第43話:卒業パーティー当日になりました(2)
「あにうえ・・・?他国の諜報員とは・・・?」
ムーノは、思考がとまったかのような表情をしているが、なんとか言葉を絞り出したようだ。
「お前が婚約者にしようとしている、ジャンヌ・スプーキーはアメリアの諜報員だ。本名はタンジー・オノケリス、10年ほど前に起こったスパイン帝国と我が国との戦争のどさくさに紛れてスプーキー伯爵家の令嬢と入れ替わっていたようだ。実際の年齢も17歳ではなく20歳で、本来今学園にいない。我が国の王族、特にお前だな、に取り入るために入学したようだ」
ジャンヌはというと、この状況をどうにかしようと策を考えている様子だった。誰にも聞こえていなかったが、ヒロインならなんとかなるはずでしょう、と口から言葉が漏れている。
「ジャンヌ・スプーキー、いや、タンジー・オノケリスは、無駄に税金を使わせたり、国のリソースを必要以上に使わせり、国民からの王族の信頼を損ねる言動を誘導し、ユースティティアに損害を出そうとしていた。・・・なぁムーノ、本当に心当たりはないのか?」
実のところマーサもタンジー・オノケリスのことを知らなかった。ユーノが調べてきてはじめて知ったくらいだ。
当のユーノは、先ほどまでの王子としてのふるまいよりも弟を案じる兄として説得しようとしている。その様子は、頼むからこれで目を覚ましてくれと切実に願っているように見える。そう、今ならまだ何とかギリギリ間に合う。他国の諜報員に籠絡されたという汚名は残るが、まだ間に合う。
マーサと王族がムーノへの対応を相談しているときに、王族側からムーノに最後の機会をあげたいと相談があった。マーサとしても、シナリオを理由にムーノに向き合ってこなかったという後悔があったようで、すぐに同意していた。
「兄上、わたしは今まで」
ムーノが何か言おうとしたまさにその瞬間に、
「国王!第一王子!あたしに魅了されなさい!!!」
これで一発逆転だとばかりに、ジャンヌが自身の固有スキル傾国の美女の魅了を発動させた。
その魔力が会場を満たし、そして、徐々に薄れていった。
「国王、第一王子、あたしが可愛いならここは引いてあたしのことを逃しなさい?あなたたちならそれができるでしょう?お・れ・い、はたっぷりするわよ?」
色っぽい仕草をしたジャンヌに対して、国王が口を開いた。
「うむ、わしらならできるな。おれいも興味がある」
国王の隣にいた王妃の顔が険しくなった。
一方、国王の言葉を聞いたジャンヌの顔がパッと明るくなった。胸の前に両手を合わせながら、
「そう、だったら」
「しかし、そなたの頼みを聞く道理はない。警備兵!アメリアの諜報員であるタンジー・オノケリスの身柄を抑えろ」
王妃の顔はまだ険しいままだ。冗談でもおれいに興味がある、と言ったのがよくなかったのかもしれない。このあとは夫婦会議かもしれない。
「なっ!なんで!魅了は!ジャンヌの魅了がきいてないの?」
「残念ながらな。元からわしら王族は訓練により魅了に耐性がある。そのうえそなたがいるのがわかっているのだ、魅了耐性のある装飾品も身につけることくらい想定しなかったのか?そもそもこの会場には魅了を軽減する結界が貼ってある。気付いていなかったのか?周りを見ろ、誰も魅了にかかっていないであろう」
「そんな!!なんでよ!この世界はあたしの思い通りになるはずでしょ!」
「何を傲慢なことを申しておる。この世界はそなたのものではない」
国王はゴミを見るような目でジャンヌを見下ろした。
「!!!やめてっ!その目であたしを見ないで!!やめてっ!!」
マーサ含めて周りは、急に様子の変わったジャンヌの様子に驚いていた。しかし、何かの演技だろうと思い直した。
「滑稽だな。もうよい。警備兵!」
呆れの混じった国王の声に応じて、女性警備兵が床に座って頭を抱えているジャンヌに魔法を吸収する手錠をかけた。しかし、ジャンヌが座り込んだまま動かないので、その警備兵はどうしたものかと手をあぐねている。
ムーノはというと突然の出来事に放心していた。
会場では、別の男性が声をあげた。
「陛下、わたしに発言の許可をください」
「宰相か、許可する」
「ウスタよ」
ウスタ・シエクがビクッとした様子をした。
「なんでしょうか、父上」
「お前に父上と呼ばれたくない。今回の責任を取らせ、貴族の身分を剥奪の上シエク家から追放する!」
「なぜですか!!!僕は何もしていません!!」
「お遊戯会のスキルで王族の婚約者であるアクトゥール公爵令嬢にいわれのない罪をきせようとしただろう。それと、我が家はユースティティア王国の宰相の家だ。仮に何もしていなかったとしても、ムーノ殿下の言動をいさめられなかったこと自体も罪だ。そんなこともわからないのか・・・」
「そんなっ!」
「国を守るということはな、お前の固有スキルのようなお遊戯じゃないんだ。警備兵、この者も拘束しろ。シエク家からはすでに追放された身だ、丁寧に扱う必要もない」
宰相の言葉に従い、警備兵がウスタを拘束した。ジャンヌとともに2人を会場から連行しようとすると
「やめて!!いたいわよ!!やめて!離して!また牢屋に入るのは嫌なの!!!!」
泣き叫ぶジャンヌの声にムーノが反応した。
「おい!俺のジャンヌに何をする!」
「ムーノ!こんなのでっちあげだわ!あなたならあたしを信じてくれるわよね?」
それを聞いたムーノが国王に近づいて話しかけた。
「父上、ジャンヌの発言を聞いたでしょう。これはでっちあげです。彼女を解放してください」
国王は、悲しげな様子で答えた。
「そうか・・・わかった」
「おい!警備兵!聞いただろう!国王陛下がお認めになったぞ!王権に従って、その汚い手をジャンヌから離せ!」
「ムーノよ、わしがわかったと言ったのはお前の浅はかさだ」
国王は頭を抱えている。マーサに対して婚約破棄は学園卒業まで待って欲しいと頼んだ理由も、ムーノが成長し改心する可能性を期待していたからだ。その見込みも外れてしまった。
「お前は本当にこの数年間何をやっていたのだ。全く成長していないではないか・・・」
それは、出来の悪い息子に対して頭を悩ます父親の雰囲気だった。しかし、すぐに国王としての振る舞いに変わった。
「ムーノよ。他国の諜報員と内通し、国に損害を出した罪は重い。今をもって、お前の王族籍を剥奪する」
「なっ!父上!」
「警備兵!国に損害を与えたこの国賊を捕らえよ!」
ウスタ、ジャンヌ、ムーノは警備兵により、連行された。
会場のざわつきが静かになってきた頃、国王がぼうっとしていたマーサに話しかけた。
「アクトゥール公爵令嬢」
「は、はい」
「そなたと国賊ムーノとの婚約を正式に白紙に戻す。一方的に迷惑をかけてすまなかった」




