第44話:ムーノの所行
ユースティティア王国の王宮にある地下牢には、国に損害を与えた国賊として元第二王子のムーノとジャンヌが捕えられている。両名ともすでに王族籍、貴族籍は剥奪されている。今日はムーノの取り調べが行われる。
取り調べを行う騎士がムーノの独房の前に姿を現した。この独房は魔法を吸収する性質をもっており、ムーノの魔力は抑えられているため騎士もムーノの近くまで寄れる。ちなみに、ムーノの魔力は火の属性を帯びているので、吸収された魔力は王宮の給湯係に重宝されている。彼にしては珍しく役に立っている。
「ムーノさん、本日はよろしくお願いしますね」
騎士はにっこりと笑った。職務でムーノと直接関わったことがない騎士が選ばれてはいるが、ムーノの所業は知っており、事実を突きつけられるこの時を待ちわびていたようだ。
「話すことなどない」
「まぁまぁそう言わずに。もしかしたら、ジャンヌさんの罪も軽くなるかもしれませんよ?」
ジャンヌという言葉に反応したムーノは渋々、騎士の話を聞くことにしたようだ。
騎士は、ムーノが上部だけの単語に反応してくれてありがたいなと思っている。
「なんだ?」
「今日は、ムーノさんの行いについてまとめられた報告書の中から抜粋したこの部分についてお聞きしますね。一旦目を通していただけますか。国賊というよりも王族のおままごとレベルの内容ですし、簡潔にもしてあるのでムーノさんでも読めると思いますけれど、理解できない箇所は聞いてください」
騎士は、抜粋した報告書をムーノに渡した。
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王族の権力を用いたムーノの言動の妥当性に関しての調査書
○アメリア滞在時における護衛の動員
10歳のときにアメリアへ滞在した時の護衛に関して。アメリアの領主館から、街の中心部に視察に向かった際に、2000人の護衛を動員していた。2地点の距離は1キロメートル程度であり、明らかに過度な動員である。その上、身辺調査もせずに現地でほとんどの護衛を雇ったため、ムーノ氏の視察に同行した護衛により引き起こされたトラブルが多数報告されている。
2000人も護衛を動員した妥当性もなく、費用が不必要にかさみ税金の無駄遣いと考えられる。
また、護衛によって引き起こされたトラブルによる経済損失の責任も負うべきである。
○大衆向け文芸誌への干渉
王都で人気を博している文芸誌「夕日影」に対して、王子の立場を利用し、作品作りに無理やり口をだした。同誌で連載されている小説「オウムとウサギと負け犬と」のストーリーへの介入、挿絵の介入を行った。ストーリーへの介入内容は、ムーノ氏自身を讃える、とにかく讃えることである。挿絵についても、ジャンヌ氏をイメージしたと思われる脇を強調した扇情的な女性を多用し、短絡的に読者の目を引こうとした。
「夕日影」の読者は大衆文芸を好み、政治的な要素のが強い王族を持ち上げる内容は不評だったこと、挿絵も少年少女が読むにふさわしくないと親世代からクレームが入り、ムーノ氏が介入した時期の「夕日影」の評判、売上ともに著しく落ちている。なお、同誌に対してはそれに伴う補填を行なっていない模様である。
○王都拠点の商会への干渉
王都を拠点としている商会「無富」に対する、干渉。扱っている商品の値下げセールの強要や、値上げ、特定商品の取り扱いの停止などを求める。商品選定の理由は、ジャンヌ氏の好き嫌いを反映している。「無富」と取引のあった商会から、安定して商品を仕入れられなくなるなどのクレームがくるもすべて無視させて、最終的に「無富」は倒産した。同氏が路頭に迷わせた「無富」の商会長や商会員に対する補填も行なっていない。
○王都飲食店の私物化
王都でも1、2位を争う人気を博していた飲食店「ポーピちゃん」のメニューや、飲料物をジャンヌ氏の好みにするよう強制した。当初、同飲食店は反発していたが、ムーノ氏が指揮した料理への異物混入や、仕入れ食材に腐った野菜、魚介類を混ぜるなどの嫌がらせをうけ、経営が傾く。そこに不当な金利で金貸しを行い、同飲食店のメニューを私物化していった。同飲食店は客足も途絶え、赤字が続いてる。
王都でも人気だった飲食店の劣化に、民衆から王族に向けて反感の意思も広がった。
○乗合馬車の運行妨害
公共交通機関として機能している乗合馬車の運行スケジュールを不当に操作し、王都をはじめ、王都近郊の交通網を乱し、世間を混乱に落としいれた。この混乱が原因で生じた経済損失ははかりしれない。60分で交通網が復帰すると伝えておきながら実際には30分で復帰させたり、本当は事故が起こってないにも関わらず馬車が横転したと、誤った情報フェイクニュースを拡散した場面もあり、自己中心的な愉快犯でもある。
このような稚拙な行為に至った理由は、ジャンヌ氏が「慌てふためいた一般人が見たいわ」とムーノ氏にせがんだ為だと、ジャンヌ氏から自供が取れている。
○劇場カリグラの建設および劇の公演
1 劇場建設時のおける地上げ行為
劇場の建設予定地の住民に対する嫌がらせを行った。私服に着替えさせた騎士団を派遣し、異臭騒や騒音騒ぎを毎日のように引き起こした。
現場に動員された騎士からは「こんな低レベルなことをするために騎士になったのではありません。わたしは国を守るために騎士になったのです。ムーノ殿下には権力があるから従うしかありませんが、現場はこれ以上付き合いきれないといういうのが本音です」などの証言が多数取れている。
同劇場の建設は、ムーノ氏の個人的な事業であるにも関わらず、国の騎士を国の予算で動員した事実も指摘する。
2 事故(落下事故、爆発事故)
劇場建設中に、落下事故や爆発事故が発生している。特に落下事故は2名が死亡しているが、遺族への補填もなく、隠蔽工作も行った模様である。
3 収支、神への冒涜
肝心の劇は最初こそある種の話題性により黒字であったが、すぐに飽きられ、赤字に転落した。加えて、教会で侵攻されている神に扮した演出は神への冒涜とされ、教会派閥や民衆からの不評をかっている。国の税金を無駄に使ったお遊戯会、自己陶酔ショーとして、悪評が立っており、王族への不信に繋がりつつある。
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しばらくすると、騎士がムーノに話しかけた。
「今日はおままごとレベルの内容なので読み終わりました?ユースティティアの都市の1つがあなたのせいで独立しそうになったことや、王国の機密情報をアメリアに流したこと、隣国のフラー王国と戦争を起こしかけたことなど、より国賊の側面が強い内容は後日聞きますね」
「なんだこの内容は!俺を馬鹿にしているのか!」
「馬鹿にしているもなにも、あなた自身が行ったことではないですか」
「なんだと!!俺は王子だぞ!」
「元、王子ですよね、ムーノさん。実力がないのに権力にすがっていた様子は見ていて痛々しかったですけど、王族籍ではなくなったあなたを守る権力はありませんよ。自分の行いを見つめ直す必要があります。直近1年だけ見ても、たった一年で10億ゴールドに届くかもしれないくらい浪費しています。たった一人でそれほどの額をお使いになられていますが、費用対効果はとれてますか?それぞれの政策に整合性は取れてましたか?それに見合った成果はありますか?あなたの活動費はね、大事な税金で賄われていたのですよ。あれだけ散々威張り散らしておきながら、お遊戯会レベルのことしかできてませんよね。税金泥棒、まさにあなたにピッタリの言葉ですね。さて、責任はとれますか?」
ユースティティアにおける1ゴールドは日本円だと1円相当なので、10億ゴールド=10億円である。
「なんだと!俺を馬鹿にするのか!」
「バカにするも何も、あなた自身の行いじゃないですか。権力の周りをブンブン飛ぶことしかできないことと、能力の小ささからこばえの王子とも呼ばれてましたね。そもそも作戦立案の際も、それぞれの作戦が思い通りにうまくいく前提でたてているから、すぐに崩れて失敗しまくるんですよ。滑稽ですね」
ムーノがさらに怒り出しそうになったタイミングで、独房に一人の男が訪れた。
「はぁ、様子を見に来てみればやはりこうなったか」
第一王子ユーノだ。
「ユーノ殿下。ご足労いただき感謝いたします」
騎士がユーノに向かって礼をした。
「わたしに構わず楽にしてくれ」
そして、ユーノはムーノに向かい合った。
「ムーノ、自分の行いを客観的に見てどう思った?」
「これが俺のやり方だ!!俺は間違っていない!全体の中でみればこれが正しい!」
ムーノは、悲しみと怒りが混ざったような顔をした。
「そうか・・・・本当に成長しないのだな。いいか、王族の仕事というのは、お前が劇場で演じた劇のような、低レベルなお遊戯会で自己満足に浸るだけの簡単なお仕事ではないんだ。権力は所詮道具なんだよ。使い手次第だということも理解してなさそうだな。お前、あまりの仕事のできなさに、陰で王族の金食い虫のコストセンターと呼ばれていたのも気付いていないだろう?」
「なっ」
ムーノは言葉を失ったようだ。
「とりあえず、頭を冷やせ」
ユーノはそう言い残し、地下牢から去っていった。




