第9話 何かが気になるお暇なひと時
二次創作とか別サイトで書いてて、ちょっと遅くなりました(露骨な言い訳)。
魔法課外実習、それは『貴方と私で鳴らす鐘』の第一章で、一番重要なイベントである。
何故ならば、このイベントで稼げる攻略対象の好感度が非常に高いからだ。
ツーマンセルで森の中を探索させられて、守られ癒しつつ目標の林檎の木を目指して進んでいくイベント。
途中、有り得ないはずのトラブルに見舞われて、それを攻略対象の誰かとリセナが共に退ける。
そうした小さな冒険の中で、相手の素が見えたり絆が深まっていく。
そんなドキドキワクワクな王道的なイベント。
……うん、問題である。
それを私とリセナで挑む辺りが特に。
私、本来なら敵対する悪役令嬢。
このイベントでも、リセナがフェルディナンドと組むとネチネチとイヤミを言う立ち回りとしていたり。
まぁ、それは婚約者だし、ある意味当然とも言えようが。
けどイヤミで終わらせるはずだった私もといマリアだけれど、その取り巻きが有り得ないはずのトラブルとやらを引き起こす。
マリアの為を思っての事だったのだろうが、彼女の中でのタガが外れてしまった瞬間でもあった。
でも、幸いなことに、今回はそれが起こる心配はないであろう。
……だって僕が中に入っている私は、取り巻きなんて高尚な人達はいないから。
ぼっち街道邁進中、現在の友達はリセナとフィリップの二人だけ(しかも最近できたばかりと来ている)。
故に妨害など起こりうるはずもなく、つつがなく課外実習は終わるであろう。
敵であるマリアがいないから盛り上がらないのだ、私がいる現実では。
そもそも、今回は敵ではなく味方。
あんまりといえば、あんまりな状況であろう。
「まぁ、現実なんてそんなもの。
むしろ波風立たぬに万歳三唱、かしらね」
そんな事をボッチ飯を堪能しながら、私は小さく呟いた。
リセナ? 何時も一緒なわけではない。
それに今日は休日で学校もないので、”王都を探検してきます!” と意気込みながらフィリップを引っ張ってどこへと知れぬ冒険へと旅立ったのだ。
多分、お腹が空いた夕方頃には帰ってくるのだろう。
何げに一緒に行かないかと誘われはしたが、どうにもあまり動きたくなかったのでお断りした。
露骨に残念そうに項垂れていたのには、やや罪悪感を擽られてしまったけれど。
けれど既に過ぎ去ったこと、今は端に置いてもよろしいだろう。
そんな有り触れた事よりも、だ。
ただいま昼食中、そんな中で現在進行形で不快なことがある。
「……見世物じゃないわよ、本当に」
それはあの事件から数日たった今でも、多くの視線が私に降り注いでいること。
流石に初日や翌日ほどではないにしろ、ストレスを感じざるを得ない。
マリー・アントワネットの如く髪が漂白されてしまうと錯覚してしまう程に。
これが尊敬や畏敬の念ならば、恥ずかしくて鬱陶しくても耐えられただろう。
何故なら、それは正の感情が取り巻いているだけだから。
でも私が囚われている視線の檻は、残念なことに好奇心と嘲りを含んだ負の感情に満ちたもの。
僅かながらにキラキラしている憧れじみた視線も感じなくはないが、そんなものは大多数派の大きな濁流に流されてしまう。
リセナがいれば二人の世界に逃避できたのだろうが、私の騎士をしてくれていた彼女は冒険者にジョブチェンジして現在王都探索という己が使命に燃えている。
当然が如く、守ってくれる相手がいないのならば周りも容赦せずに視線を叩きつけてくる。
お陰でストレスマッハ、私は伯爵令嬢だぞ弁えろと言うにも、気力と胆力が足りていない。
……良いわ、私は引き篭るから。
篭城戦は得意、自分が外に出たいだなんて思わないもの。
リセナという援軍が帰還するまで、私は城壁たる己の部屋の扉を守り続ければ良い。
落城させるには攻城兵器でも用意しろというのだ。
「”御馳走様でした”」
だから私は速攻で手を合わせて呟いた。
この世界だとこんな作法はないが、つい一人だと僕だった頃の癖が出やすくなる。
悲しいかな、近くに知り合いがいないとついやってしまう。
それを見た野次馬共が、首を傾げるのは何時ものこと。
私はそれに出来るだけ関知しないようにして、そそくさとこの場を離れる。
いや、離れようとした。
でも、そうは問屋が下ろされないのが、私に厳しい現実であるらしい。
「今のはどういう意図がある?」
唐突に、そんな声が前方より掛けられたのだ。
うつむいていた私は慌てて頭を上げて……そして彼の名前を口にした。
「フェルディナンド様」
相変わらず間が悪い人、自重して!
そう急に現れた彼に、心の中で罵倒を投げかけるが口にはしていないので本人には届かない。
むしろ私の中でモヤモヤが溜まっただけの様に思われる。
とっとと退散しようとしていた時にこれだよ、とため息の一つでも飛び出そうになってしまう。
……無論、私はお上品な伯爵令嬢なので、疲れきってない限りそんな事はしないのだけれど。
「さっきの質問、聞こえていたか?」
黙り込んだ私に、ただ純粋に興味を持って訊ねてくるフェルディナンド。
周りと違って邪気がない分、扱いづらいことこの上ない。
身分が上の婚約者でもあるので、袖にも出来ない。
だから私が、何時もいつも彼に素っ気なくしてしまう。
私が悪いのは分かっているが、立場的に相性が悪すぎるのだ。
「えぇ、聞こえていますわ」
なので、私は立ち止まって返答する。
それ以外に、対処する方法がないから。
内心は嫌いやだけれど、フェルディナンドと話すのに嫌悪を覚える訳じゃない。
ただ単に、時間と場所は弁えて欲しいだけである。
……弁えなきゃいけないのは、立場が下な私だけれどね!
「さっきのは、私流の、神への感謝ですわ」
ん? とフェルディナンドの仏頂面が、何かに擽られたかの様になる。
言葉数は少ないながら、気になっているというのが顔に大きく出ていたのだ。
分かりやすい人、なんて内心で呟きながら、私は更に続きを語った。
きっとそれを求めているだろうって、私にだって分かっている。
「手を合わせていたのは、手を組んで神に感謝するようなもの。
何ぶん食事なのでそこまで大仰にはせず、簡易ながらに神に気持ちを届けられる作法です」
「ふむ……私流と言ったな。
それはお前が考えたものか?」
訊ねられると、一瞬だけ言葉に詰まった。
元々、これは僕が知っていた常識なだけだから。
この世界では私しかしてないかもしれないが、私が始めたなんて堂々と胸を張って言えるものでもない。
礼法・作法をキチンと体系立てた人達が居てこそのマナー。
それを私が考えたなどと、嘘は吐きたくなんてない。
私なりの後ろめたさと、何より元いた世界への郷愁が、私の口を動かしていた。
「いいえ、遠いどこかの作法らしいですわ。
私はただ、教えてもらっただけです」
「そうか、成程」
私の返答にフェルディナンドも深く突っ込んでくる訳でもなく、興味深そうに頷くだけ。
僅かな動作でしかなかったが、何かが彼の好奇心を煽ったのか。
もうちょっと知りたそうな彼の顔に、私は素知らぬ顔をする。
あまりペラペラと喋りすぎて、余計な事まで漏らしてしまわない様に。
私はフェルディナンドの下方向から見上げる形で、彼の顔を覗き込む。
何が書かれているのか、それを読み取ろうとして。
じぃっと、何かを考えている彼の顔を見ていた。
整っているな、なんて漠然と思ってしまったのに、爆発しろなんて思えないのは、フェルディナンドの不器用さを知ってしまっているからか。
見てて飽きないものがある……何て考えてしまって。
ふと正気に戻ると、僅かでも、一瞬でも、そんな事を考えてしまった自分に私は愕然とする。
「いえ、そんな……まさか」
有り得ない、と小さく呟く。
幾らなんでも、女の子はそう感じて良いのだろうが、私はそう思ってはいけないのに。
彼の顔に敗北感すら覚えられなかった私は、もしかすると完全に僕と比べて屈服するほどの負けを感じてしまっているのか?
……まぁ、僕は確かに、僕はどこまでも平凡な一般ピーポーに過ぎなかったけど。
「ん、どうかしたか?」
勝手に覗き込んで、勝手に動揺している私に、フェルディナンドは今更ながらに気がついたようで。
不思議そうに覗き込んでいた私の目と、彼の正直な蒼の目が重なり合う。
「――――」
「――――」
結果は勿論、何時もの如き沈黙と共に訪れる見つめ合い。
一歩間違えれば睨み合いにでも発展しそうな、そんな彼とのお約束。
そうして見つめ合っていて分かるのは、やっぱり彼の目は怖いな、と感じてしまうこと。
私の心なんて覗けないって分かっているのに、反射的にビクついてしまって。
まるで鏡みたいに、自分を映してくるから怖いんだ、と理解してしまう。
――だから今日も、私の方から目を逸らしてしまった。
「フェルディナンド様、あの……」
「ん、あぁ、済まない。
もう行って良い」
ようやく私が居心地が悪いのが分かったのか、それもどうなのかというあしらい方をしたフェルディナンド。
何時もの事だけれど、これを無くしさえすれば、こいつはもう少しモテると思うのに。
残念なイケメンと内心ひどい評価を付けつつ、私は食堂を後にした。
食堂を出て行く最中に気が付いたが、やっぱり周りからの目が私の背中に突き刺さる。
その中で、一際しつこい視線も感じて。
ウンザリながら足早に、私は早歩きで退散した。
どうしようもない程に面倒くさい、どうしようか等と考えながら。
……完全に余談ではあるのだが。
「あ」
部屋について、制服が皺になるのも構わずにベッドにダイブした途端に思い出したのだ。
ひとつ、硬いけど軽く決心していたモノを忘れていた事に。
思わず、間抜けな声が口に出てしまった。
「フェルディナンドに仕返しするの、忘れてたわ」
それは授業中にあいつの事で頭をいっぱいにされた仕返し。
周りの鬱陶しさのあまり、忘れてしまっていたのだ。
「まぁ良いわ、また明日にしましょう」
何だかダメな人の先延ばしにするが如き言動を持って、私はこの一日を部屋で過ごす。
リセナが帰ってきた途端にお土産という名の賄賂をタカリに行ったくらいが、敢えて何かあったと言える出来事であるだろうか。
にこやかに包装紙を持って近づいてきたフィリップに、私ダメだわー、男の人からのプレゼント怖いわー、なんてニュアンスの発言を露骨にして悄気させたのは、ちょっぴり罪悪感を感じた。
でも仕方ないよね、実際に怖かったんだから。
これから毎日更新、とは行きません、済みません。
他にも二次創作とか更新しなきゃダメですし、前までの連続更新は取り敢えず数を揃えるため的な意味合いが強かったです。
これからは最初に書いてあった通りにのんびりと更新しますが、どうかよろしくお願いします。




