第38話:エフィー王女から男の人を紹介されました
ムーノとジャンヌの神様茶番劇で魔物を共に倒して以来、エフィーもたびたびファントムに混ざるようになっていた。
マーサとアルアがいつものようにアテナとメルとして冒険者ギルドで依頼を探していると、ミーユに扮したエフィーがそこに合流し、紹介したい人がいると伝えた。王族であるエフィーには護衛がついていることが多いが、今日はちゃっかり護衛を撒いてきたようだ、お転婆である。
ちなみに、ファントムとしてよく一緒に行動しているファウナは今日は教会にいる。
エフィーと例の男性の待ち合わせが王都近郊の草原らしく、その付近での魔物討伐の依頼を受けて、3人は王都のギルドを後にした。
草原につくとそこには1人の男が立っていた。
「あら、約束通り来てくださったのですね。待ち合わせ時間よりも先に来て待っていてくださるなんて、紳士的でとても嬉しいですわ」
笑顔で声をかけるエフィーとは裏腹に、渋々しょうがなく本当に嫌々来た、という雰囲気の男性。マーサは、この人どこかで見たことあるような気もするけどどこだっけ・・・?と思っていた。
「来なくてもよかったのか?」
エフィーが何も言わず不敵な笑みを深めると、男性が自らフォローをいれた。
「冗談だ冗談。本気にしないでくれ」
その様子に満足したエフィーが、防音結界の魔道具を取り出し起動した。そして、マーサとアルマに男性の紹介をした。
「こちらが、スパイン帝国の第三皇子、アイフィルト・スパイン殿下です。ユースティティア王国に何も告げずに、我が国で冒険者フレディとして活動していたところを見かけたので捕まえました」
瞬時に、マーサは刀の柄に手を置き、アルマはダガーを抜いた。
「待ってくれ!こちらに戦闘の意思はない!頼む!そっちのお姫様一人でも手に負えないのに勘弁してくれ!」
マーサとアルマが臨戦体勢になった途端、アイフィルトはすかさず両手を挙げて降参のポーズをとっている。
それを受けて、マーサは刀の柄から手を離し警戒を解いたが、彼の名前のせいで別の意味で警戒感をもった。
アイフィルトって、乙女ゲームの隠しキャラじゃない!?攻略対象でもあるし、どうりで見覚えがあると思った!確か、ヒロインであるジャンヌにたびたび協力するのよね。便利アイテムとか便利グッズとかをくれるのでしたっけ。彼への好感度が低いままだと、アメリアの独立戦争の時にスパイン帝国がアメリアにも攻めてくるのでしたっけ・・・?
それよりも、そんな彼が今なんでここに??
「エフィー殿下、停戦中とはいえ、なぜスパイン帝国の第三皇子ともあろうお方がここにいらっしゃるのですか?」
「ジャンヌ・スプーキーの後を追っていたら、アイフィルト殿下に相談している場面を見かけましたの。それで、任意同行をお願い致しましたわ」
今までアフィルト殿下のことはマーク出来ていなかったので、ジャンヌ・スプーキーを泳がせた甲斐がありました、と朗らかに言っているエフィーを見て、アイフィルトは思った。
任意同行、ですか。
俺はジャンヌ・スプーキーに関わったのは失敗だったかなと後悔した。以前、彼女に魔物を呼び出す魔法陣がほしいと言われたので用意して渡していた。用途は聞いていなかったけれど、何かやろうとしていることはわかったので、そのあと一旦距離を置いていた。ムーノ殿下とジャンヌ・スプーキーが主催する劇で魔物が現れたという話が広まった時は、何をバカなことに使ったのだ、と思った。迂闊に魔法陣を用意した俺も悪いけれど、劇場なんかで使ったら、どれくらいの被害がでるかわからないじゃないか。
そういうわけで距離を置いてはいたけど、どうしても相談したいことがあると言われ、劇の真意を聞きたかったということもあり、街の酒場でジャンヌ・スプーキーに会った。
劇のことと、その時相談された内容は、以前のジャンヌ・スプーキーからは考えられないほど稚拙なものだった。以前はもっと緻密で有能なはずだったけれど、急にどうしたんだ?とは思ったが、このまま関わると共倒れしかねないと判断し、俺は相談を断りすぐに酒場から出た。
酒場からでて、大通りから外れた道を歩いていると、フードを被った少女に声をかけられた。
「すいません、行きたいお店があるのですけれど、道に迷ってしまったようで・・・」
その少女は町娘の服装をしているけど、どこか品のある雰囲気だった。フードをかぶってることからして、お忍びかな?と思った。それにしても、夜に人通りの少ない道を歩くとは、危ないことをする。
「お嬢さん、夜は危ないので一人で出歩かない方がいいですよ。あっちに人通りが多い道が見えるでしょう?そこまで案内しますね。行きたいお店はどこですか?俺が知っていれば方向を教えますよ」
その少女は懐から紙を取り出した。
「わたくしの身の安全を気にしてくださるなんて、以外とお優しいのですね。お店ですか?この魔法陣を取り扱っているお店にいきたいです」
少女に手渡された紙に描かれた魔法陣には見覚えがある。ジャンヌ・スプーキーに渡した魔物を召喚するものだ。共倒れしかねないと思ったけれど、すでに手遅れだったか!?
状況を理解した俺はその場から逃げようと走り出したけど、その瞬間に少女に足をかけられた。
バランスを崩した俺の目には、フードを外して素顔を晒した少女の顔が見えた。
よりにもよって、ユースティティア王国第一王女のエフィーかよ。スパイン帝国の皇族の俺が、ユースティティア国内で王族に捕まるのは非常によろしくない。よろしくないどころか最悪だ。
「そのご様子ですと、”アタリ”のようですわね」
「なんのことだ?俺はフレディというただのしがない冒険者だよ」
今までは普通の冒険者として過ごしてきたけど、とんだ災難だ。おそらくジャンヌ・スプーキーが尾けられていたのだろう。
「その魔法陣のことですわ。スパイン帝国で使われている魔法陣に似ています。あなた、スパイン帝国の関係者なのでしょう?」
そこまで気づかれていたのか。これがエフィーじゃなくて、ムーノだったらなんとかなっただろう。実際、かの第二王子はそもそもあれが本物の魔物を召喚する魔法陣だということすら気付かなかったようだ。ジャンヌ・スプーキーを通して知ったムーノは本当に権力だけの無能なポンコツだ。俺も皇子だからそれはわかる。
「悪いが、身に覚えがないな」
俺はチャクラムを構えた。
「そうですか・・・それは残念です」
目の前のエフィーは残念とはいいつつも好戦的な様子で短剣を抜いた。
俺が闇魔法で操作したチャクラムを飛ばすと、エフィーが風魔法で叩き落としてくる。やっと風魔法を突破できたと思っても、今度は短剣でチャクラムを叩き落とされる。接近戦も試してみたけど、手応えがない。
俺から見たエフィーの戦闘スタイルは、まさに王道のオーソドックスなものだった。高い魔力を活かした魔法、洗練された剣技。高い魔力だけならなんとかなったかもしれないけれど、日頃からしっかりと訓練を積んでいるのか、魔法制御の能力も高い。オーソドックスな王道ゆえに、大きな隙なども生まれにくい。
その後しばらくすると、俺は地面に座り込み、エフィーから短剣を向けられていた。
「ふう、お強いですわね。さて、少々お話をお聞きしたいので、任意同行に応じていただけますか?」
周りを探ると、気配を消していたのか、数名の護衛もいるようだ。
俺は観念した。命を取ろうとしてこなかったあたり、交渉の余地はあるだろう。
「エフィー殿下の仰せのままに」
「あら、気付いていらしたの?」
エフィーはいたずらがバレた子供のように笑っていた。場違いではあるけれど、その笑顔は可愛いと思ってしまった。
俺が任意同行に応じた時のことを思い出していたら、エフィー殿下が他の二人に諸々の説明をしていたようだ。
「そのような経緯で、アイフィルト様とわたくし達は今では協力関係を結んでおりますの。まぁもしも、停戦中のはずのスパイン帝国が攻めてきた時は、捕虜にしますけれど。ジャンヌ・スプーキー絡みなので、お二人にも共有しておいたほうがいいと思いまして、今回ご紹介させていただきました」
事情の説明をうけたマーサは、アイフィルトには今の所は害がないことはわかったけれど、警戒は怠らない方がいいと考えていた。
本題も終了したところで、とエフィーが話題を変えた。
「さて、お話もこれくらいにして、ギルドで受けた依頼も達成してしまいましょうか」
エフィー殿下にそう言われ、私はギルドで依頼を受けたツノウルフの討伐をはじめた。狼なのにツノがある魔物だ。よく遠吠えをするから、たびたび討伐対象になっている。
私は少し離れたところでツノウルフと戦っているエフィー殿下の様子を見た。アイフィルト様は積極的にエフィー殿下に細やかなフォローをしているようだった。
あれ?最初に見たアイフィルト様の様子だと、渋々付き合わされているように感じたけど、もしかしたらそれだけではないかもしれない?




