第48話:アメリアオーランドで防衛戦をします
スパイン帝国が、アメリア南部の湾岸都市オーランドに攻めてきてから一ヶ月ほどが経過していた。
マーサはというと、アメリア陣内で温泉を張って回っていた。朝昼晩の一日3回、陣内の数カ所を回り温泉を張り、他の時間は救護テントで治癒魔法をかけるのが日課になっていた。
「ふう、我ながらいい温泉よね」
「嬢ちゃん、毎日助かる。おかげでうちの兵士の回復がとても早い」
「それならよかったわ」
私は、固有スキルで3種類の温泉を出していた。薬湯のような回復効果が高い湯、名湯のように疲労回復を促進する湯、塵を洗い流すかのように状態異常を洗い流す湯。
アメリア陳内で湯治を行い、兵の方々の回復を担保している。
「イーサン様、温泉をはるのもいいのですけど、私が令嬢だから最前線に行かないように気を使われていますか?」
イーサン様は、この防衛戦を仕切っているオーランドのリーダーの方だ。私とアルマが、アメリア南部にある別荘からオーランドに到着した時すでに開戦していて、その時から防衛隊を仕切っている。
「そういうわけじゃない。令嬢と言っても嬢ちゃんはあのアクトゥールだろう?それに加勢したくれた初日の様子を見るに、相当強いじゃないか」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「加勢します!といいながらいきなり現れて、海上の敵船を凍らせて動けなくしたのには驚いた」
「それでももう少し早く到着していれば、敵軍の上陸を防げたかもしれないです・・・」
私とアルマがついた頃には、スパイン帝国の侵略部隊はすでに上陸をしていた。最初からオーランドを攻めずに、先に近くの村を襲い陸上の拠点にしていたのだ。それ以上物資の補給をさせないように、とりあず目についた敵船を凍らせていた。
「それでもだいぶ助かった。それで、嬢ちゃんに後方支援をお願いしている理由なんだが、単純に、嬢ちゃんが陳内にいるのといないのとじゃ、前線の兵の士気が全然違う。だいたいの傷が癒えるし、戦闘の疲れもとれるし、状態異常も解除できる。それほどの回復能力の保持者が陳内にあれば、兵も必要以上にビビらずに本来の力が発揮できる。さながら、勝利の女神様だな」
イーサン様は、はっはっはっ、と豪快に笑っているけど、女神はちょっと・・・・
「買ってくれているのはありがたいのですけど、女神というのはちょっと・・・柄じゃないですわ」
「そうかもしれないが、あの温泉で兵士の切られた腕がくっついたのはさすがにとんでもないぞ」
「あれには、私も驚きました・・・おそらくですけど、切断面が綺麗だったのと、劣化する前にすぐに温泉に浸かったからでしょう。あの温泉は自然治癒を促すものなので、本人の自己治癒能力の高さもあると思います。たまたま条件が揃っておきた偶然です。私は聖女と違い、肉体の再生などはできませんよ」
聖女として成長したファウナならできる。今や、心肺停止から時間が経っていなければ蘇生もできるほどの使い手なのよね。開拓の聖女に次いで、歴代最高レベルと名高いですし。
「まぁ偶然だろうと助かったものは助かったんだ!それにアルマさんもすごいな!認識阻害で闇夜に紛れて、敵の兵糧保管庫を破壊して回っている。あとはエシロップ君かな?彼が敵の注意を引きつけてくれることで、誘導作戦が決まりやすい!」
攻略対象でもあったエシロップ・ノムアダル様は今オーランドに来ている。父である騎士団長様に稽古を頼んでいたことはエフィー殿下から聞いていたとはいえ、見間違えるほどに強くなっていて、驚いた。
「それを聞いたら彼も喜ぶでしょう。ぜひ本人に伝えてあげてください」
エシロップ様は、元王族のムーノに加担していた自分を恥じてアメリアにかけた迷惑を自分で払拭したいといい、オーランドの防衛戦への参加を志願したようだ。私のことを見つけた時に、貴女のおかげで目が覚めた、恩を返すためにも貴女を守る騎士になる、とかなんとか言っていたことはちょっと聞かなかったことにした。
「それもそうだな!いつ視察にきていたのか知らないが、ユーノ殿下とエフィー殿下のおかげでここの防衛施設も強化されているし、敵は兵糧も足りないようで士気も下がっている。そしてこちらの方が兵が少ないとはいえ、すぐに回復するし、味方の士気も上々ときた。これはもう我々の勝利も近いな!」
あっ!イーサン様!!!そういうのはフラグと言って、
「イーサン様!ここにいたか!」
慌てた様子のクラトスがきた。あーほら、言わんこっちゃない。
「どうした?」
「沖合にスパイン帝国の増援を確認。旗を見るに、おそらく無敵戦隊の一部が混ざっています。あと数時間ほどで上陸するでしょう」
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スパイン帝国の増援、無敵戦隊の到来を知ったオーランドの防衛軍はとても慌てた様子だ。士気もかなり下がってしまっている。
私は試しに、沖合にある船に向かって氷魔法を発動したけど船に到着する直前で相殺されてしまった。兵の方々が大砲なども発射していたようだけど防がれてしまっているようで、上陸は避けられなさそうだ。
今は、私たちは今作戦会議用のテントの中にいる。
「そろそろ敵が上陸してくるな」
イーサン様の雰囲気は重々しい。
「無敵戦隊の存在を知って、兵たちも怯えている。士気も最悪だ」
エシロップ様が思案顔をしている。
「無敵戦隊とはいえ、20くらいしか人数がいないのだけどな。部隊の本体はサウプトンだろう。おおかた、サウプトンの侵攻が行き詰まりかけて、動揺を誘うために先にこちらを落としに来たのだろう」
クラトス様が状況を分析している。
「味方の士気を上げることはできるかもしれませんけど・・・どこまでできるか・・・」
私が提案すると
「嬢ちゃんほんとか?どのみちこのままだと蹂躙されかねない。かけてみるか」
私は着替えてから追いつきますと伝え、先にイーサン様たちが兵の元に向かった。
着替えを終えた私は、兵の皆さんが集まっている場所についた。
期待の眼差しが私に集まり、イーサン様が声を張り上げた。
「敵に無敵戦隊がいようが、俺たちには勝利の女神がついている!怖気付くな!」
私は女神という柄ではないけれど、使えるものは使う。
から元気に近い、おお!という声が小さくなっていくと、私は幻想的に見えるように周囲に氷の粒を発生させた。
「つるまう!」
固有スキルを発動し、扇子を手に舞を踊り始めた。私の舞に合わせて、周囲に夢や希望の感情が伝播していく。
そろそろかな?
パシッと扇子を閉じ、
「皆さんにはわたくしがついています!さぁ!ともにこの国を守りましょう!」
そして、もう一つ固有スキルを発動した。
「ちからをあわせる!」
周りの兵たちは、体の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。1人じゃない、みんながいる!
ちょうど、スパイン帝国の船も到着したようだ。イーサンが声を上げた。
「お前ら!覚悟はいいな!いくぞ!!」
心の底からのおお!という雄叫びとともに戦闘が開始された。
マーサは、戦闘服に着替えるとすぐに戦場に向かった。
無敵戦隊を優先的に探していると、それらしき姿の敵兵がいた。
「おっ?もしかして噂に名高いアクトゥールの姫か?」
「私の家も有名になりましたね。そうですよ、少々お相手願えますか?」
敵兵が私のことを上から下までなめるようにジロジロと見てきた。控えめに言って気持ち悪い。
「なんだ、思ったよりも良い女だな。投降したら悪いようにはしない。たっぷり可愛がってやるよ」
気色悪い笑みね。
「生理的に無理なのでお断りします。それにしても女性の誘いがなってないわね。あなたもてないでしょう?素だと相手にされないから力に頼るしかないのね、可哀想に」
私は大袈裟に見下した目線を向けた。
「なんだと!」
それを合図に、敵兵が攻撃をしかけてきた。
しばらくして、
「ふう、やっと1人ね。さすがに強いわね」
無敵戦隊は、今や権力や力で各地を押さえつけるだけの部隊になっていると聞いていた。反抗する人も少なくなっているし、普段から権力を使って威張っているなら、少し煽れば乗ってくるかなと思い挑発したけれど見事に乗ってくれてよかった。挑発にのって攻撃が直線的になってたから攻撃を読みやすかったけれど、同じ組織でもしっかりした人もいるでしょう。他の相手はこうはいかないかもしれない。
「先が思いやられるわ」
そして数日後、無敵戦隊が全滅したスパイン帝国の侵攻軍から白旗があがった。
「ついに俺たちの勝ちだぁ!!!」
「おおぉぉぉ!」
イーサン様たちが勝鬨をあげている。
「お嬢様、なんとか終わりましたね」
「そうね、アルマ。ヘトヘトだわ、ゆっくり休みましょう」
私とアルマもボロボロだ。魔力もだいぶ消費してしまった。愛刀の桜花も所々刃こぼれしてしまっている。聖女の加護のおかけで切り傷擦り傷は治っているけど、一ヶ月経って元から弱まっていたのか、ファウナにかけてもらった防護魔法の方は切れてしまった。
「アクトゥール嬢、本陣までお供します」
「エシロップ様もお疲れでしょう。お気持ちだけ受け取りますので、私に構わずお休みください」
「なんと寛大なお心!」
エシロップ様からの目線がちょっとうるさい。そんなに敬わなくても・・・
「それにしてもマーサ嬢派手にやったな。一発で戦況を変えられるほどの魔法が目の前で連発されていた様子は、さすがに自分の目を疑った」
「しょうがないでしょう、クラトス様。南中央大陸の統一戦争の逸話ほど強くはなかったとはいえ、加減ができる相手ではなかったのよ」
言葉通り加減ができる相手ではなかった。高威力の氷魔法や水魔法を連発した結果、オーランドの端の方が氷漬になっていたり、地形がちょっとだけ変わったりしてしまったけど、防衛できたのだから大目に見てほしい。
「一般人はすでに避難を終えていて被害も出てないし、味方を巻き込まないようにちゃんと確認してから魔法を打ってたから大目に見てよ」
隣にいるアルマからジトッとした視線を感じた。
「お嬢様」
「なに?」
なぜか冷や汗が出てきた。
「わたしの記憶が正しければあのあたりには小さい丘があったと思うのですけど・・・」
あちゃー綺麗に洗い流されてる・・・
「これは地図を書き換えることになるかもしれません。ダフネ様が知ったら・・・」
「今回は大丈夫!たぶん!防衛だった!きっと大丈夫よ!!たぶん!」
あたふたしてアルマと話していたら、私が凍らせてしまった土地の方向から大きな音がした。
視線を向けると、氷の柱が溶けて大きな音をたてて崩れていた。
そしてそこには、異常な様子をしたムーノとジャンヌの姿があった。




