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正解圏外 – The Outside of the Answer – 灰歴のアリア編  作者: 咲凪すず


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【2部】第12話「協力」

人は一人で生きているわけではない。

そんなことは、誰でも知っている。

けれど、人は一人で決めている。

何をするか。どこへ行くか。誰といるか。

最後にそれを決めるのは、いつも一人だ。

誰かに従うことはできる。

誰かに守られることもできる。

誰かの決めた道を歩くこともできる。

でもそれは、「生き方を選んだ」ことにはならない。

自分で選ぶということは、

自分で責任を持つということだ。

間違えるかもしれない。

失うかもしれない。

誰かを守れないかもしれない。

それでも選ぶのか。

それとも、選ばないのか。

一人で選ぶことと、

一人で生きることは違う。

誰と生きるかを選ぶこともまた、

選択の一つだからだ。

これは、

一人で選び、誰かと生きることを知る話。

朝の空気は冷たく、乾いていた。

ヴァルダの朝は、静かだ。

都市のように時間を告げる音はない。

代わりに聞こえるのは、工具の音と、エンジンの低い振動と、人の声だ。

生きている音だった。

整備甲板の端に、NOMADは立っている。

灰色の装甲に朝日が当たり、白く光っていた。

アリアは機体の足元に座り、分解したスラスターを組み直していた。

「右スラスター推力偏差0.6。許容範囲内」

LOGの声が静かに言う。

「でも振動あった」

「運用上問題なし」

「問題なくても、嫌」

アリアはボルトを締め直す。

その時、背後から缶が差し出された。

「朝から機体いじりか」

ジンだった。

「ありがとう」

「整備記録見た。ほとんど自分でやってるな」

「自分の足だから」

ジンはNOMADを見上げた。

「いい言い方だな。足か」

少しだけ間があって、彼は言った。

「でもな、その足――一人で走るためのもんじゃない」

アリアは手を止めた。

「一人で飛ぶのは簡単だ。好きな方向に逃げて、好きなタイミングで戻ればいい」

ジンは缶コーヒーを一口飲む。

「面倒なのはな、誰かが遅れた時に、自分の速さを捨てることだ」

アリアは何も言えなかった。

「……今日は仕事だ。ガドの隊に付け」


2

輸送艦の横で、ガドが作戦を説明していた。

「荒野の旧中継施設付近に補給コンテナが流れてきてる。輸送艦が回収。その間、俺たちが護衛だ」

ホログラムに赤い円が表示される。

「低マナ地帯だ。長引かせるな」

ガドはアリアを見る。

「お前は輸送艦直衛。離れるな」

「了解」

ガドは少しだけ言葉を選んだ。

「勘違いするな。群れるってのは従うことじゃねえ」

誰も喋らない。

「死なせねえために、隣を見るってだけだ」


3

荒野は、何もなかった。

砂、岩、崩れた塔の残骸。

空は茶色く濁り、遠くが揺れて見える。

輸送艦が高度を下げ、コンテナ回収を始める。

巨大アームがコンテナを掴み、吊り上げる。

「周囲索敵。敵性反応なし」

LOGが言う。

「このまま終わればいいけど」

「可能性、低」

その時だった。

「高速度接近反応。地表」

砂煙が一直線に走る。

黒い機体が三機。

REGULUS外縁対応機――Frontier Stray。

だが、その後ろ。

もう一つ、影があった。


発光ラインもない。

装甲は光を吸い込むような黒。

背部リングだけが、暗い赤で光っている。

「……何、あれ」

「データベース照合不能」

動きが違った。

滑るように、ではない。

落ちるように速かった。

「全機、警戒!Stray3、不明機1だ!」

ガドの声。

Strayは輸送艦へ直進する。

黒い特殊機体は、真っ直ぐアリアへ向かってきた。

「対象識別」

通信に、機械音声が割り込む。

「対象確認。外縁非登録者」

「識別番号なし」

「回収対象」

アリアの背中が冷たくなる。

「……私を、回収?」

黒い特殊機体が、加速した。

速い。

異常な加速。

推進ではなく、落下に近い加速。

「回避行動提示」

LOGが最適ルートを表示する。

「このルートを取れば、個人生存率最大」

表示されたルートは、敵の射線を完全に避ける軌道だった。

アリアは一瞬だけ輸送艦を見る。

Strayが一機、輸送艦へ取り付いている。

ガド隊はそちらの対応で手一杯。

黒い特殊機体は、まっすぐアリアだけを追ってくる。

「推奨:戦場離脱。生存率87%」

「……」

「離脱すれば生存率最大」

輸送艦の横で爆発が起きた。

「輸送艦被弾!アーム損傷!」

通信に叫び声が混じる。

「若手機、やられる――!」

アリアの視界に、若手機が映る。

Strayに背後を取られている。

LOGが言う。

「現在状況:あなたが離脱すれば生存率最大」

「……それって」

「あなたが生き残る最適解」

アリアの手が震えた。

最適解。

正解。

間違わない選択。

でも。

その最適解は、誰を置いていく?

「……LOG」

「はい」

アリアは息を吸った。

怖かった。

最適を捨てて、間違えたら。

判断を誤って、誰か死んだら。

それは、自分が殺したのと同じになる。

それでも。

アリアは言った。

「隊長、指示して。合わせる」

数秒の沈黙。

「……分かった。アリア、若手の後ろに入れ。俺が黒いの引き付ける」

「了解!」

その瞬間、黒い特殊機体が進路を変えた。

ガドの機体へ向かう。

速い。

異常な速さ。

「なんだこいつ……!」

ガドが回避するが、避けきれない。

衝撃。

ガド機が弾かれる。

「ガド!」

「……まだだ!」

アリアは若手機の後ろへ入る。

Strayが若手機を追っている。

ワイヤー射出。

敵の脚部に絡む。

デコイ投下。

敵の照準が逸れる。

「今!」

若手機が急上昇する。

その瞬間、黒い特殊機体が再び加速する。

今度は輸送艦へ。

「輸送艦、間に合わない――!」

LOGが言う。

「迎撃に向かえば、あなたの被弾確率上昇」

「分かってる!」

アリアはスラスターを最大にした。

最適じゃない。

被弾確率も上がる。

逃げれば助かる。

それでも、前に出る。

輸送艦の前に滑り込む。

黒い特殊機体が目の前に迫る。

近い。

黒い装甲。

赤いリング。

人の形をしているのに、人間の動きじゃない。

「対象捕捉」

機械音声。

「回収対象」

「確保を優先」

「……嫌だ」

アリアはワイヤーを撃つ。

黒い特殊機体の腕に絡む。

一瞬だけ、動きが止まる。

その一瞬で、ガド機が突っ込んできた。

「下がれ、アリア!」

衝撃。

黒い特殊機体が弾かれる。

「回収完了!離脱する!」

輸送艦が高度を上げる。

黒い特殊機体は追ってこなかった。

ただ、赤いリングだけが、暗く光っていた。


4

夜。

回収されたコンテナが並ぶ。

医療班が箱を開ける。

「薬だ……!助かる……!」

誰かがそう言った。

整備士たちが部品を運ぶ。

子どもが走る。

誰かが笑う。

アリアは少し離れた場所から、それを見ていた。

今日、自分が守ったのは、戦場じゃなかった。

明日だった。

背後から声。

「お前、一人で飛ぶのは上手いな」

ガドだった。

機体の装甲が少し焼けている。

「……褒めてないでしょ」

「褒めてねえ。あれだと、一人しか帰れねえ」

アリアは少し考えてから言った。

「最適を選べば、私は助かる」

「そうだな」

「でも、その最適は、誰かを置いていく」

ガドは何も言わなかった。

アリアは続ける。

「一人で選ぶことと、一人で生きることは違うんだね」

そこへジンが来た。

「違うな」

彼はコンテナの山を指す。

「選ぶのは一人だ。生き残るのは、だいたい群れだ」

アリアは焚き火の向こうを見る。

笑っている人がいる。

怒っている人がいる。

生きている人がいる。

ガドが言う。

「次も乗るか」

少しだけ間。

アリアは空を見上げた。

荒野の夜空は星が多かった。

「……うん」

そして小さく言った。

「今度は、最初から合わせる」

NOMADの装甲に、焚き火の光が揺れていた。

その機体は、戦うためではなく、

生きて帰るためにそこに立っていた。


第12話「協力_了


一人で生きることはできる。

強ければ、生きていける。

速ければ、逃げ切れる。

正しければ、間違えない。

最適を選べば、生き残れる。

でも、それは本当に生きていると言えるのだろうか。

自分だけが助かる選択。

自分だけが間違えない選択。

自分だけが傷つかない選択。

それはきっと、正解なのだろう。

けれどその正解の先に、

守りたかった誰かがいないのなら、

その正解は何のための正解なのだろう。

人は一人で選ぶ。

でも、人は一人では生きられない。

だから人は、選ぶのだ。

どこへ行くかではなく、

誰と生きるかを。

それは正解ではないかもしれない。

正しいかどうかも分からない。

それでも人は、

自分で選んだ誰かと生きる。

それがきっと、

この世界で生きるということなのだ。

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