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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第五章 オクシタン征討
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6.敗残兵

「減速シークエンス継続中。ワープ・ポイントまで後15時間45分です」

航行AIの無機質な声が告げる。しかし艦橋内はひっそりと静まり返っている。その理由は戦術AIが教えてくれる。

「敵艦隊依然接近中。現在の速度を維持すると3時間20分後に射程距離に入ります」

クリーガーは腕を組んで顎をつまみながらスクリーンを見つめている。右手前方火器管制コンソール前ではギュンターローデ中佐がひっそりとたたずみ、時々クリーガーの方を盗み見ている。


帝国によるオクシタン征討作戦は大失敗だった。今クリーガーは戦術AIが記録している戦況ログをみている。それによると、総大将ヴェルニッケ提督率いる帝国軍本隊は敵との距離が4.5光秒地点まで近づいた時、戦列艦の射程外から何らかの“新兵器”の砲撃を受けた。まだ戦闘開始まで時間があると考えていた本隊はシールドを展開しておらず、その新兵器の直撃をまともに受けた。戦列艦部隊が大きな被害を受けて艦列が乱れたところに敵本隊の突撃を受け、帝国軍本隊は潰乱した。

クリーガーの指示で戦術AIは画面を切り替え、右翼艦隊の状況を映し出す。敵本隊の突撃を目にしたヴェルニッケはその背後を突こうと右翼艦隊に突撃命令を出している。しかしその直後、新たな敵艦隊が右翼艦隊の背後に出現した。クリーガーはその敵新艦隊をズームアップさせる。不鮮明ながら艦首に紋章がみえる。

「ミスラータか・・・」

前年の暮れ、オクシタンの隣接星系ミスラータで発生した叛乱はオクシタン領主オーベルニュ伯の介入により鎮定された。その叛乱後も続く政情不安を理由に、ミスラータの領主エル・ガーニー男爵は今次オクシタン征討への参加免除を願い出て許可されていたが、その裏でオーベルニュと手を結んでいたらしい。(いや、)クリーガーの心に疑念が浮かぶ。(あの叛乱自体がオーベルニュによって仕組まれていたのか・・・)

いずれにしろ、ミスラータ艦隊の突然の出現によって恐慌をきたした帝国軍右翼艦隊はオクシタンの左翼艦隊とミスラータ艦隊による前後からの挟撃により壊滅した。

クリーガーは今度は帝国軍左翼艦隊の最後の突撃場面を映すようAIに指示する。敵右翼艦隊がこちらの勢いに押され(それは偽装だったのだが)、左右に分裂した場面である。敵艦隊の中央に大きな穴が開いていく。

「ストップ」

クリーガーはぽっかり開いたその穴をズームアップさせる。そこに異様なものが写っていた。

「何だこれは・・・。大砲か?」

戦列艦の艦体に匹敵する直径の筒形のものがこちらをまっすぐ見つめている。クリーガーはAIに命じ、その“物体”の形状を分析させる。それによると600m超のパイプ状のものが後方の立方体から突き出たような艦体に小型のスラスター等が配置されたものだ。どうやら、既存の荷電粒子砲を直径・長さともに巨大化させて射程を延長したものらしい。後方の立方体はエネルギー発生装置と燃料タンクだろうか。他の武装らしきものは確認できない。スラスターの配置などをみても、その場での方向転換はできても戦場で十分な機動ができるようには思われない。まさに機動力を犠牲にした一撃必殺の“大砲”であった。


「ふうむ」感心したようにスクリーンを眺めるクリーガーに、「大佐」とおずおずとだが切羽詰まった声が呼びかける。ギュンターローデだ。

「敵艦隊が迫っております。どうされるおつもりですか」

クリーガーはちらりとギュンターローデをみやった。一時の惑乱から立ち直り、なんとか職責を果たしている。クリーガーは一つ頷くとAIに画面を切り替えさせた。周辺の宙図がスクリーンに映し出される。

「前方に小惑星帯がある。そこで敵を迎え撃つ」

はっ、と艦橋内で何人もが息を飲む音がする。しばしの沈黙の後、ただ一人、ギュンターローデは必死に抗弁する。

「しかし、しかし・・・敵は・・・優勢です」

ギュンターローデなりに言葉を選んだのだろう。今此方を追跡してきている敵艦隊は大型のフリゲート艦約2000隻。対してこちらは戦列艦200隻に、フリゲート艦、その他小型艦は合わせて1,600隻程まで撃ち減らされている。さらに残存エネルギーもワープ用を除けば戦列艦が一斉射する程しか残されていない。つまり、敵は“圧倒的に優勢”だ。

「では中佐、君ならどうする?」

クリーガーの問いにギュンターローデは顔を真っ赤にして何か言おうとしたが、何の言葉も発することができず俯いた。


敵の“大砲”で大打撃を受けた左翼連合艦隊であったが、その後敵の猛攻を受けつつも全速後進しながら必死の防戦を続けた。幸いというべきか、敵艦隊がその後方向を転じまだ抵抗を続けていた帝国軍本隊の包囲に向かったため、左翼連合艦隊の残存部隊は敵との距離を稼いで戦場を離脱することができた。

しかしクリーガー達が残存部隊を指揮してオクシタン星系外縁のワープ・ポイントに向けて航行していたところ、1時間程前に戦術AIが新たな敵の接近を報告したのである。ワープは星系内の特定のワープ・ポイントでしか行えないだけでなく、ワープの前後で速度が維持されるため、一定程度まで減速してからワープしないとワープ終了後のコントロールが難しくなる。ワープ終了直後に前方に何らかの障害物があった場合避けられなかったり、恒星・惑星に近づきすぎた地点でワープ・ホールを抜けた場合、星の重力から逃れられず地上に激突したりしかねない。そのためクリーガー達はワープ前の減速シークエンスに入っていたわけだが、そのためにワープを考える必要がない敵の追跡部隊との距離がどんどん縮まっているのである。

おそらく新たな敵は会戦の間、追撃のための予備隊として後方に配置されていたのであろう。つまり士気もエネルギーも十分というわけだ。事態は絶望的である。それはギュンターローデだけでなく艦橋内の誰もが感じ取っている。

(この俺もな)クリーガーは心の中でつぶやきながらも、その葛藤を振り払うように努めて明るい声で言った。

「心配するな、俺に策がある」


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