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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第四章 急流
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7.解散

8月の熱波が吹きつける砂漠の中を、ウォラフソンは装備調達局技術本部の施設に向かって車を走らせながら、3時間程前に宇宙艦隊司令部に呼び出された時のことを思い出している。


ネオ・ネプチューンでの訓練に立ち会っていたウォラフソンに急遽、フリートランドに戻り艦隊司令部軍務局(旧総務局)に出頭するよう命令があったのは3日前の金曜日のことだった。言われたとおり、月曜日の朝決められた時間に軍務局長の部屋に行くと、驚いたことに部屋の中にはレオノフ軍務局長だけでなく、ウィングフィールド宇宙軍司令長官(兼艦隊司令長官)とデ・ブライネ幕僚長が局長机前のソファに並んで腰かけていた。(来るのが早すぎたか)慌てて退出しようとするウォラフソンを軍務局長は机から立ち上がりながら呼び止め、自ら司令長官の前に座ると、ウォラフソンを横に座らせた。

軍務局長が司令長官をみやる。ウィングフィールドが頷くと、レオノフはウォラフソンに半身を向けた。

「どうかね、空母部隊の訓練の方は?」

「はっ、ダグラス・リーマン氏らの助力も得て、ようやくパイロット達の戦術訓練も形になってきました。今は、攻撃隊を二つに分け偵察・接近・撹乱・打撃の手順について慣熟訓練を行っているところです」

「第一独立機動部隊との連携はどうか?」

ウィングフィールドが静かに尋ねる。士官学校長だった頃と変わらず、厳しさの中に温かさを感じる目がウォラフソンをまっすぐ見つめる。

ウォラフソンの心にマックスウェルとリーマンらスペース・ウィング選手らの諍いのことがちらっとよぎったが、どうも冗談を聞かせるような雰囲気ではないようだ。

「特に問題はない・・・ように思われます。機動部隊にはアグレッサーとしても精力的に取り組んでいただいております」

「そうか・・・」そう言ってウィングフィールドは腕を組み、口をつぐんだ。

重苦しい雰囲気が立ち込める中、ややあってレオノフがまた口を開いた。口調が改まっている。

「今日、君を呼んだのはほかでもない、作戦第三課別室を解散することが決まった」

「・・・解散、ですか!?」

驚くウォラフソンにレオノフは頷く。

「ああ。もちろん君たちの働きに不満があるという訳ではない。君たちは本当によくやってくれた。・・・むしろ軍首脳部が新たな体制に移行すべき時がきた、と判断したということだ。これまでの功績により、ウォラフソン中佐、君を大佐に昇進させ、第一独立機動部隊の幕僚長に任じる。と同時に、空母部隊も第一独立機動部隊に編入する」

ウォラフソンは目を瞠った。

「他の室員達はどうなるのでしょうか・・・?」

「ブラッドリー・ホフマン少佐、リューク・アキノ中尉もそれぞれ中佐、大尉に昇進し、第一独立機動部隊付となる。君の方からそれぞれにふさわしい任務を与えてくれ。グエン少尉については中尉に昇進し、軍務局付となる」

「・・・バルベリーニ室長はどうなるのでしょうか?」

別室の室長になり、人が変わったように率先して仕事を引き受けてくれたバルベリーニの顔が浮かび、ウォラフソンの胸が痛んだ。

「・・・バルベリーニ室長は予備役から復帰し、私の後任の軍務局長となる」

えっ、ウォラフソンは耳を疑い、レオノフ局長の顔を見つめた。局長は就任してからまだ1年弱、異動するには早いはずだ。すると腕組みをして目を瞑っていた司令長官が居住まいを正して目を開いた。

「それについては、私から話そう」静かな声だ。

「先週の木曜日、我々3人はラムズフェルト大統領に面会してきた」

突然変わった話題に戸惑うウォラフソンに構わず、ウィングフィールドは話し続ける。

「外務省が帝国政府に対してサン・リミノ条約の改定を申し入れていることは知ってるな?」

ウォラフソンは頷く。しかしマントイフェル帝国大使からは予想通り門前払いの扱いを受けたということも小耳に挟んでいる。

「まあ、君も予想していたとは思うが、帝国側は全く耳を貸さない状態が続いている。そこでだ、」

「条約破棄、再軍備ですか?」尋ねるウォラフソンにウィングフィールドは頷く。しかし、と言ってウィングフィールドはウォラフソンをみつめた。

「君は条約を破棄、再軍備を表明した場合に予想される帝国側の反応について、NIAと軍情報部がまとめた報告書を呼んだか?」

ウォラフソンはこれからの話の行く末に嫌な予感を覚えた。

「はい・・・」


NIAと軍情報部のどちらも、テラフォードがサン・リミノ条約を破棄、再軍備を宣言した場合、帝国軍が直ちにテラフォードへの再侵攻を決定する可能性は十分に高いと判断していた。その場合、再侵攻する帝国軍の先鋒となるのはブランデンブルグ辺境伯麾下の部隊であろう、という点でも両者の見解は一致していた。

ブランデンブルグ辺境伯というのは、帝室譜代の臣の中でも初代皇帝バルトロメウスⅠ世の下で軍功厚かった軍人達、別名“八旗将”と称された者の一人、猛将と謳われたユルゲン・フォン・キースリングを祖とする有力家である。先の大戦における傑出した功績により、旧共和国連合の中心星系の一つであったグリフィスを領土として与えられ、大戦後は帝国の守りの要として旧共和国連合星系に睨みを利かせている。その任務のため辺境伯自身の私兵艦隊3,000隻の他に、帝国親衛艦隊3,000隻、計6,000隻がその指揮下に置かれている。先のネオ・ネプチューン事件の際、アブロリモーゼに派遣された戦列艦1,000隻はこの親衛艦隊の一部である。

両報告書はブランデンブルグ辺境伯麾下の部隊がテラフォードに来襲する時期を、再軍備宣言から早ければ1ヶ月以内、遅くとも2ヶ月以内とみていた。つまり、テラフォード宇宙艦隊は再軍備宣言から2ヶ月以内に、ネオ・ネプチューン事件の6倍の艦艇と対峙しなければならない、ということだ。

また軍情報部は、自治星系ラセンナが帝国軍にハイパー・ワープ航路の使用を許可した場合、ブランデンブルグ麾下の第一波が到来するのは更に早まり1~2週間以内とみていた。ブランデンブルグや帝国首都星ルフトヴァルデ等とテラフォードの隣接星系アブロリモーゼはハイパー・ワープ航路で結ばれている。そのため、何かの僥倖でブランデンブルグ部隊を撃破できたとしても、その後も多数の増援が帝国中心部からアブロリモーゼに直接送られてくることは避けられない、とも分析していた。


「従ってだ、」ウィングフィールドの眉間に深い皺が刻まれた。次の言葉はまるで部屋の中に雷が落ちたようだった。

「ラムズフェルト大統領は、再軍備宣言と同時にアブロリモーゼへの侵攻をお考えだ。同星系のハイパー・ワープ装置を押さえるためだ」

「なんですって!?・・・それは、それじゃ、・・・まるで宣戦布告じゃないですか!?」

ウォラフソンの言葉に部屋の中に沈黙が落ちた。

しばらくして、今迄黙っていたデ・ブライネ幕僚長が口を開く。

「そうよ、だから我々3人揃って大統領に会ってきたの。彼を思い留まらせようとしてね」

史上最年少で警備艦隊幕僚長に就任したデ・ブライネだが、普段の彼女からは想像できないぐらい感情が高ぶっている。対照的にウィングフィールドは淡々と口を開く。

「大統領は、その案に賛成できないのであれば、私に退役せよと仰せだ」

レオノフ軍務局長が溜息をつく。

「そして私は明後日付で軍士官学校校長に、デ・ブライネ幕僚長は装備調達局局長へ異動となることが決まった」

衝撃のあまり、ウォラフソンは声を失った。軍の根幹である3首脳が同時に解任されるなどとは前代未聞のことである。しばらくして彼はようやく声を絞り出した。

「そんな無茶な・・・・・・後任はどなたに・・・?」

「私の後任はシュルツ中将だ。大将に昇進し宇宙軍司令長官となる」

ジグマント・シュルツ中将、ウィングフィールドより更に1期上、退役間近の「昼行燈」と綽名がつくご老体だ。確か今は宇宙艦隊教育隊司令だったか。

「私の後任については大統領から聞かされてないけど、多分クオン大佐ね。彼、最近ラムズフェルトの事務所にやたら出入りしてるみたいだから」

辛辣な口調でデ・ブライネが吐き捨てる。ナイジェル・クオン大佐、デ・ブライネの2期先輩で、デ・ブライネが抜擢されるまでは幕僚長候補1番手と目されていた男である。

「私の後任については軍務局長の権限で何とかバルベリーニを押し込むことができた。これからますます、君の考えを理解している者が本部にも必要になるだろうからな」

レオノフが言うのにウィングフィールドも頷きながらウォラフソンをみつめた。

「彼はすっかり見違えたな。多分、君のおかげだろう」


しばらくの沈黙の後、ウィングフィールドはこれで話は終わり、というように立ち上がった。幕僚長、軍務局長も立ち上がる。あわててウォラフソンも立ち上がった。ウィングフィールドが差し出す手をためらいがちに握ると、ウィングフィールドはもう一方の掌でウォラフソンの手を包み込んだ。

「この国家の一大事に、何もかも君一人に責任を押し付けてしまって申し訳ない。宇宙艦隊を、テラフォードをよろしく頼む」

そういうと、ウォラフソンの手を握ったまま、ウィングフィールドが深々と頭を下げた。デ・ブライネとレオノフは揃って背筋を伸ばし、敬礼をする。それで会談は終わりだった。

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