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第4話 役に立たない盗賊

第4話 役に立たない盗賊


怪盗の仮面を燃やした翌朝、暖炉には黒い留め具だけが残っていた。マレナは火箸で灰をかき、焦げた布の塊を鉄製の塵取りへ移した。台所の窓を開けると、冷たい風と一緒に雪の匂いが入り、窓辺の枯れた小菊がかすかに揺れた。昨夜の粥を温める鍋からは、焦げた大麦の匂いが上がっている。


ルカは薄茶色の上着を着て、暖炉の前で靴下を履いていた。月織りのコートをなくしてから、上着の袖を何度も引っ張る癖がついている。縫い足した布は色が違い、右の袖だけ太く見えた。それでもルカは何も言わず、残っていた粥を木の匙ですくった。


「お母さん、今日は角兎と戦うの? 今度は角を持って帰ってきてね。保育所の先生に見せたいんだ」


「角兎より、もう少し強いモンスターを探すわ。お母さんは今日から、本物の冒険者になるの」


「今までも冒険者だったでしょう? 怪物と戦って、コートをもらったって言ったよ」


マレナは鍋を洗うふりをして、ルカへ背を向けた。冷たい水へ手を入れると、指の節が赤くなる。コートのことを打ち明ける言葉は、まだ見つからなかった。彼女は洗った器を棚へ置き、保育所へ持たせる黒パンを布で包んだ。


冒険者ギルドの訓練場には、朝から剣を打ち合う音が響いていた。軒下の花壇には白い待雪草が咲き、積もった雪から小さな花を出している。マレナは黒い怪盗服ではなく、灰色の革鎧と焦げ茶色のズボンを身につけていた。腰には磨き直した短剣と鍵開け道具を下げ、背中には小さなマジックバッグを背負っている。


受付係のロッタは、マレナを見ると飲みかけの山羊乳を置いた。机の上には依頼札が山積みになり、昨日こぼした砂糖が帳面の端へ固まっている。マレナが討伐依頼を求めると、ロッタは眼鏡を上げて彼女の装備を見た。いつもの薬草籠がないことを確かめ、低級モンスターの一覧を取り出した。


「今度は本当に戦うつもりなのね。では、角兎を五匹倒して、毛皮を納める依頼はどう? 盗賊技能で角を余分に取れれば、追加報酬も出るわ」


「角兎から物を盗む方法を、先に教えてもらえる? 昨日やってみたら、指を噛まれたの」


「五年も盗賊をしていて、盗む技能が初級のままなの? 何を盗んで生活していたのよ」


「薬草よ。少し離れた場所に生えている薬草を、モンスターより先に取っていたの」


ロッタは何か言いかけたが、長く息を吐いただけで依頼札を渡した。マレナは町外れの草原へ行き、角兎を探した。雪の上には小さな足跡が続き、枯れ草の間から白い耳がのぞいている。マレナは背後へ回り、教わったとおり右手を伸ばした。


一匹目から盗めたのは、柔らかな白い毛が三本だけだった。二匹目には気づかれて額を突かれ、三匹目からは何も盗めなかった。討伐後に残った毛皮も傷が多く、買い取り額を減らされた。半日かけて得た報酬は、銅貨十五枚だった。


翌日は、森に住む毒蜥蜴から毒袋を取る依頼を受けた。マレナは通常の毒袋を三つ盗んだが、珍しい紫色の毒袋は一つも手に入らなかった。依頼の途中でマジックバッグが満杯になり、拾った薬草をいくつも置いて帰ることになった。容量拡張の魔法を使おうとしたが、詠唱に時間がかかり、その間に毒蜥蜴へ尻を噛まれた。


一週間働いても、稼げた金は家賃の半分にも届かなかった。薪、食料、ルカの保育料を払うと、財布には銅貨が六枚しか残らない。怪盗だった頃なら、貴族の財布一つで一月は暮らせた。夜になると、屋根の上を走っていた時間に目が覚め、床板の下へ手を伸ばしそうになった。


「人からは盗まない。もう決めたでしょう。明日は今日より、一枚多く稼げばいいのよ」


マレナは暗い台所で、自分へ言い聞かせた。寝台ではルカが寝返りを打ち、古い毛布から足を出している。彼女は息子の足を毛布へ戻し、火の消えた暖炉を見た。薪は朝の分しか残っていなかった。


次の日、マレナはギルドの掲示板へ臨時仲間募集の札を貼った。一人では受けられない洞窟の探索依頼なら、報酬は銀貨十二枚になる。古代の宝箱を発見すれば、中身も正規の手続きで分配される。罠解除に自信のある盗賊を募集している一団があったため、マレナは自分から声をかけた。


「鍵なら開けられます。貴族が使う三重錠でも、一分あれば十分です。足手まといにはなりません」


「鍵には強そうだな。だが、財布にも強いという噂を聞いた。怪盗『夜鴉』と同じ手つきをする女がいるそうじゃないか」


「私は冒険者の仲間から盗んだことはありません。人の財布へ触れないと約束します。必要なら、出発前と帰還後に荷物を調べてください」


男はマレナを上から下まで見てから断った。次の一団も、宿屋で盗難があったばかりだという理由で受け入れなかった。三組目の冒険者は、マレナが近づいただけで財布を上着の内側へ移した。過去の盗みを公に認めてはいなかったが、盗品商のバルガスが面白半分に噂を流しているらしかった。


昼を過ぎても、組んでくれる者は見つからなかった。マレナは食堂の隅へ座り、家から持ってきた黒パンを水へ浸して食べた。隣の卓では肉入りのパイが切り分けられ、焼けた脂の匂いが漂っている。腹が鳴るたびに水を飲んだが、古いパンはなかなか喉を通らなかった。


「監視をつける。それでも構わないなら、俺たちと来い」


声をかけたのは、鉄製の大盾を背負った男だった。名はガレスといい、黒い髪には白いものが混じっている。厚い革鎧の胸元には何度も補修した跡があり、左の籠手には乾いた泥がついていた。彼の後ろには、赤毛の治癒術師と、眼鏡をかけた魔導士が立っていた。


「私はティナ。こちらはエリオよ。財布と報酬袋はガレスが持ちます。あなたは勝手に仲間の荷物へ触れない。それでいいなら、一緒に行きましょう」


「構いません。私の荷物も確認してください。ところで、昼食の残りがあるなら、銅貨二枚で分けてもらえませんか」


「パイの端なら余っているわ。銅貨はいらない。その代わり、洞窟で私に毒針を踏ませないでね」


四人は翌朝、町の北にある石灰洞窟へ向かった。道の脇では、雪の間から紫色のクロッカスが顔を出している。ティナは花を摘もうとしたが、帰りにも咲いていたら一輪だけもらおうと言って手を止めた。ガレスはその横で、保存食の干し肉を四等分して配った。


洞窟の中は湿り、石の壁から水が滴っていた。足元には細かな白い砂が積もり、革靴が滑るたびに音が反響する。マレナは先頭に立ち、短剣の柄で床や壁を叩きながら進んだ。怪盗時代にも床の罠は見てきたが、屋敷と洞窟では仕組みが違った。


最初の宝箱は、錆びた二重錠だった。マレナは針金を差し込み、わずかな音の違いを聞き分ける。錠は三十秒もかからずに開いた。中には銀鉱石と小さな魔石が入り、エリオが感心して眼鏡を上げた。


「鍵開けだけなら、上級盗賊にも負けないな。どうして木札級のままなんだ?」


「昇級試験が嫌いなの。時間を計られると、いつもできることまで失敗するから」


「俺も詠唱試験では三度落ちた。緊張すると、最初の一節を二回唱えてしまう。別に珍しいことじゃない」


次の通路には、何もないように見えた。マレナは壁へ耳を当てたが、歯車の音は聞こえない。床の石にも不自然な継ぎ目はなかった。安全だと判断し、三人へ進むよう合図した。


ティナが三歩進んだ瞬間、靴の下で小さな音がした。壁の穴から細い針が飛び、彼女の首筋へ刺さる。ティナは針を抜こうとしたが、指に力が入らず、杖を床へ落とした。膝が崩れ、そのまま白い砂の上へ倒れた。


「動かすな! エリオ、明かりを強くしろ。マレナ、毒の種類は分かるか?」


「分かりません。針があることにも気づけなかった。私の教本には、こんな罠は載っていなかったの」


「教本を最後まで読んだのか?」


マレナは答えられなかった。ガレスはティナを抱き上げ、来た道を戻った。エリオは解毒魔法を試したが、詠唱に時間がかかり、ティナの唇は次第に紫色へ変わっていく。洞窟を出るまで、マレナは何度も後ろを振り返ったが、追ってくる魔物はいなかった。


町の治療院で、ティナには希少な解毒薬が使われた。代金は銀貨八枚だった。洞窟で見つけた銀鉱石と魔石を売り、四人の報酬から支払うと、残ったのは銀貨一枚と銅貨十枚だけだった。ガレスはそれを四等分し、マレナの掌へ銅貨だけを置いた。


「鍵を開けられるだけの者を、仲間とは呼べない。盗賊の仕事は、一番に宝箱へ触ることじゃない。仲間が踏む前に、罠を見つけることだ」


「分かっています。私の失敗です。ティナの薬代は、私の取り分から追加で払います」


「今のお前に払えるのか。払えない約束をして、責任を取った顔をするな。次に同じ罠を見つけられるようになれ」


治療院の寝台から、ティナがかすれた声で二人を呼んだ。首筋には白い布が巻かれ、赤い髪は汗で額へ張りついている。それでも彼女は、洞窟の帰りにクロッカスを摘めなかったと話した。マレナは花なら明日持ってくると約束しかけたが、必ずとは言わなかった。


「明日、雪が降らなければ探してきます。代わりに、罠の形を教えてください。踏んだとき、床はどう動きましたか」


「右足の踵が少し沈んだわ。石じゃなくて、砂の下に薄い板があったのだと思う。でも、次は私に踏ませないでね。毒針は肩が凝るから嫌いよ」


帰宅すると、ルカが台所の卓で待っていた。夕食には豆のスープと、一切れの黒パンが用意されている。保育所から戻った後、自分で鍋へ水を足して温めたらしく、豆は底へ沈み、上のほうには薄い汁しかなかった。ルカは自分の器から豆を半分すくい、マレナの器へ入れた。


「お母さん、今日は強いモンスターと戦った? 報酬をたくさんもらえた?」


「失敗して、仲間に怪我をさせたの。報酬は薬代になったから、これだけよ」


マレナは銅貨を卓上へ並べた。ルカは数を一緒に確かめ、パンと豆なら何日分になるか考えた。足し算を二度間違えた後、今日はパンを半分だけ食べればよいと言う。マレナは息子のパンを減らさず、自分の分をスープへ浸した。


「お母さん、明日は冒険へ行かないの? 怪我をした人のお見舞いに行くの?」


「その前に、勉強をするわ。お母さんは鍵を開けることしかできない盗賊だったの。次は、仲間が怪我をする前に罠を見つけなければならないから」


ルカが眠った後、マレナは床板の下から盗賊の教本を取り出した。五年前にギルドから渡されたまま、表紙には埃が積もっている。パンくずを払い、蝋燭のそばへ置くと、最初の頁から開いた。細かな文字と罠の図が並び、読んでもすぐには頭へ入らなかった。


マレナは薄い木板と針金を持ってきて、教本の図と同じ形へ並べた。文章を三度読むより、一度手を動かしたほうが分かりやすかった。針金が板を押し、留め金が外れ、毒針が飛ぶ。洞窟でティナが踏んだものと同じ仕組みだった。


「鍵を開けるだけでは、仲間とは呼べない」


ガレスの言葉を口にすると、寝台でルカが小さく寝返りを打った。マレナは声を落とし、木板を元の位置へ戻した。台所には冷めた豆のスープの匂いが残り、窓の外では細かな雪が降り始めていた。彼女は蝋燭が半分になるまで、罠を組み立てては外す作業を繰り返した。


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