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正解圏外 – The Outside of the Answer – 灰歴のアリア編  作者: 咲凪すず


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【1部】第10話「選択」

正解があるのなら、それを選べばいい。

この都市では、ずっとそう教えられてきた。

多くの人が助かる答え。

間違いのない答え。

最も良い結果になる答え。

それがあるのなら、迷う必要はない。

選ばなくていい。

悩まなくていい。

苦しまなくていい。

正解が、すべて決めてくれるから。

――それはきっと、正しいことなのだと思う。

けれど。

もし正解が、目の前の誰かを選ばない答えだったとき。

もし正解が、自分が選びたい答えではなかったとき。

そのとき、人はどうするのだろう。

正解に従うのか。

それとも、自分で選ぶのか。

これは、そんな話です。

アウレリアは、正確な都市だった。

白い塔。

白い壁。

白いフレーム。

人の代わりに、判断するものがある都市。

人の代わりに、選ぶものがある都市。

だからこの都市では、多くの人が助かる。

それが、この都市の正しさだった。


1 同時発生

その日、二つの場所で事故が起きた。

一つは都市中層、工業区画の火災。

爆発の危険があり、延焼すれば被害は大きい。

もう一つは外縁。

都市の外、管理区域外の集落でマナ暴走。

都市はすぐに対応を開始した。

避難誘導。

区画封鎖。

消火班出動。

そして汎用フレーム《REGULUS》出動。

白いフレーム部隊が整列し、同じ方向へ走り出す。

中層へ。

人が多い場所へ。

被害が大きくなる可能性が高い場所へ。

それが最も多くの人を助ける行動だった。

誰も反対しない。

その必要がないからだ。

この都市では、最も多く助かる行動が選ばれる。

正解は、もう出ている。


2 助かる人たち

中層では避難が始まっていた。

フレームが瓦礫を持ち上げる。

フレームが消火剤を散布する。

フレームが崩れかけた建物を支える。

泣いていた子供が助け出される。

動けなかった老人が運び出される。

逃げ遅れた作業員が救助される。

多くの人が助かっていた。

正解は、ちゃんと人を助けていた。

この都市の仕組みは、多くの命を救うためにある。

それは間違いではない。

誰もが、それを知っている。


3 外縁の空

都市壁の上から、アリアは外を見ていた。

遠くの空が赤い。

煙が上がっている。

外縁の集落。

都市の外。

管理の外。

正解の外。

後ろから足音がした。

「行かないのか」

レオニスだった。

「……都市の方は、もうフレームが出ています」

「ああ」

「多分、助かる人は多いです」

「ああ」

それは確認だった。

都市の判断が正しいという確認。

アリアは外縁の空を見たまま言った。

「……正しいんですよね」

レオニスは少しだけ考えてから言った。

「正しいかどうかは分からん」

「……え」

「でも、あれが一番多く助かる」

「……はい」

「だから都市はああ動く」

アリアは小さく頷いた。

「……正解、ですね」

レオニスは何も言わなかった。


4 誰がやるのか

壁の下を、白いフレーム部隊が通り過ぎていく。

迷いのない動き。

同じ速度。

同じ方向。

「フレームは正解を実行する」

レオニスが言った。

「……はい」

「都市も正解を実行する」

「……はい」

「国家も正解を実行する」

「……はい」

レオニスは外縁の赤い空を見た。

「じゃあ、選択は誰がやる」

アリアは答えられなかった。

「正解は、誰かの仕事だ」

「……」

「正しさも、誰かの仕事だ」

「……」

「現実で成立させるのも、誰かの仕事だ」

「……」

レオニスは言った。

「でもな」

「選択は、誰の仕事でもない」

外縁の方で、何かが崩れる音がした。

「だから、誰もやらない」


5 選ぶということ

アリアはしばらく黙っていた。

都市の方を見る。

白いフレームが動いている。

人が助けられている。

外縁の方を見る。

赤い煙が上がっている。

誰も来ない。

「……レオニスさん」

「なんだ」

「都市にいたら、多くの人が助かります」

「ああ」

「外縁に行っても、多くは助けられないかもしれません」

「ああ」

「……それでも」

アリアは少しだけ考えて、言った。

「私は、外縁に行きます」

レオニスは止めなかった。

「そうか」

「はい」

「フレームは出ないぞ」

「はい」

「命令も出ていない」

「はい」

「それでも行くのか」

アリアは答えた。

「誰も選ばないからです」


6 門

都市壁の門では、人々が都市の中へ避難していた。

誰もが都市の中へ向かっている。

その流れの中で、アリアだけが逆方向へ歩いた。

門の兵士が言った。

「外縁は危険だ。行くな」

「はい。危険です」

「救助は出ていない」

「はい」

「行っても助かる保証はない」

「はい」

兵士は少し困った顔をした。

「じゃあ、なぜ行く」

アリアは少し考えてから答えた。

「……正解がないからです」

「?」

「正解がない場所なら、自分で決めます」

兵士は何も言えなかった。

アリアは門の外へ出た。

都市の外。

正解の外。


7 選択

外縁へ続く荒野を、アリアは一人で歩いていた。

遠くで炎が上がっている。

煙が空を覆っている。

正解は、都市の中にある。

多くの人を助けるための答えがある。

ここには、正解がない。

助かるかどうかも分からない。

間に合うかどうかも分からない。

何人助けられるかも分からない。

それでも。

それでも、自分で決める。

アリアは炎の方へ歩きながら、小さく言った。

「……これが、私の選択です」


8 正解と選択

正解は、間違っていない。

正解は、多くの人を助ける。

でも。

選択は、正解がない場所で行うものだ。

誰も決めないことを、

自分で決めること。

誰も行かない場所へ、

自分で行くこと。

それが、選択だ。

アリアは振り返らなかった。

白い都市は、もう遠くにあった。

正解の中の都市と、

選択の外へ向かう一人の人間。

それが、世界の境界だった。


第10話「選択」了

正解は、間違っていない。

正解は、多くの人を助ける。

正解は、世界を守る。

正解は、とても正しい。

だからこの都市では、正解に従う。

誰かが決めた答えを、みんなで実行する。

それはきっと、間違いではない。

それでも。

それでも人は、ときどき選んでしまう。

正解ではない方を。

多くを救えない方を。

うまくいかないかもしれない方を。

なぜそんなことをするのかと聞かれても、

きっと、うまく答えられない。

ただ。

誰も選ばないなら、自分が選ぶ。

誰も行かないなら、自分が行く。

それは正しいことではないのかもしれない。

でも、それはきっと――人間が決めたことだ。

正解があっても、人は選ぶ。


ここまでが、第1部の物語です。

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