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第19話《ギリギリの果てに》

 息も吐かさぬような連撃を受け流しを軸にして対処する。


「さっきまでの攻勢が嘘みたいね。そんな受けのスタイルじゃ私を倒せないわよ!」


 知っている。


 そう言いたいのを捩じ伏せて、周囲の状況把握と目の前の攻撃の対処、その二つに全集中力をかける。


「ハアッ!」


「っ、【流】!」


 一際強い一撃を辛うじて流し、軽くジャブを放って回避を誘発させた。


 一歩引いたのを見た瞬間にこっちも数歩下がり、疲労で上がる息を整える。


「‥‥‥妙ね。あまりにも消極的すぎるわ、貴方」


 ふと寿の方に目をやると、訝しげな目でこちらを見てきた。


「さあ、どうかな。確かに消極的かもしれないけど‥‥‥逆転のための布石をまいているとしたらどうかな?」


「‥‥‥確かに、それが本当なら速攻を仕掛けるべきなんでしょうけどね。けれど、それが真実のは限らない。鬼が出るか蛇が出るか―――確かめさせて貰おうかしら」


 一瞬で接近され、圧倒的な身体能力から放たれる一撃が僕を狙う。


「【硬】」


 頭部を硬質化させ、その一撃を受け止めてからタックル。


「っ‥‥‥オオッ!」


 痛みが走るのと同時に、タックルが当たる感覚を得て、そのまま吹き飛ばすことに成功した。


 ―――クソ、まだ終わらないのか。


 そう悪態をついても、事態は好転しないことはわかっている。けど、それでも悪態をつかずにはいられない。


 雷霆が、氷雪が、爆炎が。その僅かな欠片を漂わせるこの戦場で、勝利へのか細い道筋を辿っている。それにはかなりの集中力が必要で、精神がすり減らされているのを実感する。


「ふぅッ‥‥‥」


 息を整え、思考を一度クリアにする。


 ―――攻勢に出るべきか。


 このまま下手に防御に徹していると、どこかで致命的なミスをして負ける‥‥‥そんな予感がした。


 本来ならこのまま守りを固めるべきだ。そうすれば確実に勝機が訪れるはず。だけど、僕の勘はそれを否定している―――何が正解なんだ?


「‥‥‥あら、とうとう攻撃に転じたのだと思っていたのだけれど、また耐えるつもり?私は‥‥‥そろそろ飽きてきたわね」


 ―――重圧。


 それを感じた瞬間、自分の勘が正解だと判断する。


「―――っ!?」


 桁違いの威力で放たれた蹴りを辛うじて受け流し、顔面目掛けて肘打ちを放つ。


 だが、それは上体をそらすことで回避され、僕は少し出来た隙を見逃さずにバックステップした。


 ―――腕が痛い。それに、ここまで踏ん張っていたが足の方も限界が近い。

 モロに受けたら簡単に吹っ飛びそうなくらいの威力を持つ連撃を受け止めるのは腕に、更に足にも大きな負担がかかる。だからこそ、今の僕は満身創痍‥‥‥詰みの二歩手前にいる。


「ふぅ‥‥‥」


 息を吐く。強ばった身体をほぐし、余裕のない思考の中で、マズいも思ったその瞬間―――轟音、いや、爆発音が鳴り響く。


 僕も、そして寿もそちらに意識を取られ、数瞬動きが止まる。


 焔が止み、その中から二人の影を映し出す。天宮さんが肩で息をしながらも立ち、もう一人の女は地面に伏せていた。


「嘘‥‥‥」


 寿がそう呟く。想定外の出来事に呆然としているのが見える。


「《無の支配者(ゼロ・ルーラー)》―――天宮さん、ヘルプ!」


 全身に無の力を循環させるのと同時に、声を張り上げる。それによって寿の意識が引き戻されるのを感じるが―――もう遅い!


「ハァァッ!」


【瞬】により加速し、【撃】による一撃を喰らわせる。当然、その一撃は受け止められるが、今回はそれで十分。


 本命である無の力を限界まで流し込み、能力の発動を阻害するようにする。


 その場から後退した瞬間、僕の意図を察してくれたであろう頼もしい声が聞こえてきた。


「《獄炎の巫女(ヘルフレア)》―――焼き穿て!」


「くっ―――」


 炎槍が回避されるが、その顔は焦りに満ちている。


 ―――間に合った。


 僕はそう安堵し、自分の中で張り詰めていた線を緩める。


 ―――勝てないと判断した僕が下した結論、つまり勝利の方程式は単純で、僕以外に頼ればいいというものだった。


 あの時、考えに考えて思い付いた結論は、少し考えれば誰でも思い付くような簡単な話だろう。だけど、僕も、きっと他の全員も―――1対1だという固定観念に囚われていた気がする。


 コイツは俺が、私が、僕が。一種の極限状態だったからこそ気付かず、今この場において彼女の存在は僕の切り札となる。


「まさか彼女が負けるなんてね―――でも、勝てるとは言わせないわよ、《感覚操作(フィーリンアウト)》!」


 天宮さんと寿の目が合い、《感覚操作(フィーリンアウト)》が発動する―――ことはない。


「焼き穿て!」


 大量の炎槍が射出され、その一つ一つが寿を精密に狙う。


「っ、なんで!?」


 その槍の軌道が狂いなく寿の元へ届くのを見たのだろう、能力が通らなかった彼女は慌ててその攻撃を回避する。


「―――【撃】」


 炎槍を切り抜けたその先で待っていた僕の一撃が炸裂した。


「くうッ‥‥‥!」


【撃】は片腕でガードされるが、まだ次が控えている。


「焼き穿て」


 炎槍が再び飛翔する。それを寿が避けようとするのを見て―――。


「【空】ッ!」


【撃】のノックバックで開いた間合いを埋めるように飛ぶ一撃を放ち、寿を僅かに怯ませる。

 そして、怯みによって出来た一瞬の隙を炎槍が穿ち、爆炎が広がった。


 一歩下がり、様子を見る。今のコンボでダメージは入ったとは思うけど、それだけで足りているか‥‥‥いや、きっと足りていないはずだ。


 そろそろ《無の支配者(ゼロ・ルーラー)》の効力が弱まっているだろうと思い、無の力を両腕に纏わせながら構える。


「【瞬】」


 一瞬にして加速し、爆炎の先にいる彼女目掛けてその速度と無の力を込めた一撃を叩き込む。


 どこに命中したか分からないが、それでも拳が当たる感覚。それを信じてそのまま振り抜き、その物体を吹き飛ばした。


「くぅっ‥‥‥!」


 開けた視界の先に寿の姿が見え、呻いていた。

 それと同時に、冷気が漂ってくる。それを感じた僕は、寿の方を警戒しつつも冷気が来た方を向く。


 その視界の先には、氷漬けにされた男と白月さんの姿。


「―――雪、こっちを手伝って!」


 僕よりも先に声を上げた天宮さんが白月さんの事を呼び、それを聞いた僕は下がって天宮さんの傍に待機する。


「―――それで、状況は?」


 数秒後、白月さんが合流するが‥‥‥寿は動かない。こちらを警戒しているのか、ずっとこちらの方を見ながら立っている。


「微妙。二人がいるなら問題なく戦えると思うけど‥‥‥二人とも、どのくらい消耗してる?」


 天宮さんが来てから戦況は好転した。だけど、それは薄氷の上で立つような、そんなギリギリのバランスの上でだ。


「正直かなり消耗してる。私は大技を使ってしまったし‥‥‥雪は?」


「同じく。多少は普通に使う分にはそこそこ持つけど、決め手は打てないわね」


「やっぱりか。それじゃあ、僕が良いというまで時間を稼いでくれ」


 正直、かなり酷だ。ギリギリの状態の二人にこれを言うのは憚られるが、勝ち筋はきっとこれしかない。


「―――その後、二人はどうにかして彼女の動きを止めてくれ。その隙を僕が穿つ」


 ―――二人は既に敵と一戦交えている。だからこそ、スタミナも精神力も集中力も、そのどれもが限界に近づいている。


「どうにかって‥‥‥まあ、何とかやってみるわ」


「ええ、それじゃあ―――《氷雪の女王(コキュートス)》」


 冷気が漂う。それを感じながらも、僕は自分自身の制御に注力する。


 攻略法は一つ。二人と同じ様に―――最大限の、最高の一撃を叩き込むこと。それを成立させるためには‥‥‥極限までの気の練り込み。それが必要だ。


「―――穿ち抜け、氷槍」


「―――焼き穿て」


 同時に二色の槍が放たれる。しかし、それは簡単に避けられ―――。


「《感覚操作(フィーリンアウト)》」


 その声と同時に、寿に纏わりついていた無の力がかき消されるのを感じた。


「まずっ―――二人とも、彼女の能力は五感を操る力だ!僕の力で無効化していたが、それが切れてる!」


 ダッ、と駆ける音が聞こえ、寿が接近してくる。


「―――舞い踊れ、氷の刃」


 白月さんが前に立ち、氷の刃が放たれるが―――寿に当たりそうな物全てを破壊し、尚も迫る。


「―――《感覚操作(フィーリンアウト)》」


「迸れ、焔の鞭!」


 天宮さんの異能が発動し、赤の線が走るが、それもスライディングで回避される。


「舞い踊れ、氷の刃!」


 氷の刃が発射される。しかし、それは見当違いの方向に放たれ―――。


「くうっ‥‥‥凍り付け、世界!」


 それなりに速度を落とした一撃が白月さんの体に命中する。そして、彼女の身体から冷気が放出され、寿の動きを鈍らせようとするが、恐らく冷気が届く前にバックステップで躱され、距離が開いた。


 ―――今のが《感覚操作(フィーリンアウト)》の本領。自分の位地をずらして誤認させた、ということだろうか。


 僕には効かないからそのヤバさが実感できなかったが、こうして白月さんの攻撃を避けられるとその強さが理解できる。


「―――大まかな位置の指示は僕が出す!難しいとは思うけど、何とか反応してくれ!」


「ええ、頼んだわよ」


「っ‥‥‥了解」


 ダメ―ジから復帰した白月さんも何とか応え、気の収束と同時に寿の動きにも注力する。


「《感覚操作(フィーリンアウト)》」


「右!」


 二人の視線が一瞬左に向かうが、僕の言葉ですぐに右の方を向いてそれぞれの攻撃を放つ。


「―――甘い」


「迸れ、焔の鞭!」


 狙いが曖昧だからか上手く命中せず、また詰められるが―――天宮さんが薙ぎ払いをして後退させることに成功する。


「ナイス、今ので下がった!」


 僕がそう言った後、寿の動きを見るが‥‥‥一切動かない。


「‥‥‥?」


「私の目には動いてないように見えるけど、どうなってるの?」


「いや‥‥‥僕が見ても動いてない。なにを考えているんだ?」


 時間が経つ。数秒、十数秒と時間が流れ、気のチャージが完了した。


「よし。二人とも、こっちの準備は整ったよ。後は―――」


「どうにかして彼女にそれを当てるだけ、ね?」


 それに軽く頷く。だが、依然として動かない彼女を見て、何故か不安が募る。


 そんな静寂を切り裂くかのように、ゴォッ、と音が鳴る。一瞬だけそれに目を取られそうになるが―――その前に見えたモノに対応すべく、意識を寿に集中させる。


 だが、二人はそれに気づかずに視線を横にやってしまった。


「―――っ、ぐぅっ!」


 二人が目を離した一瞬で距離を詰めた寿の一撃を受け止め、そこでようやく二人の意識が戻る。


「ちょ―――舞え、焔!」


 炎が線を引いて回転し、僕と寿を包み込む。


「反応が早い‥‥‥!」


 寿はそう悪態をつき、炎を突っ切ろうとするが―――。


「凍り付け!」


 その脚が数瞬だけ止まる。ほんの僅かな隙、僕が望んだその一瞬。こちらの隙を突かれながらも生んでくれたその一瞬に全てを賭ける。


「四技混合、【撃】【震】【硬】【瞬】―――打ち砕け!」


 自身の肉体を十全に活用し、その威力を一切のロスなく伝えたその一撃の前に―――彼女は崩れ落ちた。


「‥‥‥私の負け、ね」


《ちょっとだけ補足》

恐らく次話以降で言及されますが、神城悠斗の天式の熟練度は低く、技の混合、ましてや四種混合など不可能です。それを可能にしたのは過剰に流し込んだ気と充分な準備時間によって辛うじて成立していました。ただ、これに関しては師匠である咲夜の基準が高く、戦闘中にほぼノータイム、一瞬程度の溜めで発動出来て初めて実戦に使える練度だとしていて、それがなければ悠斗は混合技も大体使えます。

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