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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第三章 時代はまわる
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10.政治の季節

地球暦4260年11月14日、アンナ・ハーコート首相は「テラフォード防衛体制の見直しについて」と題する記者会見を開き、過去3週間で防衛隊統合本部に取り纏めを指示した当面の防衛体制強化策を発表した。

対策の第一は、帝国との国境最前線にあたるネオ・ネプチューン宙域における防備の充実である。具体的にはネオ・ネプチューン軌道上にある入国管理・航行管制用スペース・ステーションを拡充し、ミサイル発射筒40基及び荷電粒子砲10門を配備した上、C&C機能を持たせて前線基地・防衛司令部とする。更にネオ・ネプチューン地表にミサイル備蓄用保管庫や燃料精製プラント等を備えた施設を設置し、ネオ・ネプチューン防衛司令部のバックアップ基地とする。

第二は警備艦隊の再編で、現在第一管区、第二管区及び艦隊本部に分散配備されている警備艦隊中最大(8,000トン)の艦艇である旗艦級警備艦12隻を集中運用するため新たに独立機動部隊を創設し、ネオ・ネプチューン防衛司令部の指揮下に置く。減少した艦船で従来の警備業務にあたらざるを得なくなる各警備隊の負担を軽減するため、辺境地区の哨戒にあたってきた第三管区を廃止、惑星クリシュナを担当する第二管区と統合する。

第三に首都星フリートランドについては、ネオ・ネプチューンの防衛司令部と同様の軍事施設を軌道上に設置し、陸上警備隊と協力しつつ防衛体制を強化する。

最後に、防衛体制強化と防衛隊人員の増員のため、防衛予算を大幅増額する。


「以上については、防衛省及び防衛隊本部に対し直ちに作業にかかるよう指示し、既に着手しています。私からは以上です」

その言葉も終わらぬうちに、ハーコートの正面中央に座っていた若い女性記者が指名も受けぬうちに勢いよく立ち上がった。ひときわ目立つ派手な美貌に胸の部分が大きく開いた赤いドレス、まるで記者会見には似つかわしくない出で立ちだ。

「サンライズ・ブロードキャスティングのジーナ・フルブライトと申します」

ああ、とハーコートは名前を聞いて思い出した。確か、「ラムズフェルト・ショー」でラムズフェルトと一緒にMCを務めているアナウンサーだ。

「まずハーコート首相、帝国の脅しに屈して民主主義の誇りを譲り渡したご自身の責任についてお考えをお聞かせください」芝居がかった口調もその内容も、ラムズフェルトそのものだ。フルブライト記者は気取った身振りで美しいブロンドの髪をかきあげる。

「次に、こんな付け焼刃の弥縫策で本当にこの国を、民主主義を守れると思ってるんですか?もっと、根本的な対策が必要なのではないでしょうか。例えばファーレン・ラムズフェルトという方は、早急にサン・リミノ条約改定交渉を帝国と行い、それが受け入れられない場合は再軍備も視野にいれるべき、とおっしゃってますが、そのご意見について首相の考えをお聞かせください。ラムズフェルト氏はまた、」これじゃまるで、番組の宣伝じゃないか・・・他の記者たちも顔をしかめて囁き合っている。

ハーコートは手を振ってフルブライト記者を黙らせた。フルブライトは不満そうにしぶしぶ着席する。

「まずあなたの最初の質問に対する回答は後にするとして、防衛体制の強化についてお話ししましょう。あなたは『付け焼刃』『弥縫策』などとおっしゃいますが、防衛省・防衛隊の諸君が必死に頭を絞って考えてくれたものです。ご承知のとおり、全てサン・リミノ条約の枠内で出来る限りの対策を盛り込みました。それで誰でしたっけ、ラムズフェルド氏?」

ラムズフェルト、です!記者が顔を赤くして憤然と抗議するのに皮肉めいた笑みを浮かべると、ハーコートは続ける。

「失礼、その方はサン・リミノ条約を改定するとおっしゃってるんですね?では、その方法は?国力で圧倒する帝国がテラフォードに譲歩しなければならない、その理由は?」

ですから、とフルブライトは座ったまま答える。「ファーレンは、あ、ラムズフェルト氏は交渉決裂の場合は条約を破棄して再軍備を考えるべき、と言ってるじゃないですか」

へぇ~、というふうにハーコートは片方の眉を上げてフルブライトを見据える。

「では再軍備にとりかかるとして、帝国の再侵攻を防ぐのに十分な軍備を揃えるのにどれだけの時間が必要だとお考えです?その間に帝国軍がやって来たら、どう対処するのですか?その場合、もうサン・リミノ条約を盾に退去を求めることはできませんよ?」

「ここは、記者会見の場です!記者が質問する場であって、首相が記者に質問する場ではありません!」

「ここはあなたがご自身の、いやラムズフェルト氏の主張を宣伝する場でもありませんよ?」ハーコートの冷静な声にフルブライトは顔を真っ赤にして黙り込んだ。

「よろしいですか?」

別の中年記者が手を挙げている。

「どうぞ」

「先程、首相は予算の増額について話されました。しかし首相の支持率は既に12%、議会で連立与党の自由党の協力が得られるかも微妙な情勢です。その辺はどうお考えになっていますか?」

ハーコートは深く頷き姿勢を正す。

「先程お話しした緊急の対策については、政府の準備金を取り崩すことで処置する予定です。ですが、来年度以降も継続的に防衛体制を強化していくためには議会の、国民の皆様のご理解とご支持が必要です」

「では・・・?」

「内閣は総辞職し、議会を解散して国民の皆様に信を問います」

わっ、と記者たちが総立ちになり、我先に会見場から駆け出していく。一瞬、ポカンとしたフルブライト記者も慌てて後を追う。赤いハイヒールが脱げ、汚い言葉で罵りながらそれを拾うと豊満な尻を揺らしながら会見場から走り去っていった。後には政府職員と閣僚、与党幹部達が呆然としたまま突っ立っている。

会見場の演台でトン、トンと静かに書類を整理したハーコートは、立ち去ろうとして会見場の一番後ろの椅子に一人だけ記者が残っているのに気付いた。小柄で眼鏡をかけた地味な若い女性だ。

「あなたは?まだ何か質問?」

「サガーラ新聞のリン・シュファです」地方紙だ。

もじもじしながらリンはためらいがちに続ける。

「あの、その、最初の質問に対する首相の答えをまだ聞けてないな、って思いまして。あ、すみません・・・」最後は消え入りそうな声だ。

ハーコートは微笑んだ。

「ああ、私の責任、ってやつね。私、今日で政界を引退するわ」

再び腰を抜かした与党幹部らとリン記者を残して、ハーコートは颯爽と記者会見場を出て行った。

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