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正解圏外 – The Outside of the Answer – 灰歴のアリア編  作者: 咲凪すず


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【1部】第6話「同調」

人は、自分で決めて生きていると思っている。

今日何を食べるか、どこへ行くか、誰と話すか。

小さなことから、大きなことまで、

人は自分で選んでいると思っている。

けれどもし、

常に正しい答えが示される世界に生まれたなら、

人はそれでも、自分で決めていると言えるのだろうか。

間違えない選択。

失敗しない選択。

損をしない選択。

それがいつも目の前に提示される世界で、

人は「選んでいる」のか、

それとも「従っている」だけなのか。

これは、

正解を選び続けてきた人と、

正解ではない選択をした人と、

そしてそれを見た少女の話。

昼のアウレリア中層。

 白い機体が、同じ動きで腕を振り下ろした。

 別の機体が同じ速度で資材を運び、同じ角度で旋回し、同じ位置にそれを置く。

 迷いがない。

 止まらない。

 判断している気配がない。

「……人が乗ってるんですか、あれ」

 アリアが聞いた。

「いや、AI制御。都市の汎用フレームだよ」

 白い機体の胸部に管理番号が光っている。

 REGULUS――アウレリア管理フレーム。

「あれは人間が判断しなくていい作業をやる機械」

「……間違えないですね」

「間違えないね」

 しばらく見てから、アリアは言った。

「でも、人じゃないですね」

「都市の手足だからね」

 白い機体は迷わず動き続ける。

 そこにいるのは、人間ではなく、正確な動きだけだった。


 昼過ぎ、休憩所。

「お、真白じゃないか」

 声をかけてきたのは、作業着姿の男だった。

 腕に同調率を示すバンド。

「久しぶりだね、ハルト」

「最近ずっと中層の工事だ。人手不足でな」

 ハルトはアリアを見た。

「見学か?」

「はい」

 ハルトは笑った。

「ここは楽だぞ。同調して、表示された通りに動くだけだ」

「同調って、楽なんですか?」

「楽だな。間違えないし、怒られないし、失敗しない」

「……」

「昔はよくミスしてさ。でも同調率が上がってからは、正解を選び続けてればいい」

 ハルトは自分の腕のバンドを軽く叩いた。

「同調率が上がると、仕事も増える。給料も上がる」

 少し照れくさそうに笑う。

「娘がいるんだ。学校行かせてやりたい」

 それから、少し真面目な顔で言った。

「だから俺は、正解を選ぶよ」

「……」

「正解を選んでれば、ちゃんと生きていける」

 その言葉を、アリアはしばらく覚えていた。


 夕方、作業エリア。

 同調型フレームが並び、一瞬だけ止まり、次の行動を選んでから動く。

「同調してると、最適行動が出る」

 真白が言う。

「それを選ぶんですね」

「そう。選ぶのは人間だ」

 その時、警報が鳴った。

 金属音。

 崩落音。

 誰かの叫び声。

 工事用足場が崩れた。

 瓦礫の隙間から、作業着が見える。

 アリアは息を止めた。

「……ハルトさん?」

 同調フレームのHUDに表示が出る。

 ――最適行動:救助不可

 ――二次崩落確率:72%

 ――フレーム損失確率:64%

 ――作業員生存確率:18%

 フレームが動かない。

「助けないんですか」

 アリアが言った。

 操縦者が答える。

「同調中は、最適行動が出る」

「……」

「最適行動は、救助しないことだ」

 瓦礫の下から、かすかな声。

「……だれ、か……」

 アリアは前に出た。

「ハルトさん!」

 中から、かすかな声。

「……見学の、子か……」

「今、助けます!」

「……だめだ……」

 息が苦しそうだった。

「……正解を……選べ……」

 アリアは言葉を失った。

 操縦者が静かに言う。

「助けたら、フレームが壊れるかもしれない」

「……」

「フレームが壊れたら、他の作業が止まる」

「……」

「都市の損失が増える」

「……」

「だから、最適行動は、救助しない」

 アリアは聞いた。

「それでも助けたいなら、どうするんですか」

 操縦者は少し黙って、

「同調を切る」

「切ったら?」

「最適行動は出ない」

「……」

「自分で決めることになる」

 操縦者は続けた。

「成功率は下がる。フレームも壊れるかもしれない。俺も死ぬかもしれない」

 そして、静かに言った。

「それは正解じゃない」

 少しだけ間を置いて、

「……でも、俺が決める」

 ――同調解除

 フレームの光が弱くなる。

 動きがぎこちなくなる。

 それでも瓦礫に手をかける。

 警告音。

 金属の軋み。

 瓦礫を持ち上げる。

 ハルトを引きずり出す。

 その瞬間、フレームの腕が折れ、機体が崩れ落ちた。

 操縦者が降りてくる。

 整備員が叫ぶ。

「何やってる! 同調を切るなって言っただろ!」

「フレーム大破だぞ!」

「処分ものだぞ!」

 操縦者は少し笑って、

「……そうだな」

 担架に乗せられたハルトが、少し目を開けた。

「……なんで……助けた……」

 操縦者は少し考えて、

「俺がそうしたかったからだ」

「……正解じゃ、ないのに……」

 操縦者は言った。

「正解じゃない。でも、俺が決めた」

 ハルトは少しだけ笑った。

「……そっか……」

 それだけ言って、目を閉じた。


 夜。都市を見下ろす高台。

 アリアが言った。

「AIは判断しない」

「同調してる人は正解を選ぶ」

「でも同調を切った人は、自分で決めた」

 少し沈黙。

「自分で決めるって、何なんでしょう」

 真白は少し考えて言った。

「さあ」

「……難しいですね」

「そうだね」

 真白は少しだけ笑った。

「でも」

「はい」

「君は、それをやる人だ」

 アリアは少し迷って、

「……はい」

 と答えた。

 夜の都市では、AIフレームが迷わず動き続けている。

 同調フレームは正解を選び続けている。

 その中で、自分だけが迷っている。

 でも、迷っているのは――

 自分で決めようとしているからだ。

 その時、アリアは少しだけ分かった気がした。

 正解があっても、人は選ぶのかもしれない。


第6話「同調」了

この都市では、正解が示される。

正解を選べば、失敗しない。

正解を選べば、損をしない。

正解を選べば、ちゃんと生きていける。

だから多くの人は、正解を選ぶ。

それは間違いではないし、

むしろ、とても正しいことだ。

けれどこの話の中で、

一人の人間が、正解ではない方を選んだ。

それは正しい行いだったのか、

間違った行いだったのか、

きっと立場によって答えは変わる。

ただ一つだけ確かなことは、

その選択は「正解がそう言ったから」ではなく、

「自分でそうすると決めた」選択だったということだ。

正解があっても、

人は選ぶ。

この物語は、

その当たり前で、

でもとても難しいことの話です。

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