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第11話 ずるい私の卑怯なお願い

「と、そういう訳なの」


 ある日の麗らかな休日。

 私はある人物のところに出向いていた。

 要件といえば、この間から悩んでいる鬱陶しいアレ、ストーカーの件のこと。

 本当に忌々しい、どうして私が貞操関連の出来事で悩まなきゃいけないと、憤慨すら覚える。

 でも、実際問題として出没するという事は、何らかの対策は必要で……。

 だから、私は相談に来たのだ。


「理由は話したわ、だから手伝ってくれないかしら?

 無論、都合が良すぎる自覚も、貴方に頼む道理が無いことも分かってるの。

 けど、貴方しか頼る相手がいないかったのよ」


 そう言って、私は目の前にいる彼に……言うまでもないと思うが、フィリップに頭を下げていた。

 ちらりと下から彼の顔を覗き込めば、やっぱり浮かんでいるのはとても真剣な顔。

 元々無茶で失礼で厚顔なお願いと分かってはいたが、私の頼みだからとそこまで真面目な面を見せられるのは、心苦しくて。


「ここまで話しておいて、貴方が断るなんて思っていない。

 こんな物言いなのだもの、殴られても文句言えないのは分かっているわ。

 けどね」


 私が愚にもつかない言葉をつらつらと並べ続けようとしたが、そこに待ったが掛けられた。

 すっと私の言い訳を聞いているだけだったフィリップが、もう良いよ、とその言葉達を遮ったのだ。

 もう良いのは言い訳か、それとも彼の響き通りに気遣ったものか。

 ……考えれば、そんなの直ぐに分かってしまう。


「ごめんなさい」


「いや、本当に良いんです。

 君の言う通り、俺は引き受けようと思います」


 ズキリと、言われた瞬間心が傷んだ。

 ――利用してるんだ、私。

 そう、どこからか、冷たい自分の声が聞こえてくるから。

 心が、申し訳なさと、後ろめたさで溢れんばかりになる。


「あなたって良い人ね」


「それは……どう反応していやら」


 だからせめて笑顔を添えてそう言えば、フィリップはヤレヤレと言わんばかりに肩を竦めて。

 悪い女、中身がこんなんでも、いや、こんな中身だからこそそうなってしまった事に溜息を吐いてしまう。


「気に病むことはない」


「優しいから、良い人なんて言われてしまうのよ」


 半ば愚痴の八つ当たり、助けて貰う側の恩知らず。

 けれどフィリップは、それすらも笑って受け止めて。

 まるで私が駄々を捏ねている様だ、などと気付いてまた溜息が出てしまう。


「さっきから溜息ばかりで」


「自分が情けなくて、心から湧いて出てくるのね、そういう時って」


 自分に対しての呆れか失望か、今ほどあの魔法少女の姿が疎ましいと思ったことはない。

 ……まぁ、アレがなかったら、今頃大人しく勉強でもしていて、友達要らずのボッチのままだっただろうが。


「ちょっと複雑な顔だ。

 一体何を考えているんです?」


「ん、これから貴方とアトリーさんに借りを量産していくのかと、唯それだけよ」


 頼りっきりで、私は結構ダメなところがあるから助けられてばっかりで。

 しかも、今回は気持ちを利用するような所業で。

 いずれ引き返しの出来ないところまで来てしまうのではと考えると、背筋が凍って空恐ろしくなる。


 しかし、フィリップは私があまりにマイナスなエネルギーに囚われているのに、顔だけで気がついたのか。

 まぁ、きっと彼の物言いからして、露骨に態度として現れているダメ人間が私なのだろう。

 そんな私に、彼はこんな話を始めた。

 ごく最近のことで、でも、ちょっぴり懐かしい話を。


「アスキスさん、君と初めて会った日、僕が何を言ったか覚えていますか?」


「初めて会った日……」


 急に何を言い出すのかと思ったが、フィリップは至って真摯な顔をしていたので、私は過去を振り返る。

 彼が何を言いたいのか、その真理を探る為に。


 ――貴女のその姿に一目惚れをしました。

 ――どうにか、俺と付き合ってもらえませんか?


 ――つい、脊髄反射での出来事でした。

 ――誠に申し訳ない、反省している


 ――ハレンチだなんてそんな!

 ――俺は単にあまりのアスキスさんの愛らしさに、我を忘れただけなんです!


「何を赤くなってるのです?」


「あなた、あの日はロクなこと言ってないじゃない!」


「情熱が溢れた、と言っていただきたい」


「ハレンチよ!」


 溢れていたのは下心ばかりではないか。

 そう声を大にして言いたいが、恐らく彼が言いたいのはこの告白劇のことではない。

 もしこれだったとしたら、そっとこの部屋から退室する。

 故に、もっと記憶をゆっくりと探って……。


 ――友達から……お願いします。


 そうして、記憶を掘り当てる。

 思い出すのは懐かしい言葉。

 私は、お友達までで、お願いしますとすげない返事をしていたあの会話。


「とも、だち?」


「行き着いて頂けたようで何よりだ」


 このまま思い出されなかったらどうしようかと思ったよ、と彼はにこやかに笑って。

 そうして、思うがままのところを語り始める。

 彼にとっての真実で、私に都合の良いことを。


「俺達は友達だ。

 アスキスさんは僕の気持ちが云々と悩んでいるが、僕の前提条件はそこにある」


 それに、と彼は続ける。

 私を真っ直ぐに見て、その目に嘘がない事を証明しながら。


「友達は助け合うもの、でしょ?」


「――――」


 お人好しがいた、それもリセナに劣らない。

 呆然と私が彼を見ていると、彼はにこりとして。

 何の気負いもない事を、キチンと証明してみせた。


「馬鹿ね、あなた。

 うん、すごく馬鹿よ」


「いきなりリセナと同じことを言われて動揺を禁じえないですよ」


「仕方ないわ、きっと本当の事だもの」


 ようやく、私も少し笑顔が浮かんできた。

 さっきから負のスパイラルに陥っていたけれど、出口が見つかったかの様に。


「この借りは、何時か必ず返すわ。

 具体的に言えば、あなたが困っているときにでも」


「期待して待ってますよ」


「えぇ、それからなのだけれど」


 ふと、思った事を口に出す。

 これから協力してくれる、友達といった相手に。


「丁寧語、友達というなら他人行儀よ。

 私が貴族でも、友達というのならタメ口で話してくれれば嬉しいわ」


 無論、目立つところでは控えてね、と付け足して。

 すると彼は目を丸くして、次には嬉しそうに小さく拳をギュッとした。

 私なんかの言葉に喜んでくれるのは、ちょっと複雑な気分だけれど。


「よろしくね、ノースくん」


「あぁ、よろしく頼むよ、アスキスさん」


 手を差し出すと、彼は紳士的に絶妙な力加減で握り返してきて。

 女の子扱いされているのに複雑な気分になったが、それでも気分は悪くなくて。

 きっと、確かにフィリップと友達としての距離を詰められたからだと、そう思っている。

 それから敢えて補足する事があるとすれば、私と彼の男女の距離は断じて縮まってないと言いたいが。


 まぁ、それは兎も角として。

 今この時を持ってして、私には頼もしいストーカー撃退の協力者が誕生した。

 その名はフィリップ・ノース。

 我らが攻略対象の幼馴染系イケメンにして、私の初めての男友達。


 ちょっと、前世を思い出して懐かしく、涙腺が緩みかけたのはここだけの話。

 男同士の明け透けな会話は出来ないだろうが、出来うる限り気軽な相手になりたいな、なんて思ってしまうこの時。

 私の友達は、二年生になってから急に増え始めていると実感させられた一幕であった。

最近時間が取れないとです。

リアルが忙しいし、二次創作を書いたりしてたらこっち書く予定が中々取れないとです。

しかもこの量と質なので……何というか、申し訳ございません。

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