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悪嬢転生!?〜8歳の悪役令嬢?に転生した私は、10年後、内定婚約者である第三王子に首を刎ねられるみたいなので、今のうちに関係修復頑張ります!〜   作者: 月末了瑞
デビュタント編

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19話:レビュタント当日に、変な夢見たんだけど!? え、大丈夫だよね!? レビュタント、成功するよね!?・後編

 ◇◆◇


「お嬢様! いつまで寝てらっしゃるのですか!? 今日はレビュタント当日! そんな体たらくではいけません!」


 ガバッと掛け布団(デュヴェイ)を剥ぎ取られる感覚と共に、ミス・ゴーディスの怒号が響き渡る。


「ひゃ、ご、ごめんなさい!」


 その怒声に大きく体を跳ね上げさせながらも、転げ落ちるようにしてベッドから降りるレイ。彼女は理解不能なこの状況に、思わず内心で困惑を示した。


(ひぇ、なんでお化け魔王女がいるの!? 私さっき寝たばっかだよ!? ほんと、なんで!?)


 しかし、ここが夢の中でないことくらい、嫌でもわかる。いや、そもそもお化け魔王女が夢にまで出てこられては最悪でしかない。


(え、また私のプリン取りに来た!? それとも今度は、私のトモサンカク取られる!?)


 内心で、ここが夢なのか現実なのかと戸惑いながらも、じっとお化け魔王女改めて、ミス・ゴーディスを見つめること数秒。


『…………………………………………』


「お嬢様、デビュタント最後のレッスンです」


 お化け――ではなく、ミス・ゴーディスはそう言うと、壁際に待機していたメイドに声を掛け、朝食を摂る暇さえ与えられず、時間ギリギリまでカーテシーや、ダンスの基礎、それから軽い挨拶の練習まで、様々な拷問地獄を味わわされた。


(はあ……これ朝からするもんじゃないと思う! めっちゃ眠いし、レビュタントする前に、私しんじゃう! ていうか、これろーどうきじゅんほー違反だと思う! 私働いたことないからわかんないけど、多分これ法律違反だと思う!)


 内心で不平不満を並べながらも、ギリギリまでレッスンに明け暮れたあとは、ようやく休憩――っ! わーい! とはいかず。すぐさま控えのメイドに拉致されたかと思えば、とある一室に監禁された挙句、顔に落書きを施されていく。


 下地(ベース)として、蜜蝋やアーモンド油などの成分が入ったコールドクリームを顔全体に塗りたくられ、色消し(カバー)酸化亜鉛(賢者の羊毛)を飼っていたクマを隠すようにして、念入りに塗り込まれていったかと思えば、仕上げに、真珠の粉でほんのりと頬に血色を差され――健康そうな肌が人力で作られていく。


 もちろん、レイの許可なく勝手に。


 とはいえ、レイはメイドたちの勝手な行動など咎めることなく。むしろ目をキラリと輝かせて興奮気味。


(おぉ〜! なんかめっちゃ大変そー! でも、なんかレイってちょー冷たいイメージあるから、こっちの方が人形みたいで可愛いと思う! うん、私が男だったらこの子にぎゅーって抱きしめて! って言っちゃうかも!)


 そして、ほんのりとベリーピンクの紅を差されたと同時。ミス・ゴーディスが様子を窺いに監禁部屋へとやって来――一拍。軽く頷くと言葉を紡いだ。


「まあ、及第点と言ったところでしょう。後はお淑やかに、これ以上恥の厚塗りをしないよう努めてください」


 その声は冷たく、どこまでいっても事務的。しかし、その表情は最初の頃よりもほんの少しだけ和らいでおり、ミス・ゴーディス本来の優しさのようなナニカが滲み出ているようにも思えた。


 そんなミス・ゴーディスを前に、少しだけ緊張の糸を解いたレイは、にこやかな笑みで、カーテシーを披露する。


「ミス・ゴーディス。絶対、成功してきます!」


 そして、そのまま馬車に乗り込もうとしたのだが――


「お嬢様! 角度が足りません! 会場では、あと五度。しっかりと膝を曲げ、くれぐれも失態のないように!」


 そう言って、最後の指導を施されてしまうことに。


(うぅ……やっぱり、優しい人だと思ったの、私の勘違いだったかもしれない! ちょっとくらい褒めてくれたっていいじゃんケチ! だから、お化け魔王女って言われるんだよ!? ほんと!)


 レイは内心で頬を膨らませながらも、ミス・ゴーディスに反発するつもりなど毛頭ない。ゆえに、小さく頷くと、「行ってきます!」そう元気に挨拶をして、ミス・ゴーディスへと背を向けた。


 そんなレイ・お嬢様を見つめるマクベル・ゴーディス。彼女は、ホッと安堵の息を吐き出しながらも、静かに内心で本音を漏らす。


(デューク・ヴァーティンが仰っていた“問題児”がこの程度のものでしたら、すべての御令嬢たちが問題児になってしまいますわね)


 どんな家庭教師ですら一日も持たず、音を上げるほどの“問題児”と聞いていたマクベルは、最初。デューク・ヴァーティンからの依頼に、あまりのり気ではなかった。


 なんせ、本来ならば幼少期から覚えていくべき淑女としての基本を叩き込むべきところを、一ヶ月も満たない期間の中で成果を出せという無茶振りを依頼されたのだ。難しいに決まっている。


 ゆえに、どうやって断ろうかと考えてしまった。


 しかし、どれほど悪名を馳せる“問題児”とはいえ、相手は公爵家の御令嬢。しかも、未来の王になるかもしれない第3王子の内定(暫定)婚約者。建前上は依頼を拒否することは可能とはいえ、社会的な圧力や推薦状の有無に帰属する家庭教師(ガヴァネス)は、最上位貴族の依頼を断りづらい立場にある。それに加え、どれだけ厳しく指導してもらっても構わない、依頼料も希望額を出すという徹底ぶり。


 この依頼を円滑に断るには、デューク・ヴァーティンよりも高貴な立場からの予約――つまり、王家からの予約があれば良かったものだが……。残念ながら、そんな上手い話はなく。結果、受けざるを得なくなってしまった。


 しかし、現実は想像していたものとは異なっていたレイお嬢様は、デューク・ヴァーティンとの前条件通り、どれほど厳しく指導しても必死に食らいつき、決して途中で投げ出すことはなかった。


 マクベルは、レイお嬢様の前評判を再評価し直しながらも、くすり。


「お嬢様、少々お耳を」


 再び馬車に乗り込むレイを引き止め、とある“助言”を口にした。


 それを耳にしたレイお嬢様。彼女は、意味がわからないと言いたげに、「へ?」っと淑女らしからぬ間の抜けた声を漏らしながらも目を丸くする。


 しかし、きっとマクベルの助言は、レイお嬢様の役に立つはず。彼女は、それを確信していた為、「すぐにわかりますよ」と一言。レイお嬢様を見送った。


 けれど、レイお嬢様はやはり最後まで理解することは叶わなかったらしい。


「……わかりました……?」


 そう疑問形で応じながらも、元気の良い態度で、馬車に乗り込んだかと思えば、車窓から突然顔を出し、


「行ってきますーす!」


 そう言って、マクベルに手を振りだしたのだ。


 彼女は、そんなレイお嬢様の終始ブレないズレた部分に、一瞬だけ頭を抱えそうになるものの……。これでは素晴らしい淑女に育てることは叶わない。


 それに加え、ミス・ゴーディスでさえ、あの“レイ・ヴァーティン”を矯正出来なかったと噂されてしまえば、今後の契約に支障が出てしまう。


 ゆえにマクベルは、呆れをぐっと飲み込むと、最後の注意を促した。


「お嬢様! 窓から身を乗り出すなど令嬢に有るまじき行動です!」


 その言葉に、ハッとした表情を浮かべるレイお嬢様。彼女は、自身の行動が、淑女らしからぬものだと理解してくれたのだろう。


 バツが悪そうに微苦笑を浮かべたかと思うと、すぐさま馬車の中へと体を戻し、何ごともなかったかのように馬車は、そのままデビュタント会場へと向かうのだった。


 そんな馬車を見つめるマクベル。彼女は、レイお嬢様の最後の指導を行う数時間前、デューク・ヴァーティンから呼び出しを受けたことを思い返す。


 最初はどんな罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられるのかとドギマギしたものの、デューク・ヴァーティンの口から飛び出してきたのは、思いもよらぬ打診。


「ミス・ゴーディス。もし貴女さえ嫌でなければ、レイの“家庭教師を継続”してくれる気はないか?」


 そう言われた瞬間マクベルは、大きく瞳を揺らした。しかし、レイお嬢様は、一ヶ月という短い期間の中。多くのことを不器用ながらも、しっかりと吸収してくれた。ゆえにマクベルは、悩む間もなく即答した。


「もちろんでございますわ」


 それを思い返した後マクベルは、軽く微笑みを浮かべるとぽつり。再び内心に本音を吐露した。


(不安が大きく、本来ならば会場の控え室にて行うメイクなどを屋敷内にて行うほどギリギリまでおさらいをさせてしまったのは、少々やりすぎてしまいましたかね。とはいえ、レイお嬢様も成長なさりましたし。(わたくし)も何度も口酸っぱく控え室に行くことをお伝え致しましたので、問題はないでしょう。レイお嬢様、貴女はこれからもっと素晴らしい淑女になることでしょう。末永くよろしくお願いしますね?)


 ◇◆◇


 一方、お化け魔王女――改め、ミス・ゴーディスの雇用延期が決定してしまったことなど露知らぬレイはというと――


 車輪と馬蹄が奏でる規則的な音が響く車内。


 レイもまた、ミス・ゴーディスのことを考えていた。


(ミス・ゴーディス、ほんと怖かった……。でも、根は酷い人じゃないっぽいんだよね……。私の勘が正しかったら!)


 そんなことを内心で落としながらも、蘇るのは怒られてばかりの日々。


 レイはその事実に苦笑を浮かべるも、ギュッと小さく手を握り意気込む。


(ミス・ゴーディスの顔に泥を塗らない為にもちゃんと、レビュタントを成功させなきゃ!)


 しかし、一人だけでレビュタントを成功させるのは、現実的に不可能。少しでもエスカルゴ(・・・・・)役であるシリウスの機嫌を損なえば、それだけで成功から遠のいてしまうというもの。


「はぁ……。シリウスからの返事、結局来なかったな……」


 レイは、震える手をぎゅっと握りしめ、車窓から流れる景色に目をやりながらも、ぽそり。今日のレビュタントが成功するよう、いるかもわからぬ神に祈りを捧げるのだった―

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