第22話《零月一閃》
「《魔導の体現者》―――【エレメンタル】、フロストウォール!」
足を踏み、バックステップと共に氷の壁を展開する。目的は周囲に被害を出さないための防壁。効果があるかはわからないが‥‥‥やらないよりはマシだ。だが、その範囲は膨大であり、俺の消費する魔力もかなりのもので、現魔力は二割を切るかどうかのラインにある。
「私には何もないようだが‥‥‥なるほど、残り時間を逃げ切るつもりか」
「正解。だがいいのか?早く俺を仕留めないと時間切れになるだろうに」
俺がそう言った瞬間、空気が変わる。
―――来る。
「―――確かにそうだ。悪いが、君の命は諦めて貰おう」
地面を全力で蹴飛ばし、三メートルの致死圏から離脱する。
「クッ―――やっぱ速すぎるだろ!?」
二歩目が着地した瞬間、気を流して【瞬】を発動する。
空中へと飛び、二度目の回避。
下に目を向けると、さっきまで俺がいた場所に伊吹は立っていた。
「外したか」
伊吹の眼光はしっかりと俺に向けられ、下手な動きをすれば即死する、そんな予感が身を包む。
「【瞬空】、からの―――小規模レールガン!」
空を蹴り、伊吹の背後の方向に向かって跳躍する。そして同時に、体を反転させて腕のあたりに四本の氷柱を浮かせ、氷の弾丸を精製。雷撃を流して電磁力を生み―――射出。
放たれた弾丸は音速の何倍もの速度で飛翔し―――伊吹の右太ももを穿った。
「ガアッ‥‥‥!?」
回避中に思い付いた攻略法その一、結界ですら反応出来ないような速度での攻撃。
「よっしゃビンゴ!」
俺自身、成功すると思わなかったが‥‥‥可能性としてはあり得る、そう思っていた。
強力な力には何かしらの穴がある。俺の《魔導の体現者》も、コイツの終式・殺陣とやらもだ。
俺の場合だったら万能の力の代わりに他の異能より遥かに燃費が悪い魔力消費。それと、スタイルの切り替えに多少の隙が出来る。終式・殺陣なら―――結界が反応するよりも速い攻撃。
《一気刀仙》の性質上、あくまでこの結界は斬撃によって発生している。範囲内に入った存在に反応し、切り裂く。このルールで動いている以上―――斬撃が発生するまでにタイムラグが生まれ、その僅かな隙を通り抜けることで斬撃を回避する。それが、この技の攻略法だ。
「まさか我が奥義を貫くとは‥‥‥規格外、とは君の事を指すのではないかな」
そう言いながらも貫かれていない左足を軸に加速し、迫ってくる伊吹。だが、その動きは確かに劣化していた。
「そんなヌルい動きで俺を捉えられると思うなよ!」
バックステップを踏み、二歩目を踏み込んだ瞬間に【瞬】、【滑】を同時運用―――【瞬滑】として発動し、予備動作無しで大きく弧を描き、伊吹の背後に回り、更に数メートルの距離を開く。
さっきまで翻弄されていた無拍子を、今度は俺が使う番だった。
「消え―――っ、後ろか!」
伊吹は突進を止め、数瞬後に反転して俺の姿を捉える。
―――判断が早い。俺が消えたタネを一瞬で見破りやがった。まあ、そうでもないと日本最強の傭兵なんて言われてないんだろうが‥‥‥問題はない。
「レール―――」
再度氷柱を右腕に精製、そこに見映えを意識した雷撃を纏わせる。
「させるかッ!」
ゴオッ、と空を裂く音が鳴り、伊吹の腕から刀が弾丸のように放たれた。
「―――ブラフだ。勝負を焦ったな」
体をずらし、付き出した右腕で投げられた刀を掴む。
間合いが開き、接近するよりも先に攻撃を貰うとなれば、投擲の一手に限る。俺が伊吹でもそうしただろうし、実際持ち武器を投げるなんてのは意表を突ける最適解だったと言える。だが―――。
「―――相手が悪かったな。俺だって武器投げ上等の邪道スタイルなんだ、投げられるのだって慣れてんだよ!」
左手に持っていた氷剣を捨て、奪った一刀を構える。それを見た伊吹は顔を歪め―――突進してきた。
「フロストバレット!」
左手から氷の弾丸を放ち、殺陣が生きているかの確認をする。
両方の距離が急激に迫り、三メートル圏内に入り‥‥‥弾丸は斬られなかった。そして、伊吹の拳によって弾丸は砕かれる。
―――ビンゴ。
それを確認した直後、両足に気を流して【瞬】を発動し、俺からも距離を詰める。
「そこで詰めるか―――オオッ!」
拳が放たれ、俺はそれを刀の柄で受け流す。
だが、受け流した直後に蹴りが放たれ、回避できないと判断して【硬】を使い、全力で受け止めた。
「グッ‥‥‥セラァッ!」
手首を捻り、胴体目掛けて斬撃を放つ。その一撃に対して蹴りと拳で片手片足が使えなくなった伊吹では対処することが出来ず、斬撃は命中する。
肉を斬る感覚が腕に残るのと同時に、俺はそのまま刀を振り抜いた。
「‥‥‥マジか。滅茶苦茶切れるな、コレ」
バックステップで距離を取りつつ、刀を振ってついた血を落とす。
―――さっきの蹴りが思っていたより響く。いくら防御を上げていたとはいえ、流石に防ぐのは無理があったか。
「当然だ。私の相棒なのだからな、安易な鍛え方はしておらんよ」
俺の呟きが聞こえたのか、伊吹がそう返す。
「俺の氷剣が思ったより弱いことに気付かされたいい機会だったが‥‥‥悪いな、もう異能はほぼ使えないだろう?」
俺の言葉に、伊吹は顔を歪ませながらも返答する。
「確かに、な。剣を失った以上私の異能は使えないが―――まだ負けたわけではあるまい。それに‥‥‥」
そう言って、足元に落ちていた氷の刀を拾い上げ―――。
「君の刀を借りさせて貰えば我が《一気刀仙》は息を吹き返す!」
やらかした、そう思うのと同時に途端に猛烈な圧がかかり、全身が震える。
「終式・殺陣とやらは勘弁して貰いたいんだが‥‥‥仕方ねぇ、最終ラウンドといこうじゃねぇか!」
地面を踏み締め、突進してから同時に斬撃を放つ。真っ向からの斬り合いでなお、氷剣は砕けない。
「テメ―――武器強化もってんのかよ!?」
俺のその言葉に伊吹は答えない。だが、俺の所感では氷剣の耐久性はそこそこ終わっている。対して、伊吹の刀はかなりの強度を誇り、いくら俺の筋力が低かろうとまともにぶつかり合ったら砕けるのは氷剣の筈。
なら、原因は単純で、奴の異能には持った武器の性能を向上させる力がある、と考えるべきだろう。実際、俺の天式を利用すれば似たような事は可能だし、別におかしいことではないが。
「中々の観察眼だな。だが、それは関係ないだろう?」
「確かに、なッ!」
力を込め、鍔迫り合いとなっていた状況を打破する。そしてそのまま、刀を返して逆袈裟を放つが‥‥‥これもガードされる。
一歩下がり、魔法を打とうとして‥‥‥止める。魔力の消耗は可能な限り抑えたいと、そう思った刹那の隙を見逃すはずもなく―――。
「二式・煉牙」
高速で放たれる突きを避けきれずに掠めた衝撃であばらが何本かイった。ついでに大きめの切り傷が出来た。
「グッ―――クソッ!」
痛みは問題ない。だが、動きにどうしても支障が出てしまう。そう感じた俺は、すぐに気で体内を強化し、止血と骨の簡易結合を行った。
そして、これまた発生した隙を埋めるべく、【滑】で無理矢理間合いを取る。
「‥‥‥痛がる様子は見えるが、それを原因とした動きの劣化はほぼ見られない、か。そのタネはいったいどこから生まれているのだろうな?」
「ふぅ‥‥‥アンタもやろうと思えば出来るだろ。そのための基礎は持っているんだからな」
《一気刀仙》―――その異能は俺の見立てだとBランク程度、つまり《闘魂気功》と同等の異能だ。そして、名称から読み取れる情報として気を扱う能力が含まれていることが推測出来る。高ランクの強化系異能は何かしら気やら属性やら、特殊な力は備えているというのは学園生活の中で理解している。故に、それが原因で焔を纏う戦技が扱えたり斬撃が分裂したりしているのだろう、普通の戦技ではあんなことは出来ないはずだ。
「‥‥‥否定はせんよ。と、言っても学生が出来るモノだとは思わなかったが」
ドッ、と鳴り響く音がした直後、急速に距離を詰める伊吹。片足を負傷していて動きが劣化していてもなお、その速度は圧倒的と言う他ない。
それに合わせ、俺は右腕で保持していた刀で横一閃。だが、伊吹の抜刀術によって上に弾き飛ばされる。
「グッ‥‥‥なろッ!」
即座に伊吹の刀が返され、胴体に向けて刃を振るわれる。それを迎撃すべく、全力で力を込めてからの振り下ろしを放ち―――気を刀身に巡らせた。
刀が衝突し、また鍔迫り合いに持ち込まれる。そう思っただろうが―――生憎、不利な勝負はしない。
激突してからコンマ数秒、打ち合った衝撃を力に変えて解き放つ!
「―――【反】!」
俺の膂力に加算して、伊吹の斬撃の威力を押し付ける。
「ヌゥッ‥‥‥オオッ!?」
急激に重くなった俺の太刀に対応出来ずに伊吹の刀は引き戻され、俺は次の一撃を放つ。下段まで振り下ろされた刀を持ち上げ、袈裟斬りを放ち―――しかし、その一撃は悠長だった。
刀が重ねられ、斬撃の軌道を操られる。俺はそれに抗うことも出来ずに、次の一撃をただ見ることしか出来なかった。
「これで終わりだ―――二式・煉牙」
「っ、しま―――」
斬撃を受け流され、バランスを崩す。そして、そんな隙を見逃すはずもなく、焔を纏った刺突が胴体を貫ぬこうとしていた。
―――どうする?
回避は不可、迎撃は‥‥‥ゼロスラッシュで軌道を変えれば間に合う。他は―――いや、覚悟を決めるべきか。
【反硬】を起動し、攻撃を全力で受け止める準備をする。
「グッ‥‥‥アアッ―――【反硬】ッ!」
腹が死ぬ程痛い。生ぬるい感覚と凍えるような痛みが同時に襲いかかり、非常に気持ち悪い感じになっている。見えてはないが、貫通しているだろう。だが―――このくらいなら戦闘続行可能だ。
「なっ‥‥‥!?」
驚愕の顔が見える。そりゃそうだろう、避けるなり何かしてくるだろうとしてたやつがただただ攻撃を食らったのだから。
だが、それで終わらないのがこの俺だ。一度見せてはいるが‥‥‥この状態なら防御は出来ないだろう?
左腕を突き出し、その拳を顎に当てる。腹から腕へ、腕から顎へ。エネルギーは流転し、強烈な衝撃波としてその一撃は放たれた。
伊吹は大きくのけぞる。心なしか、少しふらふらとしているようにも感じて―――俺は、これが最大の好機だと感じた。
痛みで思考が定まりきらない頭の中、俺は最後の魔法を構築する。
魔力線を構築し、背後にある氷壁と接続。そして氷壁を魔力に還元し―――吸収。この間僅かコンマ一秒未満。
ベースはゼロスラッシュ。アクセルと【瞬】で肉体駆動の高速化、ブーストで抜刀速度の上昇、ストレングス、プロテクション、エンチャント・グローム、【撃】、【硬】によって肉体の補強と威力強化。
残存一割の魔力に加え、還元して増えた魔力全てを注ぎ込むことで―――この一撃を完成させる!
「鳴り響け、天に咲いた星夜の音色―――!」
残り魔力、零。
「―――零月一閃ッ!《ゼロスラッシュ》」
俺の勝ちだ。




