第35話:クラトスが王都に来ます(2)
マーサ、アルマ、エフィーは身体強化魔法をかけて、客席から舞台に飛び降りた。
「とうっ!」
エフィーだけは自分で効果音をだした。
同時に、レオとレイラも舞台に現れた。ムーノが警備を仕切っていたので色々とザルであることが事前にわかっており、一応王族であるムーノが主催したイベントで問題がおこるとまずいということで、王宮から私服警備員として派遣されていた。
レオとレイラは、舞台の反対側に突如現れた人物に驚いていた。
「「ファントム!?」」
そう、マーサとアルマはファントムの格好に見せていたのだ。
レオとレイラは、仮面をつけた見慣れないもう一人の女の子から声をかけられた。残りの2人はその間に、魔法陣を無効化する様子だ。
「そこのお二方、こちらのキマイラはわたくし達がダンスのお相手をするので、もう一体はお願いいたしますわ」
エフィーだ。アルマの幻惑魔法で声も変わっている。
「わかった!そっちも気をつけろ!」
観客席にキマイラが向かわないようにマーサが舞台上に水の檻を魔法でつくり、5人とキマイラの戦闘が始まった。
細剣を構えたレイラは控え目に言って怒っていた。私服警備かつムーノの茶番劇といえど、レオと観劇だったのだ。普段のパンツスタイルとは異なり、わざわざこのために買ったワンピースとタイツをはき、イアリングまでつけて、警備に支障が出ない範囲でおしゃれをしていたのだ。それを邪魔された。
「おいそこの魔物。生きて帰れると思うなよ」
闇魔法を纏い、剣を向けながらドス黒いオーラを放ちつつ、物騒なセリフをはくその様子はさながら悪魔のようだった。
観客は、何か様子がおかしいことに気づいてはいるけれど、主催者で主演でもあるムーノ王子から何も言われてないので、演出の一環なのか、判断がつかないでいる。当のムーノ王子は我が身可愛さにすでに逃げている。
クラトスや他の私服警備員は、下手に声をあげて観客がパニックに陥ることを危惧し、5人の戦いを見守ることにしたようだ。
レオは、ファントムの様子をみた。今まで一度もファントムの戦闘場面を見たことはないが、噂になっている話から判断すると、実力的に問題ないと思う。けれど、もし必要ならフォローしようと考えてのことだ。
3人は、あくまで劇の一環であるかのように、見栄えを意識して魅せる戦いをしているようだ。会場にいる私服警備員が見守ることにしたことに気付き、観客へ配慮しようとしているのだろう。それだけでもこの戦いに余裕があることがわかる。
キマイラの炎が観客席に向かいそうになると、黒刀をもった女の子が水魔法で見事に相殺し、キマイラが破壊した舞台の破片が観客席に飛びそうになると、ダガーをもった女の子が風魔法で破片が舞っているかのように演出し、もう一人はまるでダンスを踊っているかのように優雅にキマイラの攻撃を躱し、攻撃性の風魔法を派手に叩き込んでいる。
あの様子なら問題ないと判断し、レオはレイラに本格的に加勢を始めたが、その頭の中にはとある可能性が浮上していた。
レオにとって、あの3人のうちの2人の身のこなしには見覚えがある。課外授業の時に見た、学友であるマーサとその専属メイドだ。
レオは、魔物を目の前にした今考えることではないと頭を切り替えた。
5人とも危なげなく戦っていた。
そして、キマイラが倒され、歓声が巻き起こった。
一部ではファントムコールも巻き起こっている。
レイラが、ファントムの方を見ると、1人の女の子が前に踏み出して、ファントムコールに応えるように手をあげた。
「我らファントむぐっ?」
先ほど黒刀を携え水魔法を操っていた女の子が、口上を言おうとしていた女の子の口を後ろから塞いだ。そういえば、これだけファントムとして名前が広がっているけど、本人達は一度も自分たちから名乗っていないということは有名な話だと、レイラは思い出していた。
最後の抵抗だといわんばかりにマーサはなぜか名乗りだけはしたくないようだ。
いきなり口を押さえられたエフィーがマーサに抗議の目を向けている。
「いきなり何をするのですか?」
「ミーユちゃん、それよりも早くこの場を離れましょう。私服警備員の方々がいるようですけれど、戦闘中からソワソワしていたので、おそらくミーユちゃんの正体に気付いています。このままだと確保されてお説教コースですよ」
エフィーは名残惜しそうにしながらも同意した。
「わかりましたわ。けれど、去り際はカッコよくありたいです」
マーサはうなづいた。マーサは一度レオとレイラの方を向いて、顔の前で手を合わせてごめんね、みたいな仕草をしてから、足元から水蒸気を出しはじめた。
水蒸気で姿が隠れ始めると、3人は怪盗のようなポーズをとった。すぐに水蒸気で姿が完全に隠れ、真ん中にいたエフィーが指をぱっちんとならし、風魔法でその音を拡声し会場に響かせた。それと同時にアルマが幻惑魔法で認識阻害をかけ、マーサが固有スキルで足元にゲートを開き転移した。
そして、水蒸気がはれると、3人の姿はどこにもなかった。
その様子を真横で見ていたレオとレイラは驚きの表情を浮かべている。
「レオ・・・」
「ああ、この距離からでもわからなかった。煙のように一瞬で消えると噂にはなっていたけど、まさか本当に煙にように目の前から消えるとは」
マジックのような鮮やかな退場劇に、観客はさらに盛り上がっているようだ。
本人達には災難ではあるが、その盛り上がりの熱量は、この場から颯爽と消えたファントムから、舞台上に残っていたレオとレイラに向いた。
観客からの熱い声援にさらされたレオは、先ほど、マーサらしき女の子からごめんね、とジェスチャーされたのは、この状況を想定していたのかもしれないと、理解した。
一方ムーノ達は、劇場が落ち着きを取り戻した頃に聴取室で事情聴取を受けていた。
「俺は何も知らないぞ!あんなのが出てくるなんて知らなかった!」「ジャンヌはどこにいる?そばにいさせろ!」「王子である俺を疑うのか!?」「父上に話を通してくれ!早くここから出せ!」
ムーノは先ほどからこの有様である。言い訳ばかりで、父である国王の威光をかざし説明責任も果たそうとしない。
文官や騎士団の間でも、ムーノ王子の傲慢さ、無能っぷり、虎の威を借る狐であることは周知の事実になっている。権力を振りかざすしか能のないその姿に、無能なポンコツほどよく吠えるものだな、とムーノの聴取をしている文官と騎士は呆れた様子を示していた。
劇中で使われた例の魔法陣については、エフィーが王城に持ち帰っており、第一王子ユーノをはじめとする優秀な者達で調査を行なっていた。細かいことはこれから調査をするようだが、一つわかったことがあるようだ。例の魔法陣は、スパイン帝国で用いられる魔法陣に似ていた。




