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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第四章 急流
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2.造船計画

「どうだい?“SAKURA”の出来具合は?」

ウォラフソンは手すりにつかまって身を乗り出しているアキノ中尉とジェイ技官に向かって歩きながら尋ねた。二人の目の前では、新規開発中の哨戒艇、開発コードNGPT-008、通称SAKURAがバレル・ロールをしながら通り過ぎたところである。ここは惑星ネオ・ルナ上に設けられたテラフォード軍宇宙艦隊の造船ドック外に設けられたテストコースである。



大方の予想どおりというべきか、テラフォード議会選挙はファーレン・ラムズフェルト率いる新党「自由主義行動者党」の地滑り的大勝で終わった。「自由主義行動者党」はもとからあった「自由党」や「共和党」の離党組も吸収し、全200議席のうち過半数を大きく超えて7割を超える142議席を獲得した。既存の政党に対する国民の不信感の影響もあり、野党であった「民主党」ですら43議席まで議席を減らし、与党であった「共和党」に至っては突然党首を失ったために党としての選挙活動が出来ず、無所属として出馬した議員10名がかろうじて議席を死守したに過ぎなかった。他には岩盤支持層を持つ「人間主権党」が選挙前と同じく5議席を獲得したのみである。


投開票日翌日の地球暦4260年12月6日、新議会が招集されラムズフェルト新政権が誕生した。2日後の12月8日にはラムズフェルト新首相が施政方針演説を行い、選挙中の公約通り防衛体制の抜本的強化を表明した。しかし流石に直ちにサン・リミノ条約の破棄を表明することはなく、まず新首相が発表したのはテラフォード防衛省を「国防省」に、防衛隊を「軍」に名称変更することであった。これにともない防衛隊陸上監部は「陸軍」に、宇宙監部は「宇宙軍」に名称を変更することとなった。

こうした形式上の「公約実行」よりも、新首相の施政方針演説で更に注目を集めたのは、政治システムの議院内閣制から大統領制への変更であった。選挙期間中からラムズフェルトは「意思決定の迅速化」を実現する方策として大統領制の導入を主張していた。そのために彼は憲法改正のための国民投票を半年後、4261年6月8日に実施すると表明したのである。もちろん憲法改正後直ちに大統領を選ぶ直接選挙を行う予定とし、併せて自らの大統領選挙出馬を表明した。


その一方で、テラフォードの安全保障関係機関に対しては、世間の耳目を引く「改革」よりも重要な指示が新首相から秘密裡に下っていた。一つ目はテラフォードがサン・リミノ条約を破棄、再軍備を表明した場合に予想される帝国側の反応についての調査で、国家情報局(NIA)及び軍情報部に対し1ヶ月以内に報告書をまとめて提出するよう命令が下った。二つ目はウォラフソンら運用局運用第三課別室がまとめた軍備増強計画を直ちに実行に移すことであった。これらの指示により、政府の安全保障関係者達はサン・リミノ条約の破棄と再軍備が既に新政権の中で既定路線であることを思い知らされたのである。



新政権発足にともなうゴタゴタが続くなか、軍備増強計画の中心を担うウォラフソンらは新戦術の中核となる「空母」及び「哨戒艇」(後に「攻撃機」と区分変更される)の試作にまで漕ぎつけていた。

昨年末に破産した民間大手宇宙船運航会社パシフィック・スターラインズを国有化したことで、宇宙軍はタンカー等多数の貨物船と1万人を超える船員を志願予備員(VR)として手に入れることができた。もちろん、国有化や軍務を嫌って他の宇宙船運航会社や職業への再就職を希望する者も多かったが、過当競争等が原因で運輸不況に陥る状況下ではそれも難しかったのである。志願予備員達は過去の経験や肩書に応じて志願予備士官(VRO)の階級を与えられ、既に宇宙艦隊各艦への配備が始まっている。

「空母」については、パシフィックが保有していた50隻の5万トン級コンテナ船の改造により建造が進められている。コードネームは新型「輸送艦」を示すNGTR-011、通称“MANTA”で、これはサン・リミノ条約下では輸送艦を「軍艦」として登録する必要がない点を利用するものである。

“MANTA”計画は小型艇の発射装置カタパルトや武装、スラスター等をそれぞれモジュール化し、各船で異なる規格や形状に合わせてモジュールを組み合わせる形をとっている。こうしておけば、一つ一つの船に合わせて改造を一から設計しなくてすむし、任務に合わせたモジュールを選ぶことにより同じ船を空母にも強襲揚陸艦にも使い回すことが可能、という判断による。これも短期間に戦力を整えるための工夫であった。現在、隣のドックで剣持とホフマンがMANTA第1号艦の最終艤装を監督しているはずだ。C&C機能の設計については、オニール技術本部宇宙部部長がナナビシ重工とエアロ・スペース社の技術者からなる20数人のチームを作って設計を進めているが、こちらはやはり難航しているようだ。



ウォラフソンの言葉にアキノが振り返り、身を起こした。

「今のところ順調のようです。もうすぐテストが終了するのでテスト・パイロットから直接意見を聞こうと思うのですが、補佐も同席されませんか?」

ウォラフソンはもちろん、と頷いたが、ふと疑問に思って尋ねた。

「そういえば、結局テスト・パイロットは誰にお願いしたんだ?」

確か昨日までアキノとジェイはテスト・パイロットがまだ決まらない、と言っていたはずだ。適当な人間がいなければ、アキノ自身が搭乗するか、という話だったはずだが。

アキノはにっこり笑ってウィンクをした。

「きっとびっくりしますよ。あ、ほら、帰ってきた」

3人がいる造船ドック本部棟の前にSAKURA1号機、2号機が相次いで着陸し、ハッチが開くと派手なパイロットスーツを着た男女が降りてきた。

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