第16話:聖女と一緒に新入生歓迎パーティーを抜け出しました
ファウナとのダンスを終えたマーサは少し休憩してから会場を出た。
私がバルコニーに着くと、先にファウナが待っていた。
「お待たせしてしまったかしら。ごめんなさいね」
学園の庭を眺めていたらしいファウナはぱっと振り返った。
「そのようなことはありません。こちらこそ急にお呼びたてして申し訳ありません。改めて自己紹介をさせてください。わたしはファウナ・クラークと申します。平民出身ですが、今はクラーク伯爵家の養女です。わたしのことはファウナと呼んでください」
「すでにご存知のようですけど、私はマーサ・アクトゥールです。マーサと呼んでください」
この時期のファウナは、もっと平民の雰囲気が抜けてない話し方だったはずだけど、私の記憶違い?
目の前のファウナは何か迷った様子をしている。純粋な困りごとかもしれないと思い聞いてみた。
「ファウナ様、無理に聞こうとは思わないのですけれど、私に話したいことがあるのかしら?」
ファウナは意を決したようだ。
「マーサ様、気分を害されたら申し訳ありません。答えられないようでしたら、お答え頂かなくて結構です。聞いてはいけないことでしたら、質問自体を取り消します」
「わかりました」
なにか重い話題がくるのかしら。身構えた私に衝撃の一言が訪れた。
「アクトゥール公爵様には、マーサ様と同い年くらいの女の子の隠し子はいらっしゃいますか?」
はい?隠し子?
「えぇと、父に隠し子は・・・いないと思います、たぶん。私が知らないだけかもしれませんけれど・・・」
「そう、ですか、、、お家のことに踏み込んだ失礼なことを聞いてしまい申し訳ございません」
貴族だから、もしも本当に隠し子がいたとしても、そういうこともあるよね、と受け止めるつもりではいる。お父様とお母様は仲がよろしいから、杞憂な気もするけど。それにしても、私と同い年の女の子、とは具体的な話ね。何か噂の元になることがあるのかしら。
「ファウナ様、貴方を責めるつもりはないのですが、なぜそうお思いになられたのですか?」
「そうですね・・・聖女の固有スキルをもっていることがわかり、クラーク伯爵家の養女になる前のわたしは、街のパン屋の娘でした」
うん。今では聖女のパン屋と呼ばれて繁盛しているらしい。
「10歳の頃に、今は貴族籍を剥奪されている元男爵から、私たちのパン屋に難題をふっかけられました。それができたら借金はなかったことにするけど、できなかったら借金のかたにわたしを連れていくと言われました」
あの男爵様ね。権力だけでいばりちらしていて元から国にマークされていたようね。それで他にも様々な権力濫用や私物化や無駄遣いもあって、貴族籍を剥奪されたわね。私としても国の監査機関に通報したし、動向も追っていた。
「その難題というのが、ワイバーンの肉をつかった新作惣菜パンの制作でした。貴族相手に制作自体を断ることもできず、後ろ盾のない平民のパン屋では、そもそもワイバーンの肉の入手が困難です」
うん。ワイバーンね・・・?
「困っていたわたしたちに、アテナちゃんという冒険者の女の子が破格の条件でワイバーンの肉をとってきてくれました。おかげで、ワイバーンの惣菜パンも完成しわたしも連れていかれずにすみました。その冒険者の子が、マーサ様と同じ銀髪で見た目もそっくりだったんです」
えっ、待って、あの時幻惑魔法かけていたよね?あれ?
「王都の冒険者ギルドにたまに顔を出すのはわかっていたのですが、それ以上はわからなかったんです。入学試験の会場で見かけた時は、やっと会えたと思って、声をかけようとしたのですが、試験官に呼ばれたお名前が違っていたので困惑していました。それでその、とてもそっくりなので、もしかしたら、アクトゥール公爵様の隠し子なのではないかと思い、聞いてみました」
お父様、ごめんなさい。私のせいで不義の疑惑が出ていたようです。
「そう、でしたのね。ファウナちゃ、ファウナ様、少しだけ私の方を見ないで庭を眺めていてくれませんか?」
「はい?わかりました」
私は、せっかく髪をセットしてくれたアルマに申し訳ないと思いながらも、髪飾りを外し、髪をほどいた。髪を三つ編みにしなおした。
「ファウナ様、お待たせして申し訳ありませんでした。こちらを向いてください」
そして、私はいたずらっぽく笑った。
「ファウナちゃんが会った、アテナという冒険者は三つ編みのこういう子だった?」
「えっ・・・?アテナちゃん?マーサ様?」
「アテナでもあり、マーサでもあるわ。アテナの話は長くなるからちょっと待ってね」
そう言って私は、火属性の生活魔法を使って二人がいるバルコニーの空気を温めた。まだ暑さの残る9月頭といえど、夜は少し肌寒い。
「完全無詠唱・・・」
ファウナは驚いていた、ずっと感謝を伝えたかったアテナがいきなり目の間に現れたと思ったら、難易度が高く使える人が少ない、完全無詠唱での魔法の発動まで使いこなしている。
その本人はいたずらが成功した子供のような嬉しそうな顔をしている。
マーサは服に忍ばせていた魔道具をとりだし防音結界をはった。結界魔法が得意な父ルイスが結界魔法をいくつか登録した特注品だ。一回使うと再度登録しないといけないが、護身用に持たされていた。
「まず、アテナは私がお忍びで冒険者をやっている時の名前です。アテナの時は幻惑魔法をかけて髪色と瞳の色をかえているのだけど、あなたには通じなかったようですね」
マーサは少し首を傾げている。
「幻惑魔法ですか・・・えっと、聖女の能力の中に状態異常を解除する能力があります。程度にもよるんですけど、普段からわたしは状態異常が効きにくいみたいなんです」
「それが原因かしらね」
ファウナは聞きたいことや言いたいことが色々とある様子だけど、先にこのことを聞いた。
「あの、マーサ様がアテナであることは秘密ですよね」
「そうね、秘密にしてくれると嬉しいわ。最初は年齢的な意味で秘密にしてたけど、お祖母様が特例をつかって修正をしてくれたみたいで今は問題ないのよね。でも、いまさら公爵令嬢として冒険者をやりたくないから、アテナはアテナのままでいたいわ」
秘密にしろと言われて重荷に感じてないだろうかと心配していたら、
「わたしなんかに大事な秘密を共有してくれて嬉しいです。これから仲良くしてくださいね」
花も綻ぶ笑顔とはこのような笑顔なのだろうか。この笑顔は破壊力がある。ここがパーティー会場だったら、結構な数の男子生徒が落ちそう。バルコニーでよかったとマーサは思った。
「私からもファウナ様に聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんですか?」
「クラーク伯爵家の養女になってからまだ日が浅いと思うのだけど、先ほどのパーティーで殿下のファーストダンスを断ったりしてて、貴族には慣れてきた?」
「まだまだ勉強不足ではあるんだけど、昔ギルドでアテナちゃん、マーサ様に貴族のことは勉強しておいた方がいい、と言われてから自分でも勉強してたんだ」
「そうだったのね。少しでも私の言葉が役に立っていたのならよかったわ」
そっか、役に立ったのか。よかった。
二人はそのまま遅くまで語り合った。




