第17話:それぞれの過ごし方
マーサが王立魔法学園に入学してから、1ヶ月ほど経過し10月になった。
クラスメイトとも打ち解けてきたようで、教室で談笑していることも多い。
しかし今でも高嶺の花扱いされている。いつかボロが出そうだが。
クラスのグループもある程度固まり、マーサはファウナ、レオ、レイラと一緒に行動することが多く、そこにカミラが加わることもある。カミラは見た目もご令嬢、中身もご令嬢で、クラスを超えてすでに1年生全体の社交の中心になっている。自分のグループも持っているが、マーサ達4人とも仲が良く、度々一緒に過ごしている。
みなそれぞれ、学校での生活や、休日を過ごしていた。
ーーーーファウナの場合ーーーー
聖女であるファウナは学園がない日は教会にいることが多く、今日も教会で怪我や病気をした人たちの治療にあたっていた。
何人かの患者を治療し、そろそろ休憩になるタイミングで、ふと声をかけられた。
「ファウナ嬢、いつも国民を助けてくれて感謝する」
「ユーノ殿下、勿体無いお言葉でございます。聖女として当然のことをしているまでです」
声の主はユースティティア王国の第一王子、ユーノ・ユースティティアである。
ユースティティア王国は、王族と教会がギスギスしているわけでもなく、適切な距離を取りつつも良好な関係を維持している。ユーノもたまにファウナの様子を見に来ていた。
「それでも、感謝はしている。学園の合間を縫って、教会で治療にあたっているが、無理はしていないか?」
「はい、クラーク伯爵をはじめ教会の皆様が配慮してくれています」
「それはよかった」
「殿下の方こそお疲れではないですか?顔色がすぐれないようですけれど」
わたしは、失礼しますと断ってから、ユーノ殿下に治癒魔法をかけた。
「これはすごいな」
「お褒めに預かり光栄です。最近お忙しいようですけど、しっかり休んでくださいね」
ユーノ殿下にはある噂が流れているから心配だ。
「忠告感謝する。ただ、それこそ王子として当然のことをしているまでだ」
ユーノ殿下はニヤッと笑った。さっきのわたしの発言の意趣返しらしい。
「何をおっしゃっているんですか」
わたしは苦笑いで返した。
そうだ、と言ってユーノ王子はカバンから紙袋をとりだした。
「ファウナ嬢への差し入れだ」
中身を見ると、とても見覚えのある物が入っていて驚いた。
「ちまたで有名な、聖女のパン屋、のパンだ。腹が空いた時に食べるといい。うむ、あの店のご主人とご婦人は元気そうだったな」
ユーノ殿下はわたしの反応を楽しそうに見ている。
「殿下、まさかとは思いますが、王子自ら買いにいってませんよね?」
ユーノ殿下は、
「意外とバレないもんだな」
と言って、去っていった。
ーーーーレオとレイラの場合ーーーー
レオとレイラは学園の休日を利用して、魔物狩りに行くことにした。
二人とも冒険者ギルドに登録しており、最近Cランクになったばかりだ。
今は王都のギルドの掲示板を見ている。
「レイラ、どうする?」
「これはどう?王都近くの草原に出現したパンプキンゴースト10体の討伐」
パンプキンゴーストは名前の通り、かぼちゃみたいなおぼけで10月頃によく発生する。魔法も使ってくる魔物である。
レオはレイラから渡された依頼書に目を通すと。
「この時期っぽいな。日帰りで行けるし、強さ的にもちょうどいい。これにしよう」
現場につくと、パンプキンゴーストがカッカッカッカッカッカッカッと声を発しながら彷徨っている。
ちょっとホラーな光景を前にしながらも、レオがレイラに勝負を持ちかけた。
「どっちが多く倒せるか勝負しようぜ!」
「いいわよ!」
レオは、固有スキルオーバーヒートを使って自分の両手剣を熱した。高温を纏った剣でパンプキンゴーストを焼き切るつもりのようだ。
「ファイヤーアロー!」
火の矢を飛ばして、敵の行動範囲を制限する。
「トリャ!」
一気に近づきパンプキンゴーストを切り裂いた。
「まずは一体!」
一方レイラは、闇魔法を混ぜた身体強化魔法を自分にかけた。闇魔法はブラックホール的な性質もあるのか、使い手の力量次第ではあるが、少しだけなら魔法攻撃を吸収することができる。過信をすると文字通り痛い目にあう程度はではあるが、多少の魔法攻撃は防げる。
レイラは細剣を抜き、固有スキルのシューティングスターを発動した。球体状のエネルギーを空気中に発生させて、流れ星のように相手にぶつけて攻撃したりできる。
その様子をみたレオが茶々をいれた。
「おっ、星夜の舞闘姫!」
「自分にあだながないからってうるさいわ!集中なさい」
二人は戦闘を終えて、王都のギルドに戻ってきた。
勝負の結果は、6体と4体でレオの勝ちだ。
レイラは悔しそうに呟いた。
「レオに負けるなんてなんたる不覚。次こそは絶対に勝つ」
討伐証明のパンプキンゴーストの”へた”を、受付に納品するために二人が歩いていたら、近くの男性冒険者に声をかけられた。
「レオとレイラか!惜しかったな、もう少し早く戻ってくれば、ファントムがきてたぞ」
ファントムとは、王都の冒険者ギルド七不思議の一つになっている冒険者である。
「よっマイケル。あのファントムがいたのか?俺は遠目で見たことしかないんだけど、女の子二人組だっけ?」
「そうだ。高ランクの魔物を二人だけで狩ってきたと思えば、報酬が低くて初心者でもあまりうけないスライム狩りに出かけたり、好きな依頼を受けて、ふらっと現れてはふらっと消えている」
「他の冒険者とは組まないから、話をしたやつもほとんどいないらしいな」
「私は一回だけ話したことがあるけどね」
すました顔でいうレイラにレオが反応した。
「えっ?なんで?何を話したんだ?」
「ユースティティアでは珍しい刀を腰に差しているから、話を聞いてみたくて」
「そしたら?」
「刀はロマンだよね!って嬉しそうに言ってたわ」
3人は思わず目を見合わせた。ロマン?
「レイラ、東大陸の出身者ぽかったか?向こうだと刀は手に入りやすいだろう」
「それはわからないわ、マイケル。あの二人の素性は掴めないのよね」
「そうだな、探りを入れた冒険者はもちろん、貴族や大きな商会の尾行者や調査員のこともことごとく振り切っている。街中で、一瞬で煙にように消えるらしい。わかっていることは、アテナとメルという名前と、水属性と風属性の魔法の使い手、冒険者登録した場所がアクトゥールのギルドってことくらいか」
「あの領は魔物が強くて、腕試しや修行で集まる強者が元から多いわよね」
「そうだな。色々と謎に包まれた上に、神出鬼没だからファントムってよばれている」
レオが思い出した。
「そういえば、正体不明のミステリアスな部分も話題性があって、二人をモチーフにした小説も発行されるんだっけ」
ーーーーマーサとアルマの場合ーーーー
冒険者の時にファントムと呼ばれ始めている本人達は、畑にいた。
王都のアクトゥール公爵家の敷地内にある畑の一画を、マーサ用にしてもらっているのだ。
「今日もうまくまけましたね」
作物のタネのことではない。
「そうね、アルマの幻惑魔法のおかげね」
「マーサ様の水魔法と固有スキルのおかげですよ」
マーサの固有スキル、ソウルオブグンマには移動系の能力もある。マーサが水魔法で水蒸気を作り二人の姿を覆い、さらにアルマが幻惑魔法で周りに認識阻害を起こし、一定の制限があるがマーサの固有スキルで一気に転移する、というのがファントムが一瞬で煙のように消えるからくりだった。
「私たちは今日一日公爵邸から外に出てないことになってますからね」
「犬の皆様もご苦労なことです」
二人は人の悪い笑みを浮かべた。
「見てアルマ、そろそろこのマスカットが食べ頃じゃない?」
「ほんとですね。今年の出来は良さそうですね」
「お祖父様や庭師にアドバイスをもらいながら育ててきた甲斐があったわ!」
マーサの祖父はアクトゥールの領地にいる。果物や作物の研究でセカンドライフを満喫している。
「お嬢様の固有スキルの中には、植物の育成を補助する物もあったと思うのですが、使われないのですか?」
「スキルに依存しすぎるのはよくないと思いますし、それより、自分の手で育てるのが楽しいのよ」
「そうですね」
アルマもふっと笑った。
「お祖父様にお礼の手紙を書くわ。それと、このマスカットを食べながらお茶にしましょう。アルマも一緒にね」
「わかりました。ご準備しますね」
今日も平和である。




