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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第四章 急流
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9.独立宣言

帝国暦202年(地球暦4261年)8月25日、オクシタン星系政府は帝令候オーギュスト・ド・オーベルニュ伯の誕生日である9月1日を祝日とし、祝賀式典を首都で開催すると発表した。


そして9月1日の当日、全国から招集された老若男女、貴族から一般労働者、学生等種々雑多な6万人もの人々が首都オクシタンのニケ・スタジアムに集まった。今日は帝令候本人から重大な発表があるとのことである。スタジアムの中央に作られた壇上には閣僚や高級軍人らが林立している。

メインスタンドの下にある扉が開きオーベルニュ伯が現れるとスタジアムはどよめいた。ここ5年間、開明的な改革の数々を折に触れ発表する若き君主の姿をメディアで目にする機会は多くとも、殆どの者にとっては伯爵の実物を目にするのはこれが初めてである。高度経済成長によって多くの者が恩恵を受け、その美しいルックスと相まってオーベルニュ伯は既に民衆のヒーローになりつつあった。

オーベルニュ伯が中央のステージに向けて敷かれた赤絨毯の上をゆっくり歩きつつ、前後左右の観衆に手を振ると、スタジアムのどよめきは歓声に変わった。オーベルニュの後ろには軍服に身を包んだ長身・黒髪の男が付き従っている。こちらもオクシタンの民にはお馴染みの“伯爵の右腕”ラ・ファイエット幕僚本部長である。

ステージに上がったオーベルニュは政府閣僚や軍人ら一人一人と握手をすると演台の前に立つ。民衆に向かって軽く手を振ると、スタジアムは静まり返った。みんな固唾を飲んで伯爵の言葉を待っている。

コホン、と軽く咳払いをすると、オーベルニュはスタンドに集まった民衆の方をまっすぐ見て話し始めた。メインスタンド上の大スクリーンにはオーベルニュの顔が大きく映し出されている。

「オクシタンの民よ、諸君が今ここに集まり、私と共に歴史が変わる重要な瞬間を目撃してくれることに感謝する」

そこで一息つくと、話を続ける。

「人類が宇宙に進出してから1000年、腐敗と停滞が蔓延した地球による専制支配体制を打破するため、我らオクシタンの民が地球に対する崇高な独立戦争に立ち上がったのは今から200年程前のことだった」

「我々オクシタンの民はこの戦いの先頭に立ち、多大な犠牲を払いながら地球に巣食う特権主義者達の搾取から我々自身を解放したのである。諸君達の多くはこの戦いで散った英雄達の血を引いている者達であろう」

地鳴りのような歓声がスタジアムにこだまする。しばらくスタジアムが再び静かになるのを待ってオーベルニュは続ける。

「しかるに、その後どうなったか?ホルツヴァルトなどという稀代の詐欺師が我らの革命を乗っ取り、革命の果実を一手に収めたばかりか、時代遅れの貴族制などというものを導入し、何の才能もなく努力もしない奴らの子孫達が銀河の富を永遠に独占する仕組みを作り上げたのだ」

突然、神聖不可侵であるはずの初代皇帝を詐欺師呼ばわりしたオーベルニュに民衆はぎょっとしたように黙り込み、困惑してお互い顔を見合わせた。貴族達は顔を青くしている。「殿、ご乱心か・・・?」囁く者達もいる。聴衆の困惑をよそにオーベルニュは淡々と話し続ける。

「一体、皇帝や貴族と呼ばれる者どもは人類社会の発展にいかなる貢献をしたのか?ただ皇帝や貴族の家に生まれたというその一点だけで、何故彼らは他の者達とは比べものにならない特権を享受しているのか?」

「・・・それはあなたも同じでは?」呟く男に隣の女がしっ!とたしなめる。前席にいた初老の男が振り返り頭を振った。

「いいや、違うな。伯爵はもともと伯爵家の跡取りじゃなかったんだ。それでもあのラファエル・クレメントの叛乱軍から自分の手で国を取り戻したんだ。・・・俺はその討伐軍の中にいたんだ」

オーベルニュが続けている。

「そのおかげで見よ、銀河はまた腐敗と停滞が蔓延する暗黒の世界に逆戻りしたのだ。この200年間で、人類は何か少しでも進歩したのだろうか?」

ここで声のトーンが一段高くなった。

「我々は今、この暗黒を打破すべく再び立ち上がらなければならない!私は今日ここに、オクシタンにおける貴族制の廃止を宣言する。当然、私自身も“皇帝”などと僭称する輩から授けられた帝令候、伯爵などという虚飾を捨て去るものである」

今や驚きを超えて、スタジアムに集まった聴衆は呆然自失の体である。

「新たな政治体制は、全ての人間を生まれではなく、その人間自身の努力と能力、そして国家に対する献身に正しく報いるものでなくてはならない」

「我々は既に、何年にもわたってそのための改革を行ってきた。諸君、この壇上にいる紳士、淑女たちを見たまえ。彼らは全て、家柄や出生に頼ることなく、その努力と実力によって我が国を率いる地位を得た人々である」

伯爵の後ろに控えていた閣僚や軍人らが一歩前に出てスタジアムに手を振る。言われてみれば確かに全て平民出身の者達だ。

「彼らの実力は、オクシタンがこの5年間という短期間で見事な発展を遂げてきたことで明らかであろう。そして彼らに続くのは全てのオクシタンの民たちよ、君たちなのだ!」

静まり返っていたスタジアムが一転、割れんばかりの歓声に包まれる。立ち上がって拍手をしている者達もいる。一層青ざめている貴族達以外は。

「これは我々オクシタンの新たな独立宣言である!旧体制の者どもは、我々の試みを脅威と捉え、自分たちの不法な特権を守るために無辜の者達を強制的に動員し、明日にでも我々の革命を潰しにかかるだろう」

「しかし恐れることはない。進歩の流れを止めて変わらぬ夢を見たがる臆病な者どもに、進歩の中にこそ本質を見出し前進しようとする我らの勇気が打ち砕かれることなどありえない!」

「オクシタンの民たちよ!武器を持って立ち上がれ!我々の革命、我々の希望を守るのだ!勝利の女神ニケは必ずや、我々の団結の上に祝福をもたらすだろう!」

総立ちになって拍手を送る観衆に今一度手を振ると、オーベルニュは演台から下がった。


替わってラ・ファイエットが演台に立ち、新たな政治体制の概要を発表する。

すなわち、

一、オーギュスト・ド・オーベルニュを総裁とする総裁政府を発足させる。

一、オーベルニュ総裁はオクシタン軍最高司令官を兼任する。

一、オクシタンの第一公用語を帝国公用語からオクシタン語に変更する。

一、旧貴族や各分野の指導的立場の者からなる元老院を発足させ、総裁の諮問機関とする。

一、ラ・ファイエット准将を中将に昇進させた上、軍幕僚本部長兼副最高司令官とする。

一、その他の現役軍人は全て1階級昇進させる。2年後をめどに、徴兵制を廃止する。

一、身分・性別を問わず18歳以上の全てのオクシタン国民に軍士官学校の門戸を開く。

一、全ての農地は現在耕作している者の所有とし、現所有者には国家が補償をする。

一、全国民が初等~高等教育を無償で受けられることを保証する。

一、全ての希望者に能力判定試験を受けさせ、結果に基づき職業訓練を無償提供する。

一、新たな産業振興基金を創設し、国民によるスタートアップ設立を支援する。


・・・等々、200年間の間に貴族制に慣れてしまった国民が夢想だにしなかった改革が次々と発表されていく。しかし一番ほっとしたのは、なんとか新体制に居場所を与えられた貴族達だったかもしれない。



オーベルニュは演壇を降り、スタジアムの出口に向かいながらラ・ファイエットを振り返った。

「レオ、いよいよだな」

珍しく紅潮した顔のオーベルニュにラ・ファイエットも頷く。

「はい、オーギュスト様。いよいよでございます」

若き頃の二人が語り合った夢が、今現実となろうとしている。

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