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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第三章 時代はまわる
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7.技術本部宇宙部

3人は中庭をわたってかまぼこ型の建物に歩いていった。建物に着くと、脇に「技術本部」と表札のかかった古ぼけたドアがある。見回してみても、ここにもIDカード認証器のようなものはない。意を決してウォラフソンがドアを開けると、そこはいきなりぶち抜きの大きな倉庫のようになっていって、あちこちに様々な模型や工具、資材等が雑然と置かれている。奥では数人の人影が行き来しているのがみえる。

左をみるとパソコンが並んだひとかたまりの机があり、そこに3人の人物が座っていた。真ん中の机に長い足を乗せて何かの雑誌のようなものを読んでいた男がこちらに気付いて「よお、来たな」と手を振っている。奥に座ってしかめ面でパソコンを睨んでいた初老の男が顔を上げ、こちらに背を向けて何か作業をしていたらしい若い小柄な男も座ったまま振り返る。

ウォラフソンらが近寄っていくと、先程手を挙げた男が立ち上がった。「ヴィック、待っていたよ」長身でひょろっとした馬面の男はウォラフソンに手を差し伸べた。ウォラフソンは差し出された手をがっちり掴むと、ホフマンとアキノに彼を紹介した。

「こちらは剣持明人技術少佐、俺の士官学校の同期だ。こちらはホフマン少佐とアキノ中尉、今度できた別室で一緒に仕事をすることになっている」

剣持はもともとテラフォード大学工学部の学生だったが、軍艦の設計をやりたくて途中から防衛隊士官学校宇宙学部機関課の技術研究専攻クラスに転籍してきた男である。同じく宇宙学部でも航宙課から指揮・管理専攻コースに進んだウォラフソンとは授業で顔を合わせたことは殆どない。しかし戦史マニアのウォラフソンとエンジン・オタクであった剣持はお互い本の虫で、学校の図書館で良く顔を合わせるうちに意気投合したのであった。士官学校卒業後任官したウォラフソンに対して、剣持はその後士官学校大学院でエンジンの研究を続けることになりいつしか疎遠になってしまっていた。二人が顔を合わせるのは実に7年ぶりである。剣持もウォラフソンらに他の2人を紹介する。

「あちらはショーン・オニール技術大佐。技術本部宇宙部部長兼主任研究員だ。軍艦の兵器と制御系が専門だ」

小柄だががっしりした体格のオニールは座ったまま、軽く頷いた。

「そしてこちらは、ダニー・ジェイ技官」

ジェイは立ち上がり、両手をズボンで拭くと3人に握手した。小柄で丸顔、褐色の肌に栗色の縮れた髪で人懐っこそうな笑みを浮かべている。剣持が付け加える。

「ジェイは去年工業高校を出たばかりだけど、腕を見込んでおやっさん、オニール大佐がスカウトしたんだ。船体設計を担当してる」

するとジェイが目を輝かせた。

「ねえ、中佐。戦艦を作るんでしょ。俺に設計させてくださいよ」

返答に窮してウォラフソンが思わず苦笑すると、奥から野太い怒声がとんだ。

「余計なことを言ってるんじゃねぇ、ダニー。まずは今やってる油槽船のをさっさとすましちまえ!」

うへぇ、と口を尖らせると、ジェイはしぶしぶまた机に向かった。

ウォラフソンはきょろきょろと辺りを見回すと、剣持に聞いた。

「他の方々は?」

剣持は噴き出した。

「いや、宇宙部はこれで全部だよ」

「3人?」

剣持は笑いながら頷く。

「まあ、君が知らないのも無理はないな。ここ技術本部は防衛隊から武器や装備に関する要望を聞きとっておおまかな設計と仕様書をまとめるのが仕事さ。その後、細部の設計はアウトソーシング、つまり外部の軍需関連企業、ナナビシ重工やエアロ・スペースなんかの技術者に依頼する。それが出来上がるとまたこちらで設計書のチェックや試作品のテストを行う。だからこの人数で十分なんだ。だいたい、」剣持は肩をすくめる。

「警備艦隊の新型艦船設計なんてめったにないしな」


アキノは物珍しそうにうろうろしながら壁に貼られた図面や、置かれた模型を眺めている。と、ジェイの机の傍を通った拍子に机から一枚の紙が落ちた。

「おっとごめん」と言いながら拾ったアキノだったが、「ん?これは?」と顔を近づける。気付いたジェイが「あ、やべぇ」と言いながら慌てて手を伸ばすが、アキノは頓着せずに大きな声を上げる。「これって、スペース・ウィング用のマシンだよな?」

しーっ、とジェイは慌てて口に人差し指をあてるが、時既に遅し、再びオニール大佐の怒声が響いた。「またてめぇ、遊んでやがったな!」ジェイが首をすくめる。

そんなジェイの焦りにまったく構うことなく、アキノは嬉しそうに言った。

「俺さ、士官学校でスペース・ウィング・クラブに所属してたんだよ。レースの選手だったんだ。インカレでは結構いいところまでいったんだぜ」

といいながら紙を矯めつ眇めつしている。

「こんなかっけぇマシンはみたことがないな。君がデザインしたのかい?」

褒められて嬉しくなったのか、怒られたことも忘れてジェイはにんまりする。

「そうなんすよ。俺、リーマン選手のファンでね。いつか、俺のデザインしたマシンに乗ってもらうのが夢なんすよ」

「ダグラス・リーマンか。あいつ俺と同学年で、インカレの時はバチバチやりあったもんだけど、あっという間にトップ・エースになっちまったなぁ。今じゃ、俺の数百倍の給料を貰ってるよ」

楽しそうに話す2人の横から顔を出したウォラフソンは「どれどれ」といってジェイ手書きの設計図を受け取った。細長い流線形をしたその宇宙船は長さ22mくらいか。後ろは推力偏向ノズルを備えた双発エンジンとなっている。上から見た図は両端に三角形の翼のようなものが付き、まるで戦闘機だ。

「この翼は・・・?なんのためなんだい?」

ウォラフソンが尋ねるとジェイは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「いや、センサーを設置している以外に特に意味ないんすけどね。かっこいいかなぁ、と思って。まあ飾りっすよ」


スペース・ウィングとは50年以上の歴史をもつ一人乗り用の小型宇宙船を使ったスポーツで、地上の自動車レース、あるいは飛行機によるエア・レースを宇宙に移植したスペース・レースが始まりである。フリートランドの低軌道上あるいはネオ・ルナ上に設けられた障害コースの中で、タイム・アタックあるいは1対1の対戦を繰り返して最も早くコースを走り抜けることを目指す競技である。低宇宙軌道及び惑星ネオ・ルナ表面の民間への開放に加え、個人所有用の宇宙船の価格が低下するに伴い小型宇宙船を活用した娯楽として発展してきた。

初めはスペース・レースだけだったが、そこから発展した競技としてここ20年で人気が出てきたのは「スペース・ドッグファイト」というゲームである。やはり限定された空間の中で、1対1あるいはチームを組んだスペース・シップが模擬空戦を行い勝敗を決めるというものである。どちらの競技も人並み優れた操縦技術と反射神経が要求されるのはいうまでもない。

スペース・ウィングの選手は下は高校のクラブから上はプロまで、登録数で数十万人いるといわれるが、数百人しかいないプロ選手、その中でも最高峰のS級リーグの選手は年間数十億クレジットを稼ぐといわれるほどの人気競技である。ダグラス・リーマンはレース、ドッグファイトどちらの競技でも常に年間ランキングの上位を占める、テラフォードでは屈指の人気を誇るスペース・ウィング選手である。


贔屓のスペース・ウィング選手について3人が話に花を咲かせていると、カツカツカツ、と背後で足音が聞こえた。ウォラフソンが振り返ると、陸上警備隊将校の制服に身を包み、精悍な顔と体つきをした男がカチッとブーツの踵を会わせて敬礼した。

「お忙しいところ、失礼します」

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