6.運用第三課別室
二日後、ウォラフソンは首都フリートランドから約60km東にある防衛隊の施設に向けて車を走らせていた。しばらく荒涼とした砂漠地帯を走ると、突如高い塀に守られた施設が現れた。施設の向こう側には小規模ながら宇宙船発射台のある飛行場と装甲車が数台並んでいるのがみえる。施設の門の前に守衛所があり、その脇にも装甲車が1台止まっている。門には「防衛隊装備調達局技術本部」という表札がかかっている。
「防衛隊」とはテラフォードにおける軍の正式名称で、その統合本部の下にいわゆる陸軍にあたる陸上監部、宇宙軍にあたる宇宙監部が置かれている。警備艦隊はその宇宙監部の一部だ。両監部の調整と統合作戦を指揮する参謀機能を担うのが統合総監部、そのヘッドが防衛隊本部統合議長、すなわちテラフォードにおける軍の実戦部隊のトップだ。
陸上・宇宙監部から独立し、統合本部に直属する組織として装備調達局が置かれている。防衛隊の装備の調達を行う組織で、第一課が陸上監部用、第二課が宇宙監部用装備の調達を担当している。そして装備調達局に属するもう一つの組織が技術本部だ。技術本部は防衛隊の陸上及び宇宙部隊が使用する新兵器、装備の開発を担当している。
それにしても、装備調達局の他の課を含め防衛隊の関係施設は全て首都フリートランドかその近郊にあるのに、技術本部だけが首都からこんなに離れた場所にあるのはまず第一にセキュリティ上の理由、新兵器開発が極秘なのは当然だが、それからだけでなく、試作品のテストを行う都合上でもあるらしい。周りが砂漠地帯なのも不審者の接近を監視しやすいという利点があるとはいえ、
(うへぇ、こんなところで働くのか・・・)
ウォラフソンはもうげんなりしている。新たに設置された運用第三課別室は任務の性質上、帝国をむやみに刺激したり、国内政治の介入を受けたりすることのないよう、その存在と任務はごく一部の防衛隊幹部しか知らない極秘の存在、ということになっている。また、ネオ・ネプチューン事件の戦訓に沿った新たな装備を検討する必要があることから、技術本部敷地内に別室を設置するという判断が頗る合理的なものだというのは分かっているのだが。しかしそこはウォラフソンが想像していたよりもずっと辺鄙なところだった。施設を取り囲む高い塀といい、その塀の上に数多く設置された監視用レーダーといい、そう、まさにそれは(まるで刑務所じゃないか・・・)
守衛に散々ヒューイを調べられた後、車を降りて徒歩で中に入るよう言われて釈然としないウォラフソンだったが、ゲートをくぐって中に入るとすぐに合点がいった。中の敷地は思ったよりもずっと狭く、まるで都心部の小学校か中学校ぐらいしかない。正面は中庭になっており、小さな噴水と木陰には数台のベンチが置いてある。左手にはまるで体育館のようなかまぼこ型の建物があり、それが技術本部らしい。その奥は食堂と職員宿舎だろうか、古ぼけた建物がある。中庭を挟んで右手には、大きめのコンテナのような建物がみえた。明らかにごく最近設置されたものだ。
(まさかな)しかし悪い予感に導かれてウォラフソンが近寄っていくと、案の定入口のドアの脇に「警備艦隊運用局運用第三課別室」という札がかかっていた。ドアにはIDカード認証用の機器さえ付いていない。再びがっくりとしながらドアを開けると、誰もいないと思われた部屋の中で意外な2人の人物が待っていた。
「ブラッドにリュークじゃないか!どうしてここに?」
ホフマンとアキノがにやにや笑いながら立ち上がった。
ウォラフソンはランページ号から降りるにあたり、ホフマン大尉を少佐に昇任させ後任艦長にあてるよう強く推薦していた。今頃、二人ともランページ号に乗って新たな警備任務に出発しているはずだ。
ホフマンが頭を掻きながら、ぼそぼそしゃべりだす。
「艦長に、いや中佐に昇進を推薦していただいたのは本当にありがたかったんですけど。ただ俺、一度自分の会社を潰してまして、人の上に立つの柄じゃないな、って思ってたんですよ。それで、総務局長にそう言ったら、新しい部署を作るからそっちでどうだ?って言われましてね。聞いたら、ネオ・ネプチューン事件の総括をする場所だっていうじゃないですか。それなら俺でも何かの役に立つんじゃないか、と思いましてね」
ウォラフソンはそうか、と言って頷いた。
「いや、君が来てくれるなら本当にありがたいよ。君の操艦技術は新しい戦術を考える上で参考になる」
そう言いながら脇のアキノを睨む。(言ってたのと違うじゃないか・・・)アキノはそっぽを向いて知らぬ振りをしている。
「で、お前は何で来たんだ?」
自分の話は済んだとばかり、ホフマンは元気になってアキノに話を振る。アキノは肩をすくめた。
「いや、そりゃ・・・なんか、面白そうな部署ができるっていうから・・・。じゃあ、俺も加わらせて貰おうと思って。俺だってネオ・ネプチューン事件の当事者だったんだし」
「お前、あの時何かしたか?」
ホフマンが意地悪な質問をするのにアキノは口を尖らす。
「え~?ん~」しかし何も思いつかなかったようだ。諦めて肩をすくめる。
「そう、それですよ。まともなROEもない組織の火器担当士官、それってなんの存在価値があるのかっ、てことですよ。これからもろくでもないごろつき相手の10万km先に絶対当たらないミサイルを撃ち続けるのか、って思うとね」
そりゃそうだ、とむくれ顔のアキノをみてひとしきり笑ったあと、ウォラフソンはふと気付いて二人に尋ねる。
「俺が聞いた限りでは、別室は5人体制、ってことだったんだが。あと2人、特に室長だ。誰が室長になるのか、君たちは聞いたか?」
ホフマンは首を振る。
「いや、なんせここは極秘の組織だってことで、中佐がいること以外は他のメンバーについて誰のことも教えてくれなかったですね。リュークだってさっきここで顔を合わせたばかりですし」
「そうか・・・。まあ、そのうち来るだろ」
ウォラフソンは少し頭を捻ったが、気を取り直して言った。
「ところで、そこの技術本部に俺の同期がいるんだ。これからいろいろ一緒に仕事をしなくちゃならんし、まずはそっちに顔を出しておこうか」
ヒューイにはここで待機するよう命じた後、3人はドアを出た。




