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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第四章 急流
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6.訓練

地球暦4261年6月8日、テラフォードでは憲法改正に関する国民投票が行われ即日開票、賛成63%でテラフォードの政治体制は議院内閣制から大統領制に移行することが決まった。3週間後の6月29日には大統領選挙が実施され、大方の予想通りファーレン・ラムズフェルトが初代大統領に当選した。


その頃、ネオ・ネプチューン宙域では新設“空母部隊”の訓練が始まっていた。同宙域には新型“輸送艦”MANTA20隻と、同じく新型“哨戒艇”SAKURA及びそのパイロット候補約300人が集められ、実戦的な訓練を積んでいる。

同宙域に配備されることになった旗艦級警備艦改めナイル級軽巡洋艦12隻からなる第一独立機動部隊も空母部隊との連携訓練を行ったり、あるいはアグレッサー部隊(敵艦隊役)を務めたりしている。ナイル級軽巡洋艦は艦齢の高い8隻の“代艦”として新たに8隻を建造中であるが、サン・リミノ条約が破棄された場合は既存の艦を退役させずに計20隻となる予定である。剣持技術少佐の設計でナイル級軽巡洋艦用のワープ・エンジンも開発され、既に生産が始まっている。このワープ・エンジンはナイル級の戦闘力低下を極力避けるため、艦体の中に内蔵されるのではなく“外付け”となる予定である。そのため、実際に装備された場合にはナイル級軽巡洋艦の重量は現在より1000トン増え、9000トン級になる予定だ。

こうした訓練がネオ・ネプチューン宙域で行われているのは、公式には同宙域の防衛体制強化のため、ということだが、本音で言えばフリートランドにある帝国大使館の監視の目を逃れるためである。こうして同宙域に集められた多数の将兵達のため、ネオ・ネプチューン軌道上にある防衛基地と接続する入国管理・航行管制用スペース・ステーションには何隻かの客船が停泊している。その中の一つ、コンステレーション・キャッスル号は最大8,000人の客をもてなすことができるテラフォードきっての超大型豪華客船で、訓練にあたる将兵達に宿泊・休憩・娯楽施設を提供している。


そのコンステレーション・キャッスル号のラウンジで、作戦局作戦第三課(運用局運用第三課から改称)別室のウォラフソン中佐は同僚のアキノ中尉やスペース・ウィングのS級選手ダグラス・リーマンやグロリア・ソラレスらとテーブルを囲んでいた。現在スペース・ウィング・リーグはシーズンオフで、リーマンは約束通りSAKURAパイロットの訓練に立ち会ってくれている。しかもソラレスら同僚のスペース・ウィング選手9人を引き連れてだ。彼ら10人はそれぞれ手分けしてSAKURAのパイロット候補らを指導していた。


「どうかな、ウチのパイロット候補達は?」ウォラフソンが尋ねるのに、リーマンは肩をすくめた。

「1ヶ月前に見たときよりは随分進歩してるよ。まあ、ただプレッシャーがかかる状況でどこまでできるかというと、ちょっとな・・・」

歴戦のパイロット達も無言で顔を見合わせて苦笑する。そうか、ウォラフソンは溜息をついた。パイロット候補達はプロではなくてもスペース・ウィングの経験がある者や警備艦隊所属の哨戒艇乗りから選抜しているが、それでも彼らのお眼鏡にかなう人間はなかなかいないらしい。

「でも、」

思いついたようにソラレスが一人のスペース・ウィング選手の方を向いた。

「あんたんとこの、誰だっけかな、1人いい動きをしてるのいたじゃん」

問われた選手は少し頭を傾げた後、頷いた。ハルキ・タイラー選手、小柄な体に似合わずパワフルなプレーが特徴のスペース・ドッグファイトの選手だ。

「ウチの組にいたニコって奴だろ?あの子はなかなかセンスがいいな」

「なあ?対戦した感じじゃ、いいもん持ってると思うけどな。経験を積めばプロにもなれそう」

何人か、他の者達も頷く。ウォラフソンも思い出した。ニコ・スラッカ、まだ高校を出たばかりの18歳、確か高校のスペース・ウィング・クラブでの経験があると言ってたな。


「リューク、戦術航法士の方の訓練はどうだ?」

SAKURAの後部座席に搭乗する戦術航法士の訓練は元スペース・ウィング選手であり火器管制担当士官でもあるリューク・アキノ中尉が担当している。アキノは珍しく暗い顔で頭を振った。

「いやあ、何とも・・・。戦術航法士はもともと警備艦隊の火器管制担当官だった者を中心に集めていますから武器の扱いは問題ありませんが、それよりも何も、SAKURAの機動でかかるGに耐えられないんですよ。こればっかりは慣れてもらうしか」

「そうだよ、さっき俺の後ろに乗ってた兄ちゃんなんか、気付いたら気を失っててよ、何も指示がないから直進してたら危うく帰れなくなるところだったぜ」

リーマンが口を尖らせる。

「だから、アンタの操縦が荒すぎんだろ。その方向感覚のなさも何とかしな」

ソラレスが言うのに他の選手たちも笑いながらそうだ、そうだ、と声を合わせる。ちっ、俺が悪いのかよ、とリーマンはぶつくさ言っている。


「あ、それからさ、」

赤毛の長髪を後ろで束ねた飄々とした雰囲気の男が思いついたように口を開く。こちらはマリオ・バッジョ選手、レース後の優雅な曲芸飛行で人気が高い。

「あの敵役の艦隊司令官、いちいち口うるさいんだけど、何とかならないのかな」

その言葉に他の選手も頷きながら、うるせぇんだよな、あのジジイ、と異口同音に不満を言い出した。

ああ、と言ってウォラフソンも苦笑した。第一独立機動部隊司令ノーラン・B・マックスウェル少将のことだ。警備艦隊でも随一の現場経験を持つ人物だが、同時にその堅苦しさで同僚から密かに煙たがられている人物だ。リーマンら民間人が軍の訓練場に出入りしていることに批判的なだけでなく、彼らの服装や態度に対しても「軍紀が乱れる」と言ってウォラフソンに一再ならず苦情を言ってきている。

「服装とかだけじゃなくてよ、俺たちの訓練攻撃に対しても一々、そんなのおかしい、とかあり得ない、とか言ってくるんだよな。戦場で敵がこっちの思い通りに動いてくれんのかよ、って言ったらすげぇ勢いで怒鳴りだしてよ。参っちまったよ」

バッジョのぼやきにウォラフソンはまあまあ、と言って宥める。

「あの人は昔から誰に対してもそうなんだよ。俺も士官学校時代、マックスウェル教官にこってり絞られたクチだからな。まあ、俺から少将に言っておくから、君たちには今まで通り協力してもらえるとありがたい」

今やラムズフェルト大統領がいつサン・リミノ条約破棄を宣言してもおかしくないというのに、解決すべき問題は際限なく現れるようであった。

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