第37話:3年生になりました
マーサたちは、王立魔法学園で3年目を迎えていた。今年から、第一王女のエフィーも王立魔法学園に入学し、はれて一年生になった。ちなみに、第一王子ユーノは3年前に王立魔法学園を主席で卒業している。
3年生の新学期も始まり、マーサ、エフィー、ファウナは学園のサロンでお茶会をしていた。エフィーの専属メイドと、マーサの専属メイドのアルマが給仕をしている。
先にエフィーが話しかけた。
「お二人と同じ学舎に通えることになり光栄ですわ」
「エフィー殿下、こちらこそ光栄です」
「ありがとうございます。マーサ様は夏休みの間はずっとにアメリアにいたのですか?」
「そうですね、おとといユースティティアに帰ってきました」
「やはり心配だったからですか?」
エフィー殿下を見るとからかうような笑みを浮かべている。言葉を省いているけれど、クラトスが心配だったからでしょ?と聞かれているわね。
正直いきなり指摘されてドキッとしたけれど、淑女スマイルのまま答えましょう。
「クラトス様の襲撃事件もありましたし、アメリアの内政に影響が出ないか心配しました」
私が、内政が心配、と言い切ったためか、エフィー殿下は少し残念そうな様子をしてますわね。クラトス様が襲撃を受けたとを聞いた時の、その、今思い出すと恥ずかしいけれど、私の態度からもう少し違う反応を期待していいたのでしょう。
「あれ以降、大きな影響もないようで良かったですわ。マーサ様が捕らえた賊から有益な情報も得られましたし、アメリアの独立強行派もつかめましたわ」
実際のところ、私が夏休みの間ずっとアメリアにいたのは、襲撃をうけたクラトス様が心配だったからで、エフィー殿下の予想はあたっているのよね。アルマはアルマで文通を交わしている文官と会いたかったからか喜んでついてきてくれてよかったわ。
さて、エフィー殿下には、淑女スマイルのままお返事をしましょう。
「お役に立てたのなら幸いです」
エフィー殿下は次にファウナに話しかけることにしたようね。
「ファウナ様は、教会にいらしたのですか?わたくしの兄がご迷惑をおかけしてないといいのですけれど」
ここでいう兄とは、第一王子のユーノ殿下のことね。エフィー殿下が第二王子のムーノ殿下のことを指す時は、だいたい愚兄とおっしゃいますし。
「はい、たびたび様子を見に来てくれて、差し入れもいただきました。ありがたい限りです」
エフィー殿下はまたしても少し残念そうね。ファウナにも淑女スマイルで無難に返事をされてし
まいましたし。それにしても、ファウナも貴族のやり取りに慣れてきているわね。
「兄もマメな方ですね」
エフィー本人は、二人と同じ学園に入学して浮かれていることを自覚しており、戯れもこれくらいにして学園の授業などについて聞くことにしよう、と話題を変えようとしていた。
しかし、モジモジした様子のファウナが発した言葉によって、エフィーだけではなくマーサも食いついた。
「エフィー殿下、王城での生活は大変でしょうか。最近はわたしも貴族の生活に慣れてきたと思うのですけれど、それともまた違いますか?」
「ファウナ様が王城での生活に興味を持っていらっしゃる?」
「エフィー殿下!これはもしや?」
ファウナの顔は少し赤いけど真剣な様子だ。それを見た二人は、とても色々と聞きたいけれど、真面目に相談にのることにしたようだ。
3人が会話に花を咲かせていると、サロンの入り口のドアが控え目にノックされた。
エフィーが、入っていいですよ、と伝えるとドアが開かれ、レオとレイラが入ってきた。あらかじめ約束をしていたようだ。
「ごきげんよう、エフィー殿下」
「ごきげんよう、レイラ様」
挨拶をおえ、レオとレイラも席に座った。二人は何か聞きたいことがある様子だ。
レオが口を開いた。
「マーサ嬢、早速だが聞きたいことがあるんだけどいいか?」
マーサには今のところ心当たりがない。二人とゆっくり会うのも久しぶりだ。
「なんでしょうか?」
レオはレイラに目配せをしたあとに、意を決してマーサにきいた。
「答えたくなければ答えなくもいいが、マーサ嬢とアルマさんは、ファントムか?」
突如、部屋に静寂が訪れた。
心なしか部屋の明かりが弱まり、暗くなっている。気付けば、給仕をしていたアルマも手にフルーツナイフをもっている。
目の前にいるマーサ、それとなぜかエフィーとファウナまで妖しい顔をしている。
レオとレイラは冷や汗が出てきた。自分たちは触れてはいけないことに触れてしまったのではないか、と。
そして、暗闇の中、妖しげな顔をしたマーサが口を開いた。
「バレちゃいましたかー!ただ、自分たちからは名乗ってませんよ!ファウナも去年の夏頃から一緒にいます!」
先ほどの雰囲気から打って変わって、明るい笑顔で答えたマーサ、それに合わせるように部屋の明るさも戻った。アルマは、手に持ったフルーツナイフで果物をきり、皿に載せていた。
ちなみに、部屋の明るさが変わっていたのはファウナの魔法によるものだ。自作魔法で作った日焼け防止の魔法の応用技のようだ。
ファントムについての事情を説明した後に、今度はファウナがレオとレイラに聞きたいことがあるようだ。
「レオ様、レイラ様、わたしもお聞きしたいことがあるのですけれど、よろしいですか?」
「ああ」「なんでしょう?」
ファウナの目はどことなくキラキラしている。
「お二人は今お付き合いされているのですか?」
二人は焦っている上に、心なしか顔が赤い。
そして、二人を見つめる目に観念したかのように
「ああ」
「はい・・・」
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大いに盛り上がったお茶会のあと、レオとレイラは鍛錬場に行くということで別れて、マーサ、エフィー、ファウナ、アルマは寮に戻ることにした。
彼女たちが学園の庭を歩いていると、その前方からムーノがジャンヌと自身の取り巻きを引き連れて歩いている。エシロップの姿はない。先ほどのお茶会でエフィーが、エシロップは今年度から騎士学校に編入したと話しており、正式にムーノの側近から外れたようだ。
マーサは、ムーノ殿下とジャンヌも堂々と一緒にいるようになったわねと考えていた。
たしか、2年生の時の課外授業で、ムーノ殿下を魔物から守ったジャンヌが意識不明になったのを殿下がつきっきりで看病をしていたらしいわね。その時以来かしら?
私が考え事をしていると、いきなりジャンヌが目の前に立ち塞がってきた。
「えーと、何かご用でしょうか?」
「マーサ・アクトゥール!ムーノ様にふさわしいのはあたしよ!」
ジャンヌの後ろで、ムーノ殿下がうんうんと腕を組みながらうなづいている。
「はい?」
「あたしの方が胸が大くて色気があるし、ムーノ様にふさわしいのはあたしよ!」
ジャンヌは腕で胸を寄せあげているわね。アピール頑張っているわね。
「はぁそうですか。他に用がないようでしたら、私達はいきますね」
「あっ、ちょっと!」
ジャンヌってこんな低レベルな絡みをする人だったかしら?と思いつつも、その場を去ろうとした。ジャンヌの横を通り過ぎようとした瞬間、他の人には聞こえないくらいの声量でジャンヌがぼそっと独り言のように呟いた内容が聞こえてきた。
「なんで悪役令嬢があたしに絡んでこないのよ、ヒロインはあたしでしょ」
えっ?ヒロイン・・・?聞き間違いかしら?
私は、そのまま悶々とした気持ちで、寮に戻った。




