7話:ねぇ、待って!? これってもしかして、カーテンでドレス作るフラグ、ビンビン立ってたりする!?・後編
◇◆◇
一方、王宮兼ガリウス邸はと言うと――
白髪混じりでモノクルを付けたダンディな執事。彼は、配送屋から手紙を受け取った後、その仕分け作業を行っていた。
「これは、リゲル陛下への要望書。こちらは、ベテルギウス坊っちゃま。それからこちらは――」
そして、そこまで言葉を継ぐと、執事はピタリと手を止めてしまう。
赤い封蝋が異様なほど厚く、まるで血が煮詰めて固められたような奇妙な手紙。
「これは一体……」
執事は、ドギマギとした気持ちを抱えながらも、封蝋を確認しようと裏面を向け――ギョッと目を見開いてしまった。
封蝋は殆ど家紋が潰れぐちゃぐちゃ。とはいえ、どういう風の吹き回しか。丁寧に、レイ・ヴァーティンと送り主の名が記されている。
「これは……」
彼は、その手紙をじっと見つめながらも、シリウスに報告するか否かを考える。
そもそもシリウスは、レイ・ヴァーティンに対し、複雑な気持ちを抱えている。ゆえに、まだまだ成熟しているとは言えない彼にこの手紙を報告するということは、地雷を踏みに行くも同然。
だが報告しなければ、それは業務違反にもなりかねない。執事は、悶々とした気持ちを抱えながらも、意を決してシリウスへと彼女からの手紙を報告することにした。
「坊ちゃん、お手紙が……」
そう、遠慮がちに告げる執事。そんな彼の手には不格好で不気味な手紙が握られている。
それを認めたシリウスは、執務の手を一旦止めると、軽く睨みつけるように執事へと問いかける。
「誰からだ?」
「それが……」
言葉を濁す執事に、シリウスは疑問を抱きながらも蝋まみれの封筒を見て、一瞬言葉を失う。
しかし、こんなことをするのは……。すぐさま思考を巡らせると一言。
「燃やしておけ」
送られた手紙に目を通すことなく、冷淡な声音でそう命じてしまった。
その声音から滲むのは、歪んだ憎悪。
執事はその回答を受けるやいなや、「かしこまりました」と一言。軽く敬意を表すると、静かに執務室を後にした。
そんな執事の気配が消えると同時。シリウスは、ソッと椅子から立ち上がると、窓辺へと移動しぽつり。
「レイ・ヴァーティン。お前は何を企んでいる?
いや、面倒ごとだけはよしてくれ」
警戒した態度で、小さく言葉を紡ぐのだった。
◇◆◇
その夜。
シリウスが手紙を読むことなく処分してしまったことなど知らぬレイ。
「もう手紙が届いてると思うけど、郵送事故とか遅れることもあるかもだし……よし、念には念を!」
彼女はそう独りごちると、すぐさまレターセットと羽根ペンに手を伸ばし、再び手紙をしたためる。
“拝啓
花冷えの日が続いておりますが、貴様におかれましてはお元気で“お”過ごしていると存じます。
えっと……普段から至らない私ですが、先日送った手紙は届きましたでしょうか?
もう、ひと月もしないうちに社交界デビューになるんです! ドキドキして夜しか寝れません! あっ、社交界レビューの時はパートナーが必要とのことなので、ぜひシリウス様にお願いしたくて……えっとエスカルゴして下さい! あとそろそろ仲直りしませんか!?
敬具”
そんな手紙を書いた後は、前回同様に封蝋をする。初めてした時よりかは幾分マシにはなっているものの、まだまだ不格好で美しさの欠片はありもしない。
しかし、どんな形であれ書くことに意味が宿る。ゆえにレイは、翌日。その手紙を当然の態度でメイドに託した。
そして、返信の有無を確認した後、再び仕立て屋巡りの旅へと出かけた。
けれど、成果は前日同様に零。と言うよりも、前日と同じような形で門前払い。店によっては、入店と同時にさようなら〜!
まるで疫病神とでも言いたげに、聖水を撒く店主や、悪魔かなにかと勘違いされたのか。十字を切る店、その場でホワイトセージを炊く店など、レイの扱いはかなりのもの。
そんな理不尽にも折れることなく、必死に仕立て屋巡りを続けたものの――残念ながら、レイ・ヴァーティンという少女の人生は、苦難の連続でしかないのだろう。気づけば、日は傾きオレンジ色に染まりつつあった。
(……はあ。もう夕方!? まだなんの成果もないんだけど!?
えっ、待って!? 本気で自作パターン!? マッ!?)
そう内心で呟きながらも、ドレス生地候補はひとつだけ。陽の光に晒され、ところどころ色褪せた金のカーテン。
「あれは絶対ダサいよ……」
レイはそうボソリと呟いた後、顔を曇らせる。
(はあ……。なんかもう少し私有利に進んでくれても良くない? 乙ゲーみたいにさ、三択とかバーンッ! って出てきてくれてさ、そこから簡単に転機ドーンッ! で一攫千金、焼肉定食みたいな!
あっ、でもそれだと私いないじゃん。乙女ゲームに悪役なんていないもん)
そう不満を内心で吐き出しながらも、あのダサいカーテンで自作など溜まったものではない。ゆえに、意識は不満へと集中しているものの、体は無意識にまだ見ぬ仕立て屋を探し、やがて――
ふと、レイが我に返ったころ。
「えっと……ここどこ!?」
気づけば見知らぬ路地裏に辿り着いていた。
キョロキョロと辺りを見渡しても店らしきものはなく、冷たいレンガと人気のない石畳。その上、路地裏で太陽の光さえ僅か。それを認識したレイは、若干顔を引き攣らせながらもぼそり。
「ひ、一先ず来た道を戻れば……」
そう言って、来た道を引き返そうと踵を返そうとした。けれど、無意識に足を進めてしまった為、どこから来たのかすら不明。いわば帰り道すらも分からない迷子状態。
(ど……どうしよう!?)
そんな焦りを覚えながらも何度か瞬きを繰り返す。
とはいえ、何度瞬きを繰り返したところで、場面が変わることなど有り得ない。
(うぅ……どうしよ!? 私、このまま路頭に迷うかんじ!?)
レイは内心で、この窮地をどう脱そうかと考えを講じようとした。
同時。視界の端にパタパタとナニカが揺れていることに気づく。
その視界に映ったものを確認するように、レイは瞳だけを斜め左上に動かした。
視界の先、先ほどまであっただろうか? 風化して文字が読めなくなったボロボロの看板が。
(……ここ、なんの店? なんか怪しさ満点というか……)
彼女はその看板をじっと見つめ、どうするか悩むが、この店以外頼るあてもなく。
「めちゃくちゃヤバそうだけど……一応、広い道の行き方くらい聞けたらまあ、バンザイだよ、ね……?」
意を決して扉へと手を掛ける。




