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第5話 盗むより難しいこと

第5話 盗むより難しいこと


翌朝、マレナは保育所が開くより一時間早く目を覚ました。台所の窓には白い霜がつき、床へ置いた水桶には薄い氷が張っている。彼女は灰色の訓練着へ着替え、昨夜組み立てた木製の罠をマジックバッグへ押し込んだ。容量が足りず、留め金の一部が袋の口からはみ出していた。


ルカは毛布の中から顔だけを出し、目をこすりながら母親を見た。寝台の脇には薄茶色の上着が畳まれ、袖へ新しく継いだ布が朝の光を受けている。マレナは大麦パンへ山羊乳のチーズを挟み、昼食用の布へ包んだ。残っていたチーズが薄かったため、自分のパンには端の崩れた部分だけを入れた。


「お母さん、今日は薬草を採りに行かないの? その袋から、変な針金が出ているよ」


「訓練場へ行くの。昨日、仲間に怪我をさせた罠と同じものを作ったから、今度は見つける練習をするわ」


「お母さんが作った罠で、誰かが怪我をしない?」


「教官だけには踏ませてみたいけれど、我慢する。今日は罠を外すほうの練習よ」


冒険者ギルドの訓練場では、教官のオルドが湯気の立つ芋を食べていた。太い指へ塩がつき、机の上には皮が小さな山になっている。マレナが教本と木製の罠を差し出すと、彼は芋を飲み込み、罠を裏返した。留め金の向きが逆で、このままでは踏んでも針が飛ばないと指摘された。


「安全でよかったじゃない。罠としては役に立たなくても、誰も怪我をしないわ」


「解除するには、正しく動く仕組みを知らなければならん。壊れた罠だけ覚えても、実戦では使えない。まずは針が飛ぶ形へ組み直せ」


「文字を読んでも、留め金の向きが分からなかったの。図には右向きに描いてあります」


「罠を裏から見れば、右と左が逆になる。文字だけで分からないなら、最初から実物を見ろ。そのために訓練場がある」


オルドは木箱から練習用の罠を六種類取り出した。毒針、落とし穴、鳴子、麻痺煙、網、爆発石の罠が順番に並ぶ。マレナは一つずつ分解し、部品を布の上へ置いた。元へ戻そうとすると、必ず小さなばねが一つ余った。


一度目は網が天井ではなく、マレナの顔へ飛んだ。二度目は鳴子の紐がオルドの芋へ絡まり、食べかけの半分が床へ落ちた。三度目には麻痺煙の袋を逆に取りつけ、自分の袖へ黄色い粉を浴びた。オルドは大声で笑ったが、マレナは帰らなかった。


「笑いたければ笑ってください。でも、もう一度同じ罠を出して。次は部品を余らせないわ」


「では、このばねがどこに入るか考えろ。俺の芋を二つ駄目にした分、今日は閉場まで残ってもらうぞ」


「一つは私ではなく、床が食べたのよ。もう一つは弁償します。銅貨一枚で足りますか?」


三日目には、毒針の罠を分解して元へ戻せるようになった。五日目には、砂の下へ隠された踏み板を棒の感触だけで見つけた。七日目には、六種類の罠をすべて解除した。指先には針で刺した小さな傷が増えたが、同じ場所を二度傷つけることはなかった。


午後は、ガレスたちと補助魔法の訓練をした。ティナはすでに治療院を退き、首筋へ小さな傷痕を残していた。赤い髪を高く結び、厚い白色の治療服の上へ毛糸の肩掛けを羽織っている。彼女はマレナが持ってきた紫色のクロッカスを水差しへ挿し、訓練場の窓辺に置いた。


「本当に見つけてきてくれたのね。約束を忘れたと思っていたわ。でも、根から抜いてはいないでしょうね?」


「花だけよ。来年も咲くように、茎を少し残したわ。それより、今日は加速魔法を試したいの」


「私には使わないで。毒が抜けたばかりなのよ。最初は頑丈なガレスにして」


ガレスは嫌そうな顔をしたが、大盾を構えて訓練場の中央へ立った。マレナは教本へ書かれた呪文を読み、対象の行動間隔を半分にする加速魔法を唱えた。文字を追ううちに舌がもつれ、同じ一節を二度読んでしまう。ようやく魔法が発動すると、青白い光がガレスの両足を包んだ。


「では、向こうの壁まで走って戻ってください。普段より少し速くなるだけです。止まりたいときは、足へ力を入れれば止まれます」


「少しという言葉を信用していいのだな。前回、お前はマジックバッグを少し広げると言って、底を破った」


「今度は大丈夫よ。たぶん」


ガレスが一歩を踏み出した途端、姿が消えた。次の瞬間、訓練場の反対側から大きな音が響いた。止まる間もなく壁へ突っ込み、立てかけてあった木剣をすべて倒したのだった。ガレスは壁へ額をつけたまま、しばらく動かなかった。


「マレナ。俺を速くする魔法ではなく、殺す魔法をかけたのか?」


「行動間隔を半分にするつもりが、速度を三倍にしたみたい。すごいわ、才能があるのかもしれない」


「制御できない力を才能とは呼ばない。解除しろ。今すぐだ」


マレナは慌てて解除呪文を唱えたが、詠唱に時間がかかった。ガレスは動かないよう両手で壁をつかみ、ティナは笑いながら額の傷を治療した。エリオは魔法陣を調べ、対象へ流す魔力の量を半分にするよう教えた。彼自身も詠唱が遅く、大魔法を完成させるまで敵に待ってもらいたいと何度も思ったという。


夜になると、マレナは家で詠唱速度を上げる練習をした。ルカは食卓の前へ座り、砂時計を逆さまにする係を任された。夕食の豆スープには小さな蕪が二切れ入っていた。ルカは一切れを匙の底へ隠し、最後まで残してから食べた。


「お母さん、今の呪文は砂が全部落ちる前に終わったよ。でも途中で『迅速なる風よ』を二回言った」


「二回言ったほうが、風も急いでくれるかもしれないでしょう。もう一度やるわ。今度は一回で言うから、砂時計を戻して」


「今日はもう十七回もやったよ。十八回目が終わったら、僕に昔話を読んでくれる?」


「分かったわ。でも、その本は竜の名前が長すぎるの。途中で寝ても怒らないでね」


ルカが砂時計を返し、マレナは同じ呪文を唱えた。最初は砂が落ちきっても終わらなかった詠唱が、十八回目には半分ほど残るようになった。文字を見ながらでは遅いため、ルカが一節ずつ読み、マレナが声に出して覚えた。呪文の最後を間違えるたび、ルカは教師のように指を一本立てた。


加速魔法の次は、ダンジョンから全員を脱出させる帰還魔法を練習した。ギルドの中庭から正面玄関へ移動するだけの初歩的な訓練だった。マレナは地面へ座標を示す魔法陣を描き、ガレス、ティナ、エリオと輪の中へ入った。オルドは失敗しても川の中へ出ないよう、座標を二度確認した。


「行き先はギルド正面の花壇前。待雪草を踏まないよう、石畳の中央へ出るのよ。皆、荷物を体から離さないで」


「前にも帰還魔法を使ったことはあるのか?」


「一人用なら三回あるわ。二回は成功した。残りの一回は、隣町の豚小屋へ出ただけよ」


「今それを言うな。中止にしたくなる」


マレナが呪文を唱えると、足元の魔法陣が白く光った。体が一度浮き、冷たい風が頬を打つ。次に足が地面へ着いたとき、待雪草も正面玄関も見えなかった。代わりに白いシーツと下着が頭上で揺れていた。


四人は、ギルド裏の洗濯場へ転送されていた。ティナの顔には濡れた靴下が張りつき、エリオは洗濯桶の中へ片足を入れている。ガレスの大盾が紐を二本切り、干してあった衣類が一斉に雪の上へ落ちた。洗濯係の女性たちは、棒を持って四人を取り囲んだ。


「何をしているんです! せっかく洗ったシーツを全部落として! 下着を盗みに来たのなら、衛兵を呼びますよ!」


「違います。帰還魔法の座標を少し間違えただけです。正面玄関へ出る予定でした」


「建物の表と裏を間違えることを、少しとは言いません。拾って、洗い直して、全部干してから帰りなさい!」


四人は夕方まで洗濯を手伝った。冷たい水でシーツをすすぎ、絞ってから紐へ掛ける。ガレスは力を入れすぎて一枚破き、弁償することになった。マレナは何度も謝りながら、石鹸の匂いが染みついた下着を一枚ずつ干した。


失敗の話は、その日のうちにギルド中へ広まった。食堂へ入ると、誰かがガレスに壁は痛かったかと尋ね、ティナには靴下が似合っていたと声をかけた。マレナにも、次は厩舎へ転送してくれと冗談を言う者がいた。彼女は耳まで赤くなったが、翌朝も訓練場へ行った。


一週間後、マレナは低級ダンジョンの探索へ参加した。毒針を発見し、鳴子の紐を切り、宝箱の麻痺煙を安全に抜いた。加速魔法はガレスを壁へ飛ばさない程度に調整できた。帰還魔法も、今度は四人を正面玄関の石畳へ転送した。


報酬は、一人あたり銀貨一枚と銅貨八枚だった。怪盗だった頃なら、一晩でその十倍を盗めた。それでもマレナは、報酬袋を服の下へ隠さず、ロッタの前で中身を確認した。ガレスも出発前と帰還後に彼女の荷物を調べたが、仲間の品は一つも出てこなかった。


帰宅すると、ルカは台所の卓へ小さな布を敷いた。マレナは銀貨一枚と銅貨八枚を、その上へ並べた。盗品を売った金は、いつも床板の下へ隠していた。息子の前で一枚ずつ数えるのは初めてだった。


「これは今日、お母さんがダンジョンで働いてもらったお金よ。銀貨にはギルドの印も入っている。明日は、この中から家賃を払います」


「パンも買える? 薪もなくなりそうだよ。ティナさんのお薬代は、もう払わなくていいの?」


「パンと薪は買えるわ。薬代は皆で払ったから、追加では払わない。その代わり、もう毒針を踏ませないよう勉強するの」


ルカは古い帳面を持ってきた。マレナは今日の日付、依頼の名前、受け取った報酬を書いた。文字は右へ傾き、行から何度もはみ出した。ルカはその横へ、丸いパン、三本の薪、小さな薬瓶の絵を描いた。


「銀貨一枚で、これを全部買えるの?」


「全部は無理よ。パンと薪を買えば、薬は買えないかもしれない。だから明日も働くの」


「じゃあ、薬瓶は小さく描く。残ったお金で買えるくらいにするね」


マレナは曲がった文字と、形の不揃いな絵を見た。盗んだ宝石で買った肉より、今日の薄い豆スープのほうが喉を通った。銀貨一枚では冬を越せず、ルカへ新しいコートも買えない。それでも、その金がどこから来たのか、息子に隠す必要はなかった。


ルカが眠った後、マレナは帳面を食卓へ残した。床板の下へ入れず、誰に見られてもよい場所へ置いた。隣には罠の教本と、何度も組み直した木製の仕掛けを並べる。窓の外では雪がやみ、待雪草の白い花が月明かりを受けていた。


マレナは帰還魔法の座標を帳面へ書き、正面と裏口を間違えないよう赤い丸をつけた。次に、加速魔法の魔力量を数字で記録した。盗むより、覚えることのほうが時間も手間もかかった。それでも彼女は蝋燭へ火をつけ、ルカの寝息を聞きながら、教本の次の頁を開いた。


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