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第41話:そうして、運命の歯車は回り出しました

王立魔法学園の卒業パーティーまであと1週間と迫った日、マーサとファウナは共同で行った卒業研究の提出をした後に、学園を散歩している。


「ファウナ様のおかげで卒業研究も無事に提出できましたわね」

「いえいえ、マーサ様のおかげですよ」

「それにしても、光魔法の治癒魔法と水魔法の治癒魔法、に小さいとはいえ違いがあったとは驚きましたわ」


私とファウナが共同で行った卒業研究は、水魔法と光魔法の治癒魔法の融合というテーマだった。ちなみに、卒業間近の3年生の最後の学期は、わりと自由にやることを決めることができる。私やファウナのように、卒業研究に勤しむ学生もいれば、卒業後の進路に慣れるために顔を出し始める学生もいれが、冒険者の活動に勤しむ学生もいる。


「そうですね。光魔法の治癒魔法が傷口の浄化の作用が強くて、水魔法が血液などの再生に強みがあるとは、初めて知りました」

「それがわかっただけでも、卒業研究を行った甲斐がありました。二つの属性の治癒魔法をうまく混ぜると両方の効果が発現して、治癒魔法の質もあがりましたし、今後広く有効活用されるといいですわ」

治癒魔法の治験は、ファウナが所属している教会に協力をしてもらえた。治癒を受けた皆様が、ファウナのことを聖女と慕うのはいいのですけど、私のことまで氷の女神呼びするのはやめて欲しかったわ・・・私はただの人間よ・・・。


「はい、皆様のお役に立てれば嬉しいです。今後といえば、マーサ様はどうされるのですか?」

聖女としてこのまま教会にいることにしたファウナは少し寂しげにしている。

「私は婚約の件やアメリアの件がひと段落したら、世界ぶらり一人旅にでも出ますわ。最終的にユースティティア王国に帰ってきますし、旅の間も時々戻ってくるから、そう寂しそうな顔をしないで」

「約束ですよ、ちゃんと戻ってきてくださいね。それにしても一人旅ですか?アルマさんは一緒に行かないのですか?」

「本人に言えばついてきてくれるでしょうけど、いつまでも私に縛り付けるのもよくないわ。アメリアの領主館で働いている文官の男性とうまくいっているようだから、自分の道を歩いてもらうもいいのではないかと思ってますの」


アメリアの独立思想はまだ残っていて、強硬派こそいないものの、独立戦争が起こる可能性はまだ残っている。もしも戦争が起こってしまったら、下手をすると私は戦地のど真ん中に行く可能性が高い。姉のように大事なアルマを巻き添えにしたくないから、最近少しずつアルマには私の専属メイド以外の仕事を任せていて、少しずつ距離を置こうと思っている。


「アルマさん本人には確認したのですか?」

「まだですわ」

「そうですか・・・早めに相談してあげてくださいね」

ファウナは、おそらくアルマはマーサとも一緒にいられる道を探すだろうと思ったけれど、最近何か思い悩んでいるマーサの様子を見て、口を挟まないことにしたようだ。

「そうするわ」

「ぜひそうしてください。他の皆さんは、カミラ様が領地の運営で、レオ様とレイラ様は騎士になるそうですね」

「そうみたいね。カミラ様のことですから、領地運営でも敏腕を振るうのでしょうね。レオ様とレイラ様は、課外授業のスタンピートの時にローガン様に気に入られたらしいわ。それでも、特別待遇ではなく一般の騎士と同じ立場での入団を希望して試験も突破したとお聞きしたわ」

あとから知ったのですけど、ローガン様は第一王子ユーノ殿下の直属の部隊の1つをまとめている立場でした。どうりであの時の皆様はお強いと思いましたわ。


「あのお二人らしいですね。最近はみなさんとあえてないので、卒業パーティーでは会いたいです」

「卒業パーティーというと、その、大丈夫?お酒も提供されますけど・・・」

ファウナが焦り出した。

「だ、大丈夫ですよ!この前のトーナメントの懇親会の時はちょっとあれでしたけど!それに本来、飲酒による過度の酔いは状態異常と判定されるようで、聖女の力でホロ酔い以上にはなりません!」

「あの時はだいぶ酔っていたけれど・・・」

「あれはほら!空気に酔っていたといいますか、はじめてお酒を飲んだという事実に酔っていたといいますか、とにかく忘れてください!」

ファウナがブンブン手を振りながら顔を赤くしている。

「わかりましたわ。私もユーノ殿下と決闘をしたくないし、気をつけてね。それにしても愛されているわね」


私は、ファウナにウィンクをして茶化した。それにしてもあの時は焦ったわ。ファウナに抱きつかれている私に向かって歩いてきたユーノ殿下の手には、なんと手袋が握られていた。私に手袋が叩きつけられる前に、エフィー殿下をはじめ周りが止めてくださったけど、聖女をめぐって王族と決闘とか、本当にやめてほしい。悪役令嬢まっしぐらじゃない。それにしても、エフィー殿下は、マーサ様と戦いたいならわたくしを倒してからにしてください!とか啖呵をきっててノリノリでしたわね。


「もう〜!」

「ごめんごめん!」


ファウナが少し拗ねてしまったので、しばらく宥めた。ちなみに、ファウナが卒業して少ししたら婚約発表をするらしい。


「マーサ様、あの、そろそろ一緒に寮に戻りませんか?」

あれ?一緒に、の部分を強調したような気がしたけれど気のせいかしら。

「私は野暮用があるので、先に戻っていてください」

「そう、ですか・・・わかりました」

ファウナは何か気になることがあるような顔をしているけれど、私はここから先は一人で行きたい。

「ええ」

私が歩き始きはじめてから少しして、すでに離れた場所にいるファウナから背中に声をかけられた。

「マーサ様!わたしは味方ですからね!」

!?ファウナに気づかれた・・・?


振り返らずに片手をあげてファウナに答えた私は、そのままファウナと別れ建物の影に隠れた。そして、認識阻害の効果があるネックレス型の魔道具を起動し、幻惑魔法も自分にかけた。

卒業パーティーまであと1週間ということは、ムーノ殿下とジャンヌが私との婚約破棄を決めるイベントが発生する可能性がある。発生しなければその方がいいけれど、これだけは確認しなければならないと思い、イベントが起こる場所の近くに身を潜めた。



「ねぇ、ムーノ、あたしじゃなくてあんな女が好きなの?だからあの女と結婚するの?」

「そんなわけないよ、ジャンヌ。俺が心の底から愛しているのはお前だけだ」

「ほんとに・・・?そんなこと言っても、言葉だけじゃないの・・・?」

「言葉だけじゃないさ。不安を感じさせていたのか、、、」

「うん、、、」

「悪かった。よし、決めたぞ。1週間後に学園の卒業パーティーがあるだろう?そこで、お前を新たな婚約者にすると発表しよう。あの女には婚約破棄を突きつける」

「ほんとに!?嬉しいわ!」


「ついに、この時がやってきてしまったのね」


そうつぶやきながら私は、下品な感じで腕をお互いの体に回しながら甘ーい雰囲気に酔いしれ時折キスまでしている二人の会話を、少し離れたところから聞いていた。前世の親友ちゃんに見せてもらったスチルだと、下品な感じゃなくてもっと素敵なシーンじゃなかったかしら?全然違うわね。あの雰囲気だと、すでに大人の一線も超えてそうだけど・・・


「こうなってしまったものはしょうがないわね」


このイベントを止めていたとしても、あの二人のことだから別の形で同じようなことが起こるでしょうし。切り替えましょう。


エフィー殿下と協力体制を構築しているアイフィルト様が、最近ジャンヌと直接会いその様子を探ってくれていたので、情報を整理しようかしら。


私は最初はアイフィルト様のことを正直疑っていたのだけれど、今は信用していいと考えている。というのも、ユーノ殿下とエフィー殿下が調べたアイフィルト様のそれまでの行動は、確かに表面上はユースティティア王国を害そうとしたものであったけれど、被害や混乱が最小限になるように細心の注意が払われていた上に、誰かがすぐに解決策をとれるタイミングに集中していた。


スパイン帝国の皇帝に命令されてしかたなく工作員をやっていたけれど、本人はそれを望まず、むしろ平和を望んでいるのではないか、というのが調査結果だ。それと、アイフィルト様と接する時間が長いエフィー殿下が彼のことを信用している様子で、アイフィルト様が時折スパイン帝国に帰国するのも容認しているらしい。私はそんなエフィー殿下を信用することにした。


くだんのアイフィルト様のおかげで、ムーノ殿下とジャンヌの動向についてもある程度つかめている。

私は一度情報を整理するために寮に戻ることにした。


ーーーーーーーーー


この世界のどこかの国、どこかの都市、そのどこかにあるカフェ。

そこに、不思議な雰囲気の2人の男女がいた。


「ジャンヌ・スプーキーに唆されたムーノ・ユースティティアが婚約破棄をすることにしたようだ」

「やはり避けられないのかしら」

「ここまではしょうがないだろう。それに俺たちに出来る事はした」

「そうね。後は任せるしかないわね・・・」


2人の男女の話題がお互いの近況報告に移った頃、ムーノ・ユースティティアが婚約破棄をすると決めたことを知ったマーサ・アクトゥールはその対応を準備しはじめた。


そうして、運命の歯車は回り出した。

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