほうれん草大事! 私、めっちゃびっくりした!)
そんな彼女の眼前。レイよりも華やかなドレスやタキシードで着飾る貴族たち。彼ら或いは彼女らは、なんの話をしているのだろうか。貼り付けたような、薄気味悪い笑みを浮かべながら、静かに会話を交わしている。
(みんな、すんごくおしゃれだな〜。でも、なんでだろ? ここにいる人たち全員、なんか心がないみたいにほんとの笑顔がない気がする……)
そんなことを考えながらも、そう言えば……。神代かぐやだった頃の最期。あの時も今のように、ゾッとするようなホラー・スマイルマスクのような薄気味悪い笑みを浮かべた人たちが、自身にスマホを向けていたような気が……。
そして、そんな人たちから死を望まれるように誰も救急車を呼んでくれず……。気が付けば、ドッキリの被害者にされてここにいて……。
(あの時みたいでここ、なんかやだな……)
レイはかぐやの最期を思い出しながらも、胸にじゅくりとした痛みを覚えてしまった。
しかし、それもこれも全部、周囲の目が悪い。
(うう……。なんかめっちゃ白い目で見られてる気がするんだけど!? ねぇ、笑顔じゃない笑顔を浮かべながら私の方見るのやめてくんない!?)
レイはそんな白眼視に萎縮しながらも、会場内を見渡した。
豪華な空間、華やかさの裏に微かな孤独が漂っている。それはまるで、『どこにもお前の居場所などないんだぞ』と知らしめてくるよう。
(だ、大丈夫、うん。大丈夫だよ、私! アリスも背中を押してくれた。だから、大丈夫!)
そう不安を払拭するように内心で呟くも、耳を澄ませば聞こえてくるのはレイ・ヴァーティンの噂ばかり。
「あれが噂のレディ・ヴァーティンですわね。
噂通り――いえ、噂以上に淑女の嗜みを心得ていないようですわね」
「そうですわね。そもそも、デビュタントは通常10歳から行う洗礼の儀。にもかかわらず、8歳で行う時点で心得がないのは理解できますわ」
「しかし、それにしても、パートナーを付けずに“一人”で入場をするとは、ある意味で肝が据わっていると言えよう」
本来ならば、主役である彼女は、控え室を経由し、内定(暫定)とはいえ、婚約者であるシリウスを待った後に入場するのがマナー。
にもかかわらず、レイはあろうことかそれをせずに一人で入場をしてしまった。加え、ハゲ男であるバルドフらは、レイがちゃんと自分たちの後ろに着いてきているものとばかり思い――そのままレイ不在のまま控え室の方へと足を進めてしまった後。
ゆえに、周囲の貴族たちからの白眼視は免れない。
だが、レイは家庭教師であるマクベル・ゴーディスから受けた指導部分のみを覚え、話の大半を聞き流している。そのせいで、何故自身が周囲から白い目で見られているのか――わからない。




