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第7話 怪盗「夜鴉」の帰還

第7話 怪盗「夜鴉」の帰還


春の雨が三日続き、貧民街の路地には茶色い水たまりができていた。マレナは台所の窓辺へ洗った靴下をつるし、豆と刻んだ玉葱のスープを温めていた。薄緑色の仕事着の袖には、昨日解除した罠の油が黒く残っている。窓辺の鉢には新しく植えた白い雛菊が咲き、湿った土の匂いが鍋の湯気に混ざっていた。


ルカは食卓で、報酬帳へ薪の絵を描いていた。今日は家賃とミラへの返済日で、卓上には銀貨三枚と銅貨七枚が分けて置かれている。マレナが鍋を運ぶと、ルカは自分の器に浮かんだ玉葱を匙で端へ寄せた。嫌いな物を隠しても減らないと注意され、仕方なく一切れだけ口へ入れた。


「お母さん、今月もミラさんにお金を返すの? 全部返したら、新しいコートを買える?」


「返し終わってから考えましょう。先に薪とパンを買わないと、コートより家の中が寒くなるわ」


「僕の上着は、まだ着られるよ。袖へ、もう一枚布を足せばいいもの」


玄関の扉が強く叩かれた。マレナは反射的に銀貨へ布をかぶせたが、すぐに手を止めて布を外した。隠す必要のない金だと自分へ言い聞かせ、扉を開ける。外には灰色の雨具を着た衛兵が四人立っていた。


「マレナ・エーデルだな。昨夜、王家へ納める予定だった星光魔石が宝石商から盗まれた。現場から、怪盗『夜鴉』の印が発見された。詰め所まで同行してもらう」


「私は昨夜、ここにいました。息子と帳面をつけた後、罠の教本を読んでいました。保育所の先生にも、迎えへ行った時刻を確認できます」


「それを調べるための同行だ。抵抗しなければ、縄は使わない。子どもは預けられる者がいるか?」


ルカは椅子から立ち上がり、母親のスカートを握った。マレナの喉には、以前なら使っていた言い訳がいくつも浮かんだ。裕福な者からしか盗んでいない、息子を育てるためだった、一度も人を傷つけていない。しかし、そのどれも今朝の疑いを消す言葉にはならなかった。


「隣のエッダさんに預けます。息子の前で、手に縄をかけないでください。逃げません」


「お母さん、本当に盗んでいないの? 夜鴉って誰?」


「昨夜の魔石は盗んでいない。でも、お母さんには話さなければならないことがある。帰ってきたら、全部話すわ」


衛兵詰め所の机には、黒い羽根が一枚置かれていた。根元へ銀色の糸が巻かれ、先には夜鴉の印が刻まれた小さな金具がついている。マレナが怪盗だった頃、盗みを終えた屋敷へ置いていた物と同じだった。だが羽根の軸には、彼女が知らない甘い香油の匂いが染みついていた。


「これは私が作った物ではありません。私の羽根には、雨でも銀糸がほどけないよう透明な樹脂を塗っていました。これは糸を巻いただけです」


「夜鴉の印を知っているのか。なぜ作り方まで分かる?」


「私が夜鴉だったからです。ただし、人から盗むことはやめました。月織りのコートを盗んだ件は店主と被害を受けたミラへ告白し、返済契約を結んでいます」


詰め所にいた衛兵たちが一斉にマレナを見た。隊長は机の引き出しから紙を出し、これまでに夜鴉が関わったとされる盗難を読み上げた。宝石、金貨、銀食器、魔法道具が二年間に十七件盗まれている。マレナは自分が行った九件を認め、身に覚えのない八件には印をつけた。


「なぜ今まで衛兵へ申し出なかった。被害者一人と契約を結べば、ほかの盗みまで消えると思ったのか?」


「思っていません。捕まれば息子が一人になることを理由に、先延ばしにしていました。私が認めた九件については、処罰を受けます」


「昨夜の件については、まだ犯人と決めていない。お前が保育所へ迎えに行った時刻と、その後に近所の者が姿を見ていることは確認できた。夜鴉の偽物がいる可能性が高い」


釈放されたマレナがギルドへ戻ると、ガレスたちが食堂で待っていた。ティナの前には冷めた茸のパイがあり、エリオは新聞の号外を広げている。紙面には「夜鴉、王家の魔石を奪う」と大きく書かれていた。ガレスは何も尋ねず、空いている椅子を足で引いた。


「私が夜鴉でした。今までに九件、人の屋敷や店から盗みました。昨夜の魔石は盗んでいません。でも、過去の盗みについては処罰を受けます」


「それを聞いて、俺たちが離れると思っているのか?」


「分かりません。私なら、元泥棒を仲間に入れるのは迷います。だから皆さんが決めてください」


「では、事件が終わるまでは一緒にいる。その後も組むかどうかは、返済と処分から逃げないことを見て決める」


その日の夕方、マレナ宛てに一通の手紙が届いた。差出人は盗品商のバルガスだった。人目を避けて古い酒場へ来なければ、夜鴉が盗んだ品の一覧を王都中へばらまくと書かれている。紙からは、詰め所の黒い羽根と同じ甘い香油の匂いがした。


酒場の奥で、バルガスは赤い葡萄酒を飲んでいた。紫色の上着には金糸の刺繍があり、太い指へ三つの宝石指輪をはめている。卓上には食べ残した鴨肉と葡萄が並び、床には噛み捨てた果実の皮が落ちていた。彼はマレナを見ると、向かいの椅子を指した。


「怪盗を辞めたそうだな。お前が盗品を持ってこなくなって、こちらは損をしている。まじめな冒険者ごっこは楽しいか?」


「星光魔石を盗ませたのは、あなたね。黒い羽根へ、あなたが使っている香油がついていたわ」


「証拠にはならん。だが、お前には選択肢がない。もう一度だけ仕事をしろ。公爵家の宝物庫から、竜涙石を盗んでくれば、過去の記録も星光魔石も処分してやる」


「断れば、私を魔石泥棒にするの?」


「息子まで泥棒の子として生きることになる。母親なら、何をするべきか理解できるだろう」


マレナは返事をせず、冷めた葡萄酒を一口飲んだ。舌に渋みが残り、鴨肉の脂の匂いで喉が詰まりそうになる。ルカを守るには従うしかないように見えた。しかし、ここで再び盗めば、息子へ説明できる金も暮らしもすべて失う。


「分かったわ。竜涙石を盗む。その代わり、仕事に必要な道具を倉庫から選ばせて」


「明日の夜に来い。お前一人でな。仲間や衛兵を連れてきたら、星光魔石は二度と見つからない」


翌朝、マレナは衛兵隊長へバルガスとの会話を報告した。ガレスたちにも、自分が行った盗みと盗品を売った場所をすべて話した。衛兵隊長はバルガスの倉庫を捜索したいと考えたが、王家の魔石が見つからなければ証拠が足りない。そこで、マレナが従うふりをして倉庫へ入り、保管場所を突き止めることになった。


「倉庫の外で待つだけでは間に合わない。中へ衛兵を呼び込む方法はあるか?」


「双方向の帰還陣を使います。片方を詰め所に描き、もう片方の印を私が持って入ります。倉庫の奥で起動すれば、皆さんを私のいる場所へ転送できます」


「この前は、ギルドの正面と洗濯場を間違えたそうだな。本当に任せてよいのか?」


「今は座標を色で分けています。洗濯場へ出た場合は、バルガスも一緒にシーツを干してもらいます」


潜入の夜、マレナは黒い仮面をつけなかった。灰色の革鎧に短剣を下げ、マジックバッグには罠解除道具と帰還陣の印だけを入れた。倉庫の入口でバルガスの手下に体を調べられたが、武器は盗賊に必要だという理由で取り上げられなかった。古い怪盗衣装を着ていない彼女を見て、手下は夜鴉らしくないと笑った。


倉庫の中には、木箱が天井近くまで積まれていた。香辛料、毛皮、魔法道具の匂いが混ざり、足元には梱包用の藁が散らばっている。バルガスは二階の部屋へ行き、竜涙石の見取り図を取ってくると言った。マレナは一人になると、木箱の間へ入った。


最初の扉には鳴子と毒針の罠があった。マレナは鳴子の紐を切らず、音が鳴らないよう金具で固定する。毒針のばねを外し、扉を開けた後で元の形へ戻した。侵入したことを気づかせないためだった。


二つ目の部屋には、盗品と思われる宝石と銀食器が並んでいた。マレナは一つもマジックバッグへ入れず、刻印と数を帳面へ記録した。棚の奥から、銀糸を巻いただけの黒い羽根も見つかった。その下には、偽物の夜鴉へ支払った金額が書かれた帳簿があった。


最奥の鉄箱には、爆発と警報の二重魔法がかけられていた。マレナは魔力の流れを鑑定し、警報を先に切れば爆発する仕組みだと見抜いた。爆発陣の中央へ針を差し、魔力を外側へ逃がしてから警報を解除した。三つの錠を開くと、青白い光が彼女の顔を照らした。


中には、盗まれた星光魔石が入っていた。隣には、夜鴉から買い取った盗品と売却先を記した取引帳もある。マレナは魔石へ触れず、帰還陣の印を床へ置いた。詰め所に残した陣とつながるよう、短い呪文を唱えた。


白い光が倉庫を満たし、ガレス、ティナ、エリオ、衛兵隊長と六人の衛兵が現れた。今度は洗濯物も水桶もなく、全員が星光魔石の前へ転送されていた。ティナは足元を確かめ、洗濯場ではないと分かると小さく息を吐いた。ガレスは大盾を構え、入口を塞いだ。


「一枚も盗んでいません。魔石も取引帳も、箱の中にあります。罠は解除しましたが、念のため鑑定士を呼んでください」


「よくやった。後は衛兵の仕事だ。お前は箱から離れろ」


二階から下りてきたバルガスは、衛兵を見ると裏口へ走った。だがマレナが置いていた蜘蛛糸の罠に足を取られ、床へ倒れた。手下たちが武器を抜くと、マレナは味方の行動を速め、敵の動きを遅くした。ガレスと衛兵が一斉に動き、短い戦闘で全員を取り押さえた。


バルガスは星光魔石の窃盗、盗品売買、証拠の偽造によって逮捕された。偽物の夜鴉も取引帳から身元が判明し、翌朝には捕らえられた。マレナは今回の窃盗について無実と認められたが、過去の九件は別だった。彼女は衛兵詰め所で被害額を確認し、一件ずつ返済する誓約書へ署名した。


「刑務所へは入らないのですか? 盗んだことは事実です」


「被害者の多くが返済を望み、服飾店もミラへの補償を条件に告訴を見送った。王家の魔石を取り戻した協力も考慮された。ただし、冒険者ギルドの監督下へ入り、報酬と所持品は毎回検査される。逃げれば、処分は変わる」


「分かりました。検査を受けます。返済が終わるまで、町を出る依頼にも許可を取ります」


家へ戻ると、ルカは隣人のエッダと台所で待っていた。卓上のスープは冷め、薄い脂が表面へ固まっている。窓辺では洗った靴下が乾き、白い雛菊の花が一輪だけ閉じていた。マレナは椅子へ座り、ルカと同じ高さまで顔を下げた。


「お母さんは、夜鴉という怪盗だったの。人の家や店から、宝石やお金を盗んでいた。月織りのコートも、冒険でもらったのではなく、お店から盗んだ物だった」


「じゃあ、僕がなくしたコートは、僕の物じゃなかったの?」


「そうよ。あなたに嘘をついた。なくしたあなたを叱ろうとしたけれど、本当は、お母さんに叱る資格はなかった」


ルカはすぐには何も言わなかった。冷めたスープの豆を匙で押し、器の底へ沈めている。やがて、もう人から盗まないのかと尋ねた。マレナは信じてほしいとは言わず、監督処分の書類と返済帳を卓上へ置いた。


「もう盗まない。でも、言葉だけでは信じられないと思う。これから働いて、一枚ずつ返す。ルカが自分で確かめて」


「僕、今日は一緒にご飯を食べる。でも、まだ少し考える。スープを温めてもいい?」


「もちろんよ。お母さんが温める。今夜は水を足しすぎないようにするわ」


マレナは鍋へスープを戻し、薪へ火をつけた。温まるまでの間、ルカは返済帳の余白へ、小さな黒い鳥を描いた。その鳥には仮面がなく、嘴には何もくわえていなかった。マレナは絵の意味を尋ねず、湯気の戻ったスープを二つの器へ分けた。


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