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第42話:卒業パーティー当日になりました(1)

ついに卒業パーティー当日が訪れた。マーサは必要な準備をし、必要な関係者にも事前に協力を仰いでいた。そして今は、協力者の一人である第一王女エフィーと、パーティーに向けてエフィーの部屋で一緒にドレスに着替えている。


「マーサ様、愚兄が重ね重ね申し訳ございません」

「構いませんわ、エフィー殿下。今日でムーノ殿下と関わらなくてすむと思うと逆に嬉しいですわ」

「そう言っていただきありがたいですわ。後ほど合流しますわね」


マーサは、エフィーの専属メイドに準備を手伝ってもらい、卒業パーティーの会場に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「マーサ・アクトゥール、お前との婚約を破棄する!そして、ジャンヌ・スプーキーを俺の新たな婚約者にするとここに宣言する!アクトゥール、お前の行った悪行の数々は、王族の婚約者に相応しくない!反省するんだな!さぁ、この婚約破棄の同意書にサインをしてもらおう!」


ムーノ・ユースティティアは卒業パーティーが始まるとすぐに大声をあげて告げた。隣に、ジャンヌ・スプーキーとムーノの側近の一人ウスタ・シエク、学園教師ユー・アドカスがいる。

会場には、国王陛下、王妃殿下、ユーノ王子殿下、宰相様を始め国のお偉いがた、パーティーを開催した学園側のお偉いさんも揃っている。


「ムーノ殿下、婚約破棄は構わないのですけれど、わたくしの悪行の数々とはなんのことでしょうか?」

私はムーノ殿下の手にあった婚約破棄の同意書を受け取りながら、答えた。今の段階ではまだサインはしない。

「ふんっ、そういうと思って証拠を揃えておいたぞ!この報告書を見ろ!」

ムーノ殿下の声に答えて、宰相様の二番目の息子であるウスタ・シエク様が一歩前に出て、報告書のような紙を周囲に見えるように掲げた。


「アクトゥール嬢。これが貴女の悪行のリストだ。1.学園で身分の低いものへの暴力、2.貴族として経済を回す義務を怠った、3.貴族令嬢として時間場所場合に相応しくない服装、4.ムーノ殿下の婚約者であるジャンヌ・スプーキーへの嫌がらせ、だ。詳細はこの紙に書いてある!会場の皆様にも配布しますので、ぜひご覧になってください」

ウスタ・シエク様は芝居がかった礼をした。国王陛下をちらっと見ると頭を抱えていた。事前に知っていたとはいえ、本当にやるとは信じたくなかったですよね・・・


ムーノ殿下たちの報告書?が会場に行き渡り、ざわつきが大きくなってきた。


そろそろかな?

私が会場の入り口を見ると、扉が開かれてエフィー殿下が入ってきた。


「皆様、ごきげんよう。パーティーの開始に間に合わず申し訳ございません」

エフィー殿下が淑女の礼をとると、場の雰囲気が変わった。さすが王族。

「しかしながら、パーティーに遅れてしまったのには理由がございますの。わたくしの愚兄のせいで言われのない罪を着せられそうなお義姉様のために、こちらも調査書を準備しておりましたの」

ちょっと!エフィー殿下!?なぜお義姉様呼び?

「皆様にも配布しますので、詳細はご覧ください。重要なところを抜粋して説明しますわね。

お義姉様が行ったとされていることについてですけれど、まず一つ目、学園で身分の低いものへの暴力。これにつきましては、実際はそちらにおられるウスタ・シエク様の固有スキルのお遊戯会が原因ですわ。お義姉様が学園の庭で他の学生の近くを通りかかった時に、お遊戯会を発動させて、学生の方の足元の土を陥没させておりましたの。それで学生の方が転んでしまっただけですわ。ウスタ・シエク様も器用なことをなさいますわね」

会場から向けられた目に、ウスタ・シエク様が焦って答えた。

「そ、そんなことはしていない!」


「そうですか。その現場を目撃した方の証言も皆様に配布した調査書に記載がありますので後ほど確認してくださいませ。さて、2つ目の貴族として経済を回す義務を怠ったことに関してです。こちらは、学園のトーナメント〜栄光は君の手に〜の初日に起こったことですわね。お義姉様が学園にあるカフェでミネラルウォーターを買おうとしたところ、通常の2倍のお値段になっていたそうです。そこで、普段よりも高くないですか?と店員の方に聞いただけですわ。最終的にイベント価格だと納得して、お義姉様はしっかりと支払いをしております。さて、ここで面白いことがわかりましたの。当時の店員の方にお話を伺ったところ、わたくしの兄であるムーノに命令された、とおっしゃっておりましたわ」

お義姉様を強調するエフィー殿下の意図がわかった気がした。それにしても、ムーノ殿下の目が泳いでいらっしゃる。

「で、でたらめだ!」

「そうですか」


エフィー殿下は相手にするのも馬鹿らしいとでもいうように、すぐに次の話題にうつった。


「茶番劇に時間を割くのも惜しいので次にいきますね。3つ目、貴族令嬢として時間、場所、場合に相応しくない服装についてですわね。これは、栄光は君の手にの懇親パーティーでお義姉様の服装が、夜会という時間、学園という場所、トーナメントの慰労を行う懇親会という目的に反して、貴族令嬢に相応しくないという主張ですね。当日は、わたくし自身がお義姉様の真横にいる時間がかなり長かったですけれど、誰からも苦情はきておりませんわよ」

「そんなことはないぞ!エフィー!こちらには証言者もいるのだ!パーティー開始から30分後に、会場のビュッフェのうさぎ肉のローストの替えを行なった奴隷がな!!!」

ムーノ殿下は先ほど目が泳いでいたのを隠すためなのか、普段以上に虚勢を張って、エフィー殿下に宣言したけれど、エフィー殿下は心底呆れている表情をしている。

「はぁ。奴隷ではなくムーノ、あなたの元使用人ですわね。わたくしたちの調査書には、パーティー会場の見取り図と、該当の時間の人員配置や誰かどこにいたかを示した資料がございます。おや?うさぎ肉のローストの替えを行なった人物はその時間帯に1人だけで、その上その方は建物の構造上、明らかにわたくしとお義姉様が見えない場所におりますね」

「固有スキルだ!透視だ!」

「はぁ。その方の固有スキルは、透視ではなく暗視です。こちらにご本人様のサイン入りの証言書がございます」

「こ、このサインは偽物だ!!」

「そうですか、筆跡鑑定でもしてくださいな」


エフィー殿下は茶番劇の相手をする時間が惜しいとばかりに、すぐに次の話題にうつった。

「それでは、4つ目。これから兄ムーノの婚約者になるかもしれないジャンヌ・スプーキー嬢への嫌がらせ、ですね。普段兄のムーノはお義姉様に話しかけすらしないのに、突然仕事を割り振ったそうですね。仕事の依頼書のタイトルだけをご自身の固有スキルカメレオンで変えて、お義姉様に渡したそうですわね。本来の書類のタイトルがジャンヌ・スプーキー様に関わるものだったから、異なるタイトルの書類として処理したお義姉様が嫌がらせをしたとおっしゃっているのでしょう?ですが、お義姉様は依頼された書類の中身をしっかりと見て、必要な処理を行なっています。わたくしたちの調査書に詳細が記載されてますので、ご覧ください」


ここでエフィー殿下は一旦区切った。周囲の参加者に、該当箇所のそれぞれの陣営の報告書を見比べる時間を作った後で言葉を続けた。


「兄が用意した報告書にはジャンヌ・スプーキー様の証言がございますわね。まぁ!偽りを口にしていらしたのね。まだ婚約破棄が正式に決まってない現段階では、お義姉様、マーサ・アクトゥール様は王族の婚約者ですよ?そのような方を偽りで貶めようとするなんて、どのような罰があるのでしょうね」

エフィー殿下は、にっこりと笑って。言葉を締めた。


「こんなの認めない!王子である俺に刃向かう気か!!」

「ムーノお兄様、ご失念しておられるようですけれど、わたくしも王女であり、王族ですわよ?」

そう、私からエフィー殿下に反論の役割をお願いしたのには理由がある。同じ王族である王女なら、ムーノ殿下お得意の権力が無効になるからだ。


「くっ!それでも!俺はジャンヌと結婚する!邪魔させないぞ!」

そこで、今まで事態を見守っていたユーノ殿下が口を開いた。

「本当にジャンヌ・スプーキーと婚約するのか?マーサ・アクトゥール嬢に非はなく、王族の婚約者として相応しいと思うが」

「兄上!ジャンヌこそが王族の婚約者に相応しいです!それに、これは真実の愛なのです!」

ユーノ殿下は、苦虫を噛み潰したような、それでいて後悔の念があるような表情をしている。


「真実の愛か・・・さて、ジャンヌ嬢。わたしの弟は真実の愛だそうだが、貴女はどうだ?今日からおおよそ1ヶ月ほどまえの5月30日の夜、何をしていたかな?」

ジャンヌは、ぎくっとした様子をしている。何かあるのかしら?私はこのやりとりに関しては知らされていない。

「学園で勉学に励んでおりました」

「そうか」

「アドカス氏、学園の教師であるあなたは5月30日の夜は何をしていましたか?」

「・・・翌日の授業の準備をしておりました」

「そうか」

ユーノ殿下の雰囲気が重い・・・?

「ジャンヌ嬢の勉学、アドカス氏の授業の準備、とは、学園の教師と生徒が二人きりの密室で逢瀬を楽しむことなのか?」

静まり返る会場、信じられないような目をしているムーノ殿下、ジャンヌとアドカス様の表情は青ざめている。

えっ二人ともそんなことしていたの?ゲームだとそんなイベントはなかったはずだけど・・・?


私も混乱していると、アドカス様がユーノ殿下に答えた。


「勉強の相談に乗っていました」

「そうか。学園の清掃員から、アドカス氏の私室から、若い女性の艶やかな嬌声が聞こえてきたと証言を得ている」


そこで学園長先生が口を開いた。

「アドカス先生、いや、アドカス。教員の身でありながら、生徒であり、かつ貞操観念の厳しい貴族令嬢に手を出したことは、本来学生の将来を潰しかねない言語同断の行いだ。よって、今日を持って教員の任を解く。今までご苦労だった」

「そんな!?学園長!お待ちください!」

「警備兵!部外者であるアドカスを学園の卒業パーティーから連れてだせ!」


ハッ!と答えた会場の警備兵が、アドカス様を連れて行った。確かに攻略対象ではあったけれど、そんなことになっていたなんて・・・


ムーノ殿下が絶望に染まったような顔をしている。

「あにうえ・・・?」

「ムーノ、それでもお前が真実の愛と言うのならば百歩譲ってそれでもいいが、断固として認められない事実が他にある。他国の諜報員を王族の婚約者にすることはできない」

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