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第6話 仲間を速くする盗賊

第6話 仲間を速くする盗賊


春の初め、冒険者ギルドへ火喰い洞窟の調査依頼が出された。街道を通る荷馬車が炎獣に襲われ、炭焼き職人が近づけなくなったという。討伐報酬は一人につき銀貨三枚で、希少な銀炎毛皮を持ち帰れば追加報酬が出る。マレナは灰色の革鎧を着て、罠解除の道具と魔力回復薬を大きくしたマジックバッグへ詰めた。


ギルド食堂では、ガレスが朝食の焼き芋を食べていた。ティナは固い黒パンを山羊乳へ浸し、エリオは湯気で曇った眼鏡を拭いている。窓辺の鉢には桃色のプリムラが咲き、焼けた芋の甘い匂いが漂っていた。マレナが依頼書を置くと、ガレスは額を指で確かめた。


「行動短縮魔法は制御できるようになったのか。前回のような目には遭いたくないぞ」


「走る速さが変わる魔法ではありません。次の行動に移れるまでの時間を短くする魔法です。この前は、あなたが調子に乗って盾を連続で振ったのでしょう」


「俺の判断より先に、体が次の攻撃へ入ったんだ。今日は二割までにしろ。三割は許可しない」


四人は昼前に火喰い洞窟へ入った。入口には雪解け水が流れ、その脇から黄色い福寿草が顔を出している。洞窟の奥からは硫黄と焦げた獣毛の匂いが漂い、岩の割れ目には赤い光が見えた。マレナは先頭に立ち、細い棒で床を一枚ずつ確かめた。


「ここに感圧板があります。踏むと天井から焼けた砂が落ちます。右側の壁に沿って、一人ずつ進んでください」


「本当に大丈夫なの? 前回も、安全だと言った直後に私が毒針を受けたわよ」


「だから今日は、私が先に通ります。私と同じ場所へ足を置いてください。それでも疑うなら、ガレスに抱えてもらいましょう」


「それは遠慮するわ。荷物のように肩へ担がれそうだもの」


マレナは石板の下にあるばねを金具で固定した。自分で何度も罠を組み立てたため、指先の感触だけで留め金の位置が分かった。三人を通してから金具を回収したが、焼けた砂は一粒も落ちなかった。ティナは無事に通り抜けると、首筋に残った毒針の痕を撫でた。


最初の広間には、三頭の炎獣が待ち構えていた。赤黒い毛に覆われた体は仔牛ほどもあり、口から白い煙を吐いている。ガレスが大盾を構え、ティナとエリオが後方へ下がった。マレナは短剣を抜き、味方の行動間隔を短くする疾風の魔法を唱えた。


「二割短縮です。ガレスは正面、私は左へ回ります。エリオ、詠唱を始めてください」


「私の詠唱そのものは短くならない。完成まで敵を近づけるなよ」


「分かっています。そのために、敵の時間を遅くします」


マレナは炎獣へ遅延の魔法を放った。一頭の動きが重くなり、炎を吐いてから次に爪を振るまでの間が長くなる。その隙にガレスが盾で押し返し、マレナが横から短剣を二度打ち込んだ。以前より早く次の攻撃へ移れたが、三度目は無理に続けず、炎獣の足元へ蜘蛛糸の罠を置いた。


炎獣の前脚へ白い糸が絡みついた。別の一頭がエリオへ向かうと、マレナは岩を蹴って飛びかかり、短剣の柄を頭へ打ちつけた。不意を突かれた炎獣は足を止め、口にためていた炎を床へ吐いた。その間にも、エリオの詠唱は続いている。


「あと二節だ。もう少し止めてくれ!」


「ティナ、ガレスの治療を。こちらは私が引き受けます。魔力が減ったら、右側の袋に薬があります」


マレナは短剣で炎獣の鼻先を切り、反撃を避けた。動き出した敵には再び遅延魔法をかけ、次の攻撃が来るまでの時間を稼ぐ。エリオの詠唱が完成し、巨大な氷柱が広間の中央へ落ちた。三頭の炎獣が冷気を浴び、赤黒い毛に白い霜がついた。


ガレスが一頭を倒し、ティナが魔力回復薬を飲んだ。残った炎獣が糸の罠を引きちぎると、マレナは背後へ回った。赤い毛の奥に、銀色に輝く一束が見える。盗賊技能を使って指を差し入れ、自然に抜けかけていた毛皮を奪い取った。


「銀炎毛皮を盗みました。討伐後にも残れば、二束になります」


「戦っている最中に、よくそんなものを探せるな。前を見ろ、もう一頭来るぞ!」


「見えています。次は、私の必殺技を使います。全員、少し下がってください」


マレナは腰の金貨を一枚、炎獣の前へ投げた。獣が光へ目を向けた瞬間、足元へ仕掛けていた捕縛陣を起動する。金色の鎖が地面から伸び、炎獣の四肢を固定した。マレナは動けなくなった敵へ短剣を振り下ろし、ガレスも大盾を構えて突進した。


最後の炎獣を倒すと、銀色の毛皮がもう一束残った。盗んだ分と討伐後のレアドロップを合わせ、銀炎毛皮は二束になった。エリオは眼鏡を外し、本物かどうか何度も確かめた。ティナは魔力回復薬の苦さが残っているらしく、干し果実を口いっぱいに入れていた。


洞窟の奥には、鉄製の宝箱があった。蓋には三つの鍵があり、側面には古い魔法文字が刻まれている。マレナは全員を入口まで下がらせ、宝箱の周りに積もった灰を息で払った。細い穴と、魔力を流す導線が現れた。


「毒針と爆発魔法の二重罠です。毒針を先に固定します。魔法文字が赤くなったら、エリオは氷壁を出してください」


「解除できないと思ったら、すぐに離れろ。銀炎毛皮だけでも十分な報酬になる。宝箱のために命を賭ける必要はない」


「分かっています。開けることより、全員で帰ることを優先します」


マレナは毒針のばねを針金で固定し、魔法文字を一つずつ消した。左端の文字が一度赤くなったが、魔力の導線を切ると青へ戻った。最後に三つの鍵を開けると、中には炎耐性の指輪と金貨二枚が入っていた。誰も怪我をせず、毒針も爆発魔法も作動しなかった。


ギルドへ戻ると、銀炎毛皮二束は金貨三枚で売れた。依頼報酬と宝箱の金貨を加え、薬代などを差し引いた後、四人の取り分が計算された。余った銅貨一枚は、次の薬代として共同袋へ入れる。マレナは金貨一枚と銀貨二枚を受け取った。


「私が盗んだ毛皮も、四等分でよいのですか? 盗賊の技能で手に入れた物です」


「俺が炎を受け、エリオが氷魔法を使い、ティナが治療したから、お前は背後へ回れた。反対に、お前がいなければ二束目の毛皮も、宝箱の中身もなかった。だから四等分だ」


「では、帳面に全員の名前と金額を書いてください。後で一枚足りないと言われても、私は知りませんから」


帰宅したマレナは、ルカと一緒に報酬を数えた。夕食のスープには卵と燻製肉が入り、鍋から油の甘い匂いが上がっている。ルカは帳面へ六本脚の炎獣と、銀色の毛皮を描いた。マレナは金貨一枚を別の袋へ入れ、解雇された少女へ送るための封筒を用意した。


翌朝、マレナは差出人の名前を書かない封筒をガレスへ見せた。解雇された少女の名はミラといい、今は町外れの洗濯場で働いているという。封筒には金貨一枚と、失った給金への補償だと記した手紙を入れていた。ガレスは封を閉じる前に、空欄になっている差出人の場所を指で叩いた。


「匿名で金を送り、相手が受け取れば終わりか。顔を隠して、自分の都合で盗んでいた頃と何が違う?」


「名乗れば衛兵へ突き出されるかもしれない。私が捕まったら、ルカは一人になるわ」


「それを決めるのは、被害を受けた少女だ。許すか、訴えるか、金を受け取らないかを、お前が先に決めるな。子どもを理由にするなら、最初から盗むべきではなかった」


マレナは封筒を握り、紙の角を潰した。反論しようとしたが、どの言葉も怪盗だった頃の言い訳と同じだった。新しい封筒を一枚もらい、差出人の欄へ自分の名前を書く。文字は少し曲がったが、書き直さなかった。


洗濯場では、白いシーツが春の風に揺れていた。石鹸と湯気の匂いが満ち、足元には濁った水が細い川を作っている。ミラは紺色の仕事着の袖を肘までまくり、大きな桶の中で毛布を踏んでいた。穴の開いた靴は、太い糸で何度も縫われていた。


「ミラさん。月織りのコートがなくなった夜のことで、話があります。あれを盗んだのは、あなたではありません」


「そんなことは知っています。私が盗んでいないことは、私が一番よく知っています。でも、誰も信じませんでした」


「盗んだのは私です。怪盗『夜鴉』として店へ入りました。あなたが解雇されたと知った後も、名乗りませんでした」


ミラの足が毛布の上で止まった。桶の中の水だけが揺れ、石鹸の泡が縁から床へこぼれた。近くで働いていた女たちも手を止め、マレナを見た。彼女は逃げずに金貨の袋を差し出した。


「これは今回の冒険で得た、私の取り分です。失った給金と仕事が見つかるまでの費用として受け取ってください。足りない分は毎月払います」


「これを受け取れば、あなたを許したことになるのですか?」


「なりません。受け取らなくても構いません。衛兵へ届けるなら、私も一緒に行きます」


ミラは、金貨一枚でなかったことにはできないと答えた。母親へ送るはずだった給金を失い、別の店でも泥棒と呼ばれたという。それでも返済金は受け取ることにした。許すためではなく、マレナが負うべき代金だからだった。


二人は洗濯場の休憩室で、返済契約書を作った。卓上には冷めた薄荷茶と、誰かが食べ残した固いパンが置かれている。洗濯場の女主人が内容を書き、マレナとミラが署名した。毎月銀貨三枚を支払い、服飾店の主人にも自分が盗んだと証言することが条件になった。


「支払いが終わっても、あなたを許すとは約束しません。それでも署名しますか?」


「はい。許すかどうかは、あなたが決めることです。私は盗んだ分を返します」


洗濯場を出ると、道端に黄色い水仙が咲いていた。財布には家賃と食費を除けば、銅貨が数枚しか残っていない。明日からも依頼を受け、ルカを育てながら返済を続けなければならなかった。それでもマレナは顔を隠さず、次の仕事が貼り出される冒険者ギルドへ向かって歩いた。


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