16話:ねぇ!? 私ターキーになるのかと思ったら、無理ゲー地獄に連れていかれたんだけど!?・前編
ルンルン気分で屋敷へと戻ったレイ。
(う〜ん……?)
しかし何があったのか。屋敷に入る前から何故か慌ただしく、メイドの大半が疲弊中。加えてアリスの魂は抜け落ち、側だけが取り残されたようにして放置されている。
(どうしたんだろ? ハゲの人メタボっぽいし、私抜きで運動会でもやってたのかな? それで、最下位になった人には罰ゲームでビリビリボールペンでもして、魂抜けた感じかな?)
そんなことを考えながらも、アリスやメイドのことなど気にとどめることもなく。
(まっ、私には関係ないことだろうし、早く部屋か〜えろ!)
そう内心に落とし込むと、晴れやかな気分でスキップしながら、正面口から堂々と屋敷内に足を踏み入れようとした。
しかし――そんな彼女に待ち受けていたのは過酷な試練。
「お、お嬢様!」
かなり疲弊しきったいつものメイドが、息を切らしながらもレイを呼び止めると同時。アンデッドのように何かを探し彷徨っていたメイドたちに包囲されてしまう。
それは唐突なできごとであり、事前に通告されてもいない。
(え、なにこれ。なんかイベント始まる感じ!? キャンプファイヤーとかする? そこで私を焼いたり……!? えっ、待って!? 有り得そーじゃない? 逃げる? 逃げた方がいいよね!?)
なぜ自身は死にかけのメイドたちに囲まれているのか。運動会の後といえば昔はキャンプファイヤーと共に、|Turkey in the Strawのリズムに合わせ、皆で踊っていたという。
(ターキー……ヤカレル……ワタシ、ネンリョウニサレル……?)
それに気づくと同時。レイの脳内ではビーーーッ! という警告音が轟くようにして鳴り響く。
(ここは逃げるが勝ち! なんかそんな気がする!)
レイは本能に従うように、自身を包囲するアンデッドたちから逃げ出そうと一歩、足を踏み出し――直後。
「お嬢様、どちらへ向かわれようと?」
いつものメイドが、圧を滲ませた笑みを浮かべレイの肩を掴んだかと思うと、無言でどこかへと連行しはじめる。
「え、待って待って!? 私今から誘拐でもされる!? いや、焼かれる? どっち!? いや、どっちでもいい! でも、焼いても美味しくないよ!? 私、ターキーじゃないよ!? ノー七面鳥! それに、私を誘拐してもお金ないよ!? お金出ないよ!? 給料安くて不満があるんだったら、ハゲに直談判して!?」
今から何が起こるのか、何も理解できないレイ。ゆえに必死に自身に危害を加えても、何も利益にはならないことを口にするが――何故なのか。いつものメイドはおろか、その他の自身を包囲するアンデッドメイドたちも彼女の発言など、右から左へと聞き流し、屋敷の奥へとズンズン、ズイズイ進んでいく。
そんなメイドたちを挙動不審に見遣りながらもレイは、必死の説得を試みる。
「いや、待って!? 私の話聞いてた!? ねぇ、一回落ち着いて!? 早まっちゃダメ! まだ大丈夫だよ!? だから一旦落ち着いて、深呼吸。ホラ、火の呼吸やると、代謝アップでダイエット効果にも良いんだよ!?」
だが、誰も耳を傾けてくれない。アリス同様に魂を抜き取られてしまったかのような無表情で、どこか明確な意思をもって突き進むばかり。
(え、本気でヤバいやつじゃない? 私の知らないうちに、この屋敷お化けに乗っ取られた!? そして私もお化けにするため、お化け大魔王のところに連れていかれる感じ!?)
様々な可能性を考えてみるも、どれも有り得そうで真相に辿り着くことができない。ゆえに、積もり続ける焦燥感。
(ねぇ、お願い! 神様、仏様、魔王様! 私を助けて!? ヴェレリウスとかっていう邪神? でもいいから、誰か私を助けて!?)
内心で神頼みを試みるも、急にピカッと周囲が光り、ヒーローが現れ窮地を救ってくれることもなく。
やがて辿り着いた応接室。
そこでいつものメイドは、トントンッと軽くノックをすると、無言で中に入るよう促した。
その瞳は普段以上に冷え冷えとしており――
(あっ、この目知ってる……。逆らったら殺される奴だ……)
レイはそれを瞬時に理解すると、深呼吸をひとつ。腹を括って、ええいままよ!
扉を開け放ち、応接室へと足を踏み入れた。
同時――ピリついた空気がレイの肌を刺す。
彼女の眼前。どこか焦りと怒りを覚えるハゲ男と、ミントグリーンのウェーブヘアを持つ優雅なおば――お姉さんが。そのお姉さんの佇まいは凛としており、美しくも強い女性のような雰囲気が醸し出されている。
しかし、かなり不機嫌らしい。怖い人感が隠しきれずに滲んでいるような気が。
(え、この人誰!? なに、この人がお化け大魔王!? 大魔王じゃなくて、お化け魔王女!?)
レイはドギマギとした気持ちをよけい募らせながら、じっとお姉さんを見つめ続けた。
すると、そんな彼女を認識していたであろうお姉さんは、圧をかけるような瞳でくすり。開口一番に、刺々しい言葉を投げつけてきた。
「随分と遅いご帰宅ですね、レイお嬢様」
優雅な言葉で包んだあからさまな皮肉。流石のレイもその刺々しさに気づかない訳もなく……。
「えっ、えっと……?」
説明を求めようと、必死につぶらな瞳攻撃をハゲ男の背中へとぶつけた。
だが、ハゲ男は説明放棄を選択したのだろう。微動だにすることはなかった。
誰かもわからない眼前のお姉さんに、動かぬハゲ男。レイは困惑げな表情を浮かべ、どうすべきか。必死に、逃げる方法を考える。
そんな彼女の行動は、お姉さんの地雷を踏み抜いてしまったのかもしれない。お姉さんは、若干眉根を寄せつつも美しきカーテシー攻撃を繰り出した。




