3.ダグラスとグロリア
「うわ、マジかよ・・・」
ウォラフソンは本部棟に入ってきた二人がヘルメットを脱ぐと驚きの声を上げた。
「リーマン選手にソラレス選手じゃないですか」
そこでアキノを振り返り、
「お二人にテスト・パイロットをお願いしたのか?」
アキノはにんまり笑って頷いた。
「ええ、ちょうど今週末のスペース・レース第11節がネオ・ルナで開催されることを思い出しましてね。それで、旧友の誼でちょいと、」
「何がちょいと、だ。こっちはマシンのセッティングで忙しいんだぞ」
引き締まった体躯に青いパイロットスーツを身にまとった優男が口を尖らせる。いかにも高級そうなネックレスを着けたスペース・ウィングの賞金王、ダグラス・リーマンである。
「まあ、いいさ。で、リューク、こちらさんは?」
「ああ、俺の上司、ヴィクター・ウォラフソン中佐だ。新型艦船設計計画の全体指揮をとっている」
「よろしく、リーマンさん、ソラレスさん。お忙しいところ、ありがとうございます」
ウォラフソンが頭を下げるのに、リーマンはカカカと笑った。
「いや、いいんですよ。俺はちょっと、政府が作るスペース・ウィング・マシンってのに興味があっただけなんで」
深紅のパイロットスーツを着たソラレスは紫と緑に染めて複雑に編み上げた髪をかき上げながら鼻で笑う。
「そうそう、アンタってほんとマシン・オタクだかんな」ソラレスも賞金王レースで僅差の2位につけている腕利きパイロットである。
「なんだよグロリア、いつも俺のケツを追い回してるくせに」
「ムッカ。それはレースの話かい?明後日のレースじゃ、アンタにアタシの美しいケツを拝せてやるよ」
賑やかな一行は本部棟の食堂に着き、大きな丸テーブルの周りに腰かけると各々飲み物を注文した。
「お二人もお忙しいでしょうから、手短に済ませましょう。それで、新型哨戒艇を操縦してみた感触はいかがです?」
ウォラフソンの問いにうーん、と言ったリーマンは長い足を延ばしそっくり返りながら後頭部の後ろで腕を組んだ。
「パワーは申し分ないね。ま、スペース・ウィング用のマシンと違って制限がないからな。インプットに対する反応もいい。しかし、」
ここで身を乗り出した。
「中佐さん、あれをどう使うつもりなんです?それによってマシンに必要な能力って変わるだろ?グロリアとちょっとドッグファイトをしてみた感じじゃ、パワーがありすぎて反応が結構ピーキーだな。多分、並みのパイロットじゃ思い通りに操縦するだけで大変だと思うぜ。ま、俺らなら余裕だけどな。まさかあれで敵の戦闘機と空戦をやるわけじゃないだろ?」
ウォラフソンは頷いた。
「そうだな。空戦というよりは、敵の艦船に近づいてミサイルを撃ち込む役目をやらせようと思ってる」
「うーん、つまり敵さんがばんばん対空砲やら対空ミサイルやらを撃ってくる中で、それを避けながらミサイルを発射するってわけだ。まあ、敵の弾幕を避けるだけなら2、3ヶ月もあれば一通りのことができるようになるかもしれんが、その上で敵艦を攻撃するって?俺ら以外にそれら全てを一人でやることなんて、できる奴がいるのかね?搭乗員はこれから養成するんだろ?」
ウォラフソンは確かに、と言って顔をしかめた。少し沈黙があった後、ウォラフソンはジェイに向き直った。
「じゃあ、パイロットとは別にミサイルの誘導と航法を担当する乗員がもう一人いたらどうかな?ダニー、SAKURAを複座にすることはできるか?」
ジェイは頷いた。
「もちろん、そんなの難しくないけど・・・」
「複座にして、後方座席に戦術航法士を置けばいろいろと戦術の幅も広がりそうだな」
ウォラフソンの言葉にリーマンは真面目な顔で頷いた。
「そうすれば、パイロットも広い宇宙で迷子にならなくてすむからな」
「あんた、結構方向音痴だもんね」
ソラレスが混ぜっかえす。
「うるせえ!俺は感性で操縦するタイプなんだよ」
リーマンがふくれっ面をして唸るのに、みんなが笑った。
明後日の準備もあるんで、とリーマン達が言うのにウォラフソンも「ご協力、ありがとうございました」と立ち上がる。すると、珍しく気後れしていたのか、ずっと無口だったジェイがおずおずと切り出した。
「あの、リーマンさん。俺、あんたのファンなんす。サインとかもらっても・・・」
破顔一笑したリーマンがジェイからペンを受け取る。
「おう、当然だろ?いい趣味してるな」
嬉しそうにジェイが作業服の背中にサインをもらっているのをみて、ソラレスは片眉を上げ口を尖らせている。何か言いたそうなソラレスに今度はアキノがいそいそと近寄って背中を差し出した。
「あのう、ソラレスさん。大ファンなんです。俺にサインを貰っても・・・」ソラレスはまるで子供のようににっこりと笑った。
「中佐、この新型艇に乗るパイロットの訓練が必要なら俺たち以上に適任はいないと思うぜ。日程が合えば、俺とグロリアでみっちり仕込んでやるよ」
去り際にリーマンが言うのにソラレスが口を尖らす。
「だから、なんでアンタがアタシの予定を勝手に決めるのさ」
「え~、だってお前、レースのない時なんかいつも暇そうじゃんか。まあ、そんなキツイ性格じゃ男も寄ってこないだろうけどよ」
やいのやいの言いながら遠ざかっていく二人を見送った後、ウォラフソンは振り返ってにんまりと笑った。
「リューク、いい友達をもってるじゃないか」




