第2章-14
―カーメリーバカラ侯爵執務室―
12月20日ユーラス国にて勇者選任。数日の後首都出立。
翌年1月4日勇者ルピアース山脈到達。
1月8日カーメリー外殻部よりデーモン誕生。名はリト。誕生間際ながら魔力量は大公と比肩する。その者は紅の瞳を宿す。
1月25日魔大陸8か国会談開催。魔王の因子はその時点では確認されていないとのこと。前例に倣い魔王の因子を持つ者が魔王とすることに各国合意。
3月23日勇者ミサカニの森到達。
【特記事項1 勇者】
出身はユーラス国の都市ウェイスタコタが納める辺境の村。イリオワ出身。男性。16歳。白髪にライトグレーの瞳。父親と同様に剣術に秀でており、現在は父親よりも剣術においては腕が立つ。第12回ユーラス国武闘大会覇者。性格は穏やかで、戦闘に関しては冷静な判断力を持つ。強さに関しては歴代勇者と比べて平均的だが将来的には未知数。苦手なものは海。好きなものは両親、イリオワ村、ホワイトウェアウルフの香草焼き。
【特記事項2 リト】
カーメリー外殻部より生まれたデーモン。こことは別世界で過ごしたと発現あり。直前の記憶は死ぬ間際であろう様子を聞き取り、転生した者と推測している。魔力量はかの大公(初代魔王)と比べ遜色なく、魔法を見せただけで模倣可能なほど魔法の扱いに秀でている。転移は現時点では使用できていないが、4元素の魔法の行使は問題なく可能。魔王の因子である紅の瞳を持つが現時点では魔王への選定には至っていない。
【特記事項3 魔大陸8か国会談】
勇者出現及び魔王選定の議題に伴う臨時招集による会談。先代魔王がドネス国長であったことから、今回ドネス国が開催国となる。先代の長から引き継いだアプリコットは先代の息女であり、初めての主催であったが卒なくこなす。側近2名による補佐もあったが、今後のドネス国の発展にも大いに期待される。本議題では①勇者の出現、②魔王の選定方法の決定、③魔王の因子の確認が挙げられる。①②は滞りなかったが、③については未確認のため、次回の各国招集は発見時、もしくは勇者が魔大陸到達時であろうと予測。
端的にまとめられた情報をカーメリーの侯爵は確認する。レポートは侍従のピアニッシモの諜報とそれをもとにした情報である。カーメリーではマイルズ子爵が指揮を執っているが、口も手も出さずともバカラは勇者と魔王の歴史についてその都度確認だけはしている。しかし今回は状況が異なる。大公候補の筆頭、リトを思い浮かべながら、魔王として選ばれて欲しくないと思う反面、初代魔王の遺言も無下にしたくないというジレンマがある。リトに伝えたことで、思い悩むのは分かり切っているが、生まれたばかりの彼女に重荷を背負って欲しくはない。魔王と勇者は戦う必要がある。何故かについては遺言だからなのだが、これまでの歴史については改めて話さなければならないだろう。その歴史も裏付けとなり、戦わざるをえない事情である。
その話をいつにすべきか…とレポートを右手に抱えながら考えていると、執務室の外からコツコツと床を鳴らす音が聞こえる。
「彼女の方から来ましたか…さてさて…」
そう独り言を零すと、扉をノックする音が聞こえてきた。短くどうぞとだけ告げる。
「何かご不便でもございましたか?」
それとも話を聞きにいらっしゃったのですか?と思いながらバカラは問いかける。だが返答が思いの外過ぎて、うまく返答できなかった。
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