表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

第21話《伊吹と夜空》

更新再開。月一を維持できるように頑張りたい。

俺は荒く息を吐く。今のを防ぎ、カウンターを入れただけでもそこそこの疲労が俺を襲っていた。


ホコリが舞い、積み上げられた段ボールの中に突っ込んだ男を油断なく見据えながら、次の手を考える。

流石に、今ので倒したとは思えない。そう感じたからこそ、立て直す前に追撃を仕掛ける。それしかないだろう。


「次―――ジェイル!」


刀を逆手に持ち、そのまま地面に突き刺してから雷の魔法を展開する。


必要なのは行動の封殺。一度動かれたらリズムを崩される以上、距離が生まれたら詰めるまでの時間稼ぎが必須だ。それを実現させるには―――弾丸や電磁砲などではなく、雷の檻が最適解だ。


地表を蒼い雷撃が駆け、乱雑にばらまかれている段ボールの群れを囲うようにして展開される。そして、その少し後に地面から雷が昇り、雷の檻を形成した。


「《魔導の体現者》―――【テンペスト】、吹き荒れろ、バスター!」


視界確保の為に風を叩きつけてホコリを払いのけ、段ボールを吹き飛ばす。


―――見えた。膝をついているが、それだけだ。


それを見た瞬間、【瞬】を発動し、最初の一歩を最高速で踏み出す。


「―――シッ」


二、三歩で間合いを詰め、右腕を引き絞ってからの刺突。


「グッ‥‥‥一式、陽炎」


―――そいつを待っていた。


陽炎とやらの効果で俺が刺したモノは幻影となってかき消え、その半歩左から本体が現れる。


タイミングは‥‥‥今!


「ブースト!」


氷の太刀に横から強烈な爆風を叩き付け、肉体の動きすらも無視した横薙ぎの一撃を放つ。

虚をついた一撃。男が陽炎を使ってくると踏んでいたからこその二手目を差し込んだ。


「なっ―――」


反応は出来ていない。確実にこの一撃は通ると、そう思いながらも体勢の維持に全力を尽くす。突きを放った状態から無理矢理薙ぎ払いに移行しているのだ。流石にバランスを保つように意識していないと転倒してしまう。


ガッ―――人体を切り裂く音にしてはあまりに硬質すぎる音。腕に強い衝撃、そこで俺は正しく現状を理解した。


「硬すぎだろ!?」


刀身が腹筋によって完全に止まっている。その肉体を傷つけることもなく、完全に一撃が通用していなかった。


「―――っ、クソ」


反撃の振り下ろしを視界の端で捉え、【瞬空】―――二種混合の天式で空中を踏み、ギリギリで間合いから抜け出した。


「‥‥‥そうだ、君の名前を聞いていなかったな」


男は何も無かったかのようにそう問いかけてくる。戦っている最中にそんな悠長な事をしていていいのか、とは思うがこちらとしても都合がいい。そう思い会話に付き合う事を決めた。


「おいおい、敵相手に随分悠長だな。それに―――アンタなら誘拐したときに生徒手帳なりなんなりを見れたんじゃないのか?」


―――ズボンのポケットの中には生徒手帳が入っている。だが、一度抜き取られていてもおかしくない。なにせ、俺達に抵抗されたら困るのはあちらの方だ。だからこそ、抵抗を防ぐためにボディチェックあたりはしていると思ったんだが‥‥‥。


「悠長というのは否定出来ないが、君という強者に興味が湧いただけだ。名前を知らなかったのは―――男はまだしも女相手にボディチェックは少し、な。武器になり得るものは持っていないようだったし、軽いチェックだけで終わらせていたからね」


成る程、確かにそうだ。心理的な部分では確かに躊躇してしまう‥‥‥当然のことだ。


「意外と紳士的なんだな。んじゃ、自己紹介でもしようか。俺は天音咲夜。ただの―――って言ったらアレだが、学生だよ」


「天音君か。私は伊吹仙次(いぶきせんじ)―――傭兵をやらせて貰っているよ」


伊吹仙次‥‥‥聞いたことがある。成る程、コイツがそうだったのか‥‥‥って、え、マジで!?


「伊吹仙次って言えば日本の傭兵稼業の最前線を突っ走っているバケモンじゃねぇかよ‥‥‥。よくそんな人がこんな依頼を受けたな?」


傭兵―――聞いたところによると、合法、非合法を問わず依頼を受ける、所謂裏稼業とでも呼べる存在だ。勿論、裏とついている以上日常生活では一切耳にしないほどに情報がない。だからこそ俺以外の三人は知らないだろうし―――俺はかろうじて知っていた。


「その年で私の事を知っているとは‥‥‥珍しい、いや―――おかしいな」


そりゃそうだろう。国内最高峰の学園に通っているとはいえ所詮は学生。こんな裏事情を多少理解している人物なんぞ有り得ないだろう。


「まあ、姉が裏の事情にそこそこ精通していてね。マイナーな所ならともかく、アンタみたいな有名人なら情報が手に入る」


‥‥‥キツいな。


軽口を叩き合いながらも、俺は内心でそう愚痴る。相手が伊吹仙次だと判明したからこその問題だ。


正直に言うが―――よく、ここまでダメージレースで有利をとり続けていたと思う。本来なら、確実に俺が負けているような対面だ。

俺有利で進められていた要因はいくつかある。一つ、戦闘範囲が区切られていること。同士討ちを避けるためか、本来のスピードを出せていない。それによって、俺が反応出来る程度に弱体化されている。

一つ、伊吹の勝利条件は俺達の殺害ではなく、捕縛であること。速度の低下と同様に火力の低下が発生し、攻撃を流したり避けたり出来る。

一つ、コイツがあまりにも突出している可能性があること。他のメンバーの強さは不明だが、コイツ程の覇気は感じないし、俺の勘が働かないことを考えると、そこまで強くないと予想出来る。上記三つに関連するが、仮に伊吹が本気で動いたら敵味方関係無く全員ぶっ飛ばされるし、ワンチャン誰かが死ぬ可能性がある。そう考えるならば、コイツは手加減をしなければならないはずだ。

そして最後の一つ、俺の技量が伊吹とほぼ同格であり、まともに打ち合えていることだ。身体能力で負けていても、技量があればある程度打ち合えるし、反応速度や動体視力が高いのもこの有利を形作っている要因だろう。


「そうか。君の姉についても色々と聞いてみたいが―――今は関係ないな」


「ああ、関係ないさ」


話が終わり、示し合わせたかのように一歩を踏み出す。


「―――シッ!」


「オオッ!」


互いに一閃。回転切りと振り下ろしがぶつかり合い、その数瞬後に力負けし、俺が弾き飛ばされた。


「二式・煉牙」


その隙を逃さんと言わんばかりに放たれた突きを見て、俺は脚に気を込める。


「【滑】」


後ろに倒れ込みそうになる肉体を押し留めて左脚で軽く地面を蹴り、サイドステップを踏む。

本来なら弾き飛ばされたことで後ろに慣性が働き、サイドステップなんて到底出来ないが、【滑】があれば可能になる。【滑】の持つ最大の特徴は慣性無視、だからこそ直角に曲がるなんて人体には不可能な挙動を起こせるし、無拍子などの技能の補助にも使える。


「―――なっ!?」


横に移動したことで煉牙を回避し、その風圧が全身を撫でた。


「貰った―――【撃】!」


刀身に気を流し込み、威力の増大した一撃を叩き込む。クリーンヒットした、確かにその感覚があったが‥‥‥刃が止まっている。


「―――マジかよ!?」


別にそこまで切れ味が良くないとはいえ、身体能力に大きな差があるとはいえ―――さっきのブーストの状態とは大きく異なる。今の一撃の方が倍以上の威力になっているはず。それが通用しないあたり、この男の超人っぷりが理解できる。


「思ったよりは痛い、か。相手が悪かったな―――オオッ!」


煉牙の硬直が解除され、首筋に視線が刺さった。


―――狙いは首。


視線から攻撃の軌道を読み取る。それを感じ取った瞬間、膝を曲げてイナバウアーのような姿勢を取って―――顎先に刃が掠めた。


「っぶね―――コイツでも喰らっとけ、バスター!」


膝が地面につくその間際に左手を向け、風の一撃を叩き付ける。

俺はバスターの反動で背後に吹き飛び、無様にも背中から地面に着地した。


「ヌゥッ‥‥‥」


「ガッ‥‥‥」


―――物理よりも能力の方がダメージが通るのか?


さっきの斬撃よりも今の方がダメージが入っているように見える。ジェイルをブチ込んだ時もそうだ。所感だが‥‥‥抵抗が弱い、そんな風に感じた。


「なら―――《魔導の体現者》、【グローム】―――ラウンドバレット!」


起き上がりながら十二発の弾丸を形成し、ディレイをかけつつ射出する。


「チィ―――四式・斬桜」


少しの間苦々しく顔を歪め、何もない空間を一閃する伊吹。何をしたのか、と俺が疑問に思うのも束の間、一瞬にして俺の放った弾丸が切り裂かれた。


―――伊吹の周囲に桜が咲き乱れる。いや、正確には斬撃の軌道上に桜が舞い散っている、と表現すべきか。弾丸に対応した十二枚の刃が同時に煌めき、雷を裂く。戦闘中だというのに、俺は一瞬その光景に見入られた。


「っ、ぼうっとしている場合じゃねえ。次―――!?」


無拍子。散々警戒していたソレは、俺の散漫になった注意を抜けて俺の眼前まで迫っていた。


刀は鞘に収まり、腰に手を添えられている。そこから読み取れるのは‥‥‥抜刀術。

恐らく回避は不可、やれるなら迎撃だが‥‥‥それでもかなり厳しい。


―――だが、やるしかない、か。


「セオッ!」


「ォ―――ラァッ!」


刀に【硬】を纏わせ、迫る凶刃に対してその刃を振るう。


防御に成功し、一瞬の衝突の後に氷が砕け散り、刃が止まる。俺に向けられた刃は氷剣の崩壊と共に一瞬だけ動きを止め、その隙を逃さないように俺は次の一手を切った。


「―――アクセルッ!」


地面を蹴り、回し蹴りを顎目掛けて放つ。

クロスカウンター狙いの一撃。だが、俺と伊吹には違いがあり―――その違いがバレるか否かによって俺の今後が決定する。


「まさか―――」


本来の軌道を曲げてでも俺の蹴りを防ぎたかったのだろう。力の流れに逆らって伊吹の刀は顎のあたりまで引き上げられ、俺の蹴りを止めていた。


‥‥‥読まれたか。


俺は内心でそう愚痴る。顎狙いの一撃―――あれは気絶を狙ったものだ。目の前の男の正体が伊吹仙次だと知った瞬間から、俺の頭の中では気絶による勝利を狙っていた。理由は単純、純粋な戦闘で俺が勝てることはありえないと断言出来るからだ。


人体の構造上、避けられないものがいくつかある。その中の一つが脳震盪であり、今回俺が狙っている―――と、思わせているモノだ。

異能によって身体能力をはじめとする人体の機能が強化されているため、脳震盪にも耐性はついているだろう。だが、それでも人体における弱点が変わらない以上、アッパーでも決めれば気絶は狙える。


ただ、今回はブラフとして扱う。本命は―――天宮のインフェルノを打ち破った時のような強力な一撃。それを差し込んで確実に意識を奪う。


「―――気絶狙いか。確かに正解だが‥‥‥先程の一撃で決めれなかった事を後悔しろ」


三日月を描くかのような軌道で放たれる袈裟斬り。峰で首元を狙われていることを理解し―――。


「【フロスト】、ウェポンメイクッ!」


破壊された二刀を再精製、バク宙と共に下から振り上げ、俺の首が置いてあった場所に振り下ろされる刀を上に弾く。


「その程度で我が剣を止められるとでも思ったか!」


反転した視界から、上段の振り下ろしが見える。このままいくと―――股間ごと真っ二つじゃねえか!?


「あっ」


あっ、ってなんだよそれ!?なんだお前その顔あ、やらかしたみたいな雰囲気出しやがってクソが!


「死んでたまるか―――吹き飛べ、スフィアッ!」


五つの雷球が周囲を駆け巡り、質量すらも得るまでに至った雷霆が伊吹の肉体を吹き飛ばす。


「グッ―――」


バク宙を終え、右腕を前に突き出し、展開されたスフィアを操作する。


「まだまだ終わらねぇぞ―――シュート!」


五つの雷球を拡散させ、それを吹き飛んだ伊吹目掛けて射出する。


「‥‥‥仕方なし。終式・殺陣」


ボソッ、と溢す程度の声。何を言ったのか、俺には分からなかったが―――瞬間、殺気が全身を包んだ。


「‥‥‥マジかよ」


濃密な殺気。俺の人生においても二度程度しか経験したことがない、絶望感を感じさせるかのような強い想念が渦巻く。


放っていた雷球は俺の意識がそれている間に消滅したのか、もう残っていない。


「終式・殺陣。三分間継続する半径三メートルの球状結界だ。効果は見ての通り、範囲内全ての斬滅だ。‥‥‥斬滅、といっても私が足場と認識しているものや身に付けているもの、刀は対象外だがね」


「‥‥‥そんなこと言っても良いのかよ?」


俺は疑問に思ったことを言う。今の情報が真実とは限らないが―――とにかく、時間を稼ぎたい。


「ああ、これは私からのボーナス‥‥‥と言うよりかは謝罪だな。流石に周囲に被害を出すこの技を使うつもりはなかった。だが―――君は想定以上に強かった。先程の攻撃もそうだが、多少なりとも殺す気でいかなければならないくらいにはね」


「ならありがたく受け取らせて貰うぜ。まあ―――知ってるからと言ってもどうしようもないんだがな」


これは俺の素直な感想だ。知っていてもどうしようもないものは存在する。だからこそ伊吹はボーナスと称して情報を吐いた。そして―――ついでに言えば俺の狙いが完全に崩壊したことを示す証拠でもあった。


俺の狙い、それは先程まで考えていた気絶だった。超強力な一撃を以って意識を飽和させる。純粋火力であれば天宮のインフェルノに並ぶ程の一撃がある俺なら、いかに伊吹といえども気絶までもっていけると思っていたが‥‥‥遠距離にせよ近距離にせよ、半径三メートル外を維持しつつ長い下準備を終わらせるのは不可能。


なら、吸収能力を持つレーヴァテインならなんとかなるんじゃないか‥‥‥とも思うが、アレには斬撃を吸収する機能なんぞないし天宮のインフェルノよりも遥かに強いであろう連撃を喰らうなんて不可能だ。


想定出来る攻略法は二つ。一つは、攻撃が通らない程の防御力でゴリ押し。もう一つは天宮の炎転などの存在置換による攻撃無効。前者は俺には不可能だし、後者は‥‥‥可能だ。だが、使っても負ける気配がする。


つまり、俺の感覚を信じるなら詰みって訳になる。


《天式体術補足》

複合型の天式は【瞬空(シュンクウ)】や【流反硬(リュウハンコウ)】など、個別に分けるのではなく名前が合体する。神城悠斗の場合は練度不足のため、同時発動ではなく連続して繋いでいるため、個別表記になっていた。

《天式体術の呼び方について》

天式体術(アマシキタイジュツ)

(ゲキ)】/【(シン)】/【()

(コウ)】/【(リュウ)】/【(ハン)

(シュン)】/【(クウ)】/【(カツ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ