第34話:クラトスが王都に来ます(1)
昨年の夏に第一王子ユーノと第一王女エフィーがアメリアの視察に赴いてから、半年以上が経過していた。今後のアメリア関連のことを議論するために、今度はクラトス・アメルーシャがユースティティア王国の王都に三ヶ月ほど滞在している。
王立魔法学園の2年生も終わりに近づいた頃、マーサは週末を利用して王都のアクトゥール公爵邸に帰ってきており、今はリビングでアルマと一緒にテーブルゲームをやっている。
「アルマ、もう一回!もう少し手加減して!」
「わかりましたよ」
もうしょうがないなぁという様子でアルマがマーサに返事をしていると、リビングのドアが突然開いた。
「お邪魔いたしますわ」
「失礼する」
勢いよくリビングに入ってきたエフィーとクラトスに、マーサが答えた。
「エフィー殿下!?クラトス様!?突然どうされたのですか?先触れくらい出してください」
「マーサ嬢、この新聞を見たか?」
クラトスは笑いを堪えながら手にもっている今日の朝刊をマーサに手渡した。
「なんですか?これは・・・?」
「マーサ様、お気持ちはわかります。なぜわたくしの愚兄ムーノはこうなのだろうかと」
エフィーが答え、クラトスが続けた。
「だけど、せっかくだから見に行ってみないか?今日もやるみたいなんだ!」
面白そうだろ?と言わんばかりの顔をクラトスはしている。
「構いませんけれど・・・」
とても嫌そうな顔でマーサは答えた。なぜなら、新聞の一面には、神様のかっこをしたムーノと女神のかっこをしたジャンヌが劇場の舞台上で抱き合っている様子が描かれていた。
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マーサ、エフィー、クラトス、アルマは変装をして、第二王子ムーノが建設した劇場カリグラに足を運んだ。
「わたくし、劇場という場所に初めてきました!客席は3階建てて、中央に舞台があるのですね!」
心なしかワクワクした様子のエフィー。
「俺も初めてです。これが民の税金を注ぎ込んで作られた劇場カリグラですか」
一気に険しい顔になったエフィー。
「まぁまぁ、一度席に座りませんか?」
とりあえず席をすすめるマーサ。マーサのそばで飲み物を飲んでいるアルマ。
4人は空いていた近くの席に座った。
「ジョセフさん、連れてこられたのはいいのですけど、どういうお話なのですか?」
ジョセフとは、変装中のクラトスの名前である。
マーサはクラトスに劇の概要を聞きたいようだ。隣では、エフィーが売店でホットドックを買ったはいいが、どのように食べるのかわからずにアルマに食べ方を教わっている。
「この劇に登場する神にはすでに妻がいる。その妻に強引に脅されて結婚したが、妻の傲慢な態度や無駄遣い癖に嫌気がさしていたところに、純粋で素朴で心優しい女性が現れる。その優しさに触れた神はその女性を愛するようになるが、それに気付いた妻が強い嫉妬で邪魔をする、という流れらしいな!」
「はぁ、またそのパターンですか・・・あいかわらず成長しないですね」
マーサはもう呆れているようだ。
4人が雑談をしていると、劇がはじまった。
ムーノがトーガのような服装をきて、神様っぽく登場するところから物語がはじまる。
この世界に教会がある以上神様も信仰されている。たとえ王族といえど、反発されることが容易に予想されるので、神の真似は普通はしないが、ムーノ殿下はノリノリのようだ。自分に酔っているようにも見える。
そこにジャンヌが女神のような格好をして登場した。豊満な体つきがが目立つ、際どい服装だ。
そして、物語が進んでいく。
劇の序盤は、
「こんな茶番劇のために貴重な税金を注ぎ込みましたの?あの愚兄、ここまでおバカなのですか?愚兄の愚兄による愚兄のための自己陶酔ショーじゃありませんか」
などとぼやいてたエフィーであったが、劇が進むと、
「なんですか、この脚本は。あまりにも稚拙すぎて、一周回って逆に面白いですわね。あの神の演技も大根役者じゃありませんか」
と変な楽しみ方をしていた。
マーサが、あれ?という風に疑問を口にした。
「今回の舞台はエシロップ様は出ないのですね」
ムーノの側近で、固有スキルお遊戯会をもっている宰相の二番目の息子が舞台袖で舞台装置を操作していることは目に入ったが、エシロップがまだ出てこないので疑問に感じたようだ。
「エシロップ様なのですけれど、あの課外授業の後に、父君である騎士団長様に稽古を頼み込んだようですわ。なんでも、思うところがありそうなご様子でした。元から魔力量的には王立魔法学園入学の基準を満たしておらず、騎士学校を志望していた方でした。それにも関わらず愚兄が権力に物を言わせてそばにおこうとしたという経緯がありますわ。最近は騎士としての稽古に時間をさいていらっしゃるようで、愚兄のそばから実質離れたようなものですわね」
「そうだったのですね」
背景については初めて聞いたけど、心境の変化があったのでしょうか。いい方向ならいいのだけど、とマーサが思っていると、見せ場の一つである、ムーノとジャンヌの抱擁シーンになった。
「ああ、ノーム様。あなたはどうしてノーム様なの?」
ムーノが演じている神の名前は、ムーノを逆から読んでノームらしい。安直である。
そして、二人のイチャイチャを見ていた神の妻、名前はサーマらしい、は二人の逢瀬の邪魔をするべく魔物をけしかけることにしたようだ。
小道具であろう魔法陣が描かれた紙を取り出し、私の髪色と同じ銀髪のウィッグをかぶった妻役の女性はセリフを口にした。
「我が命ずる!我が魔力を糧として、あの女狐をきりさきたまえ!」
魔法陣が妖しくひかり、大きな魔物が現れた。
「ギャオオオオオオ!」
その咆哮と同時に、マーサとアルマは表情を険しくした。自分たちに幻惑魔法をかけ、マジックバックから武器も取り出している。観客の中にも似た動きをした者もいた。
エフィーは感嘆としている様子だ。
「おおー、すごい精巧に緻密に作られてますね。まるで、本物みたいですわね。宰相様のご子息の固有スキルの賜物でしょうか」
舞台上では、神を守る騎士らしき役者が、剣を構えて劇を続けている。彼らもまた、緻密に作られた魔物の舞台装置だと思い込んでいるようだ。
マーサは、変装中のエフィーの名前であるミーユに呼びかけた。
「ミーユちゃん、あれは本物のキマイラです。あの人が、本物と見間違うほどの偽物を用意できるはずがありません。被害が出る前に止めます」
それもそうですねと納得したのか、エフィーはすぐに思考を切り替え、自分に幻惑魔法をかけ、マジックバックから自分の武器である短剣と、4つの仮面を取り出した。
「わたくしも行きます。愚兄のせいで、被害者が出るのは見過ごせません」
エフィーは仮面をつけ、3人にも渡した。
クラトスは
「申し訳ないのですが、わたしは戦闘が得意ではありません。足をひっぱらないように、観客の避難誘導にまわります」
「ぎゃおおおおお!」
舞台上ではキマイラが口元に炎を集めていた。
「まずい!」
マーサはすかさず水魔法を放ち炎を相殺した。
キマイラの炎を見ていた役者、ムーノとジャンヌはそれが本物であると気付いたようで、一斉に舞台から逃げた。
さらに悪いことに放置された魔法陣から2体目のキマイラが姿を現した。
観客はまだ事態を理解できていないようだ。




