【2部】第17話「国家」
国家は、正しい。
そう思っていた。
個人では届かない判断を、
国家はできるから。
だから人は、従う。
でも。
もし国家が、
決められなくなったら。
そのとき。
人は、どうするのだろう。
空間が、定まらない。
NOMADの姿勢が揺れる。
出力は正常。
だが――進んでいるのか、分からない。
LOG:
「姿勢制御、補正中」
「……補正結果が収束しません」
「うん」
アリアは前を見る。
空が、重なっている。
同じ場所に、
少しずれた世界が、いくつもある。
光が遅れる。
音が遅れる。
自分の動きも、遅れて見える。
「……なんか、増えてるね」
LOG:
「空間層の重複を確認」
「座標が確定できません」
NOMADの翼がわずかに震える。
推進が乱れる。
進んでいる。
だが、どこへかは分からない。
「まあ、いいか」
アリアは進む。
理由はない。
ただ、そっちだと思う方向へ。
背後。
フィリアは地面を蹴る。
跳躍。
着地。
推進補助。
空は使わない。
信用できない。
「……空間安定率、低下」
周囲を確認する。
地面が揺れている。
同じ場所が、別の形になる。
「記録が一致しない……」
未来を読む。
だが。
「……収束しない」
予測が、確定しない。
それでも進む。
「単独追跡、継続」
前方。
旧文明ドローン。
歪んだ輪郭。
複数の形が重なっている。
LOG:
「自動防衛装置を確認」
反応。
停止。
揺れ。
照準。
外れる。
「……なにそれ」
LOG:
「敵対判定、不確定」
ドローンが近づく。
撃たない。
通過する。
「……変なの」
アリアは進む。
フィリア到達。
識別。
通過。
問題なし。
「……識別許可」
だが、わずかに違和感。
消えない。
さらに奥。
地形が変わる。
同じ場所が、別の形になる。
LOG:
「記録維持不能」
「情報が保持できません」
「じゃあ、いらないね」
空間歪曲。
ドローン群。
今度は攻撃。
光線。
――ズレる。
当たらない。
未来が確定しない。
LOG:
「演算不能」
「未来予測、収束せず」
アリアは動く。
結果が決まらない。
だから、当たらない。
フィリアが介入。
槍。
結界。
一瞬だけ世界が整う。
攻撃が止まる。
ドローンが後退。
「……秩序領域、一時確立」
だが。
維持できない。
崩れる。
「……ここでは」
わずかな間。
「正しい状態を維持できない」
沈黙。
アリア:
「……決まってない感じ」
フィリアは答えない。
否定できない。
LOG:
「最適解、提示不能」
沈黙。
アリアは言う。
「いいよ」
「じゃあ、自分で決める」
――同時刻。
アウレリア。
上層管理区。
監視室。
オペレーター:
「境界域、異常反応」
「空間データ……取得不能」
「再計測しろ」
ノイズ。
揺れる表示。
「識別不明個体を確認」
「フレームコード……不一致」
一瞬。
数値が揺れる。
「……一致?」
空気が止まる。
「何と一致した」
言いかけた瞬間。
通信。
「それ以上言うな」
静かな声。
誰も動かない。
「そのデータは、上に回せ」
沈黙。
「……了解」
誰も、次の言葉を出さなかった。
皇城層。
報告が上がる。
最小限。
判断待ち。
沈黙。
長い。
誰も、決めない。
「対象」
短い声。
「監視対象に指定」
間。
「排除は行うな」
さらに間。
「……境界への追加介入も制限する」
理由は示されない。
だが。
その判断は――異常だった。
――同時刻。
セラフィア。
神託殿。
巫女が目を閉じる。
沈黙。
長い。
「……見えない」
それだけ。
神官:
「……不可能です」
「神託は――」
「見えません」
言葉が、そこで止まる。
別の報告。
「封印区、識別異常」
「フィリア様は正常」
「もう一つ」
沈黙。
「識別不能個体」
「……分類不可」
教皇庁。
判断が止まる。
誰も断定しない。
「……管理不能」
やっと出た言葉。
「追跡は継続」
間。
「……だが」
さらに間。
「直接介入は控えろ」
それは判断ではなく、
回避だった。
境界。
アリアは進む。
空間が崩れる。
時間がずれる。
世界が重なる。
フィリアは追う。
止まらない。
だが。
理解できない。
国家は見ている。
だが。
触れない。
LOG:
「最適解、提示不能」
アリア:
「いいよ」
「なくてもいい」
一歩。
踏み出す。
世界が揺れる。
秩序が崩れる。
正解が止まる。
それでも。
アリアは進む。
国家は――
動かなかった。
第17話「国家」了
国家は、正解を出すためにある。
だが。
すべてを決められるわけではない。
触れてはいけないもの。
決めてはいけないもの。
その前で、
国家は止まる。
それでも。
進む者はいる。




