5.真相(2)
「ダスティン、警備艦隊が持っている帝国軍の戦列艦データのどこを探しても、今回の戦列艦に該当するものは見当たらなかったんですよ」
なに、とスレイドはウォラフソンの顔をみつめた。
「旗艦ヴァリアント号がレーザー砲で船体射撃を実施したんだったな。その結果は?」
「敵の外鋼板で弾かれて・・・・」
そこまで言って二人は同時に頷いた。「オクシタンの新型艦!」
もう完成していたのか・・・と呟いて、ウォラフソンはなるほど、と全て合点がいった気がした。難民の送還だけが目的であれば、初めからテラフォード宙域に直接戦列艦1,000隻を引き連れてくれば事はもっと簡単に済んだはずだ。しかし件の帝国艦は単独でやってきた。それは新型艦の性能を試したかったからだ。そして我々はまんまとそれに付き合わされた訳だ。帝国艦の華麗なバレル・ロールを思い出して、ウォラフソンは思わず苦い顔になった。
スレイドをみると、しかしまだ何か腑に落ちないのか、考え込んでいる。
「まだ何か気になっているんですか?」
そう問いかけるウォラフソンの顔を見つめ返しながら、しかしスレイドの目はどこか焦点が合っていない。
「彼らが、オーベルニュ伯が、極秘にプロトフェリジウム鋼板を使った新型戦列艦を開発し、その性能を確認したかった、というのが今回の脱帝とネオ・ネプチューン事件の背景にあったというのは分かった。しかし問題は、オクシタンの連中が何故その新型艦を作っているのか、ということだ。何故彼らはそれを極秘にしている?その秘密を誰から守りたかったんだ?そしてそれを誰に対して使うつもりだ?少なくとも、」そう言って夢から覚めたようにウォラフソンの目を覗き込んだ。
「君には悪いが、少なくとも我がテラフォード艦隊に対して使うために新型戦列艦を作ったわけではない」
ウォラフソンは不承不承、頷いた。
気づくとスポーツ・ニュースはとっくに終わり、テレビの中では最近世間の注目を集めているラムズフェルトという男が大げさに手ぶり身振りを交えながら視聴者に何かを訴えかけている。
「最近、こいつの姿をあちこちでみかけるようになりましたね」
ウォラフソンの言葉にスレイドは苦虫を噛み潰す。
「ああ、政府は弱腰だとか、防衛隊には危機感が足りないとか、サン・リミノ条約を見直すべきだとか好き勝手言ってるよ。そのくせ、どう実現するかについて奴の口から聞いたことはない。責任のない連中は気楽だな」
スレイドの言葉に、ウォラフソンは自分の目的の一つをようやく思い出した。
「実はダスティン、」
テレビに悪態をついていたスレイドが、ん?と振り返った。
「俺、昨日異動の内示を受けまして」
え、この前艦長になったばかりじゃないか、と驚くスレイドに苦笑して、
「新たに警備艦隊運用局運用第三課別室、というのを作ることになったんですよ。俺はそこの室長補佐ということになるそうです」
宇宙警備艦隊司令部のスタッフ組織として、いわゆる参謀業務をこなす運用局が設置されている。運用局の下には運用第一課から第三課までがあり、第一課は第一警備管区所属の警備隊、艦船及び人員の運用計画、第二課は第二・第三警備管区の運用計画を立案することが任務である。第三課には警備艦隊本部及び教育隊の運用が任されているが、その「別室」とは何だ?
スレイドの質問に、いや俺もこれから何をするか詳しく聞いてないんですけどね、と頭を掻きながらウォラフソンは答えた。
「昨日宇宙総監室に呼び出されて総監から直々に言われたのは、今回のネオ・ネプチューン事件の教訓を整理し、新たな交戦規則(ROE)と戦術教範、そしてその実行に必要な装備計画を検討せよ、とのことでした」
「そうか、確かに実戦を経験した君以外にその任務にあたる適任者はいないだろうな」
とスレイドは頷いて呟いた。「政府もただ手をこまねいているだけではない、ということをこういう連中も分かってくれればいいのだがな」
さて、帰るぞ、とウォラフソンの声にヒューイは立ち上がった。少し興味をそそられて、ウォラフソンは聞いた。
「どうだ、チェスの結果は?」
するとヒューイは驚くべき答えを返した。
「新たに37敗目、38敗目という記録が加わりました」
予想外の言葉にウォラフソンが固まっていると、ファムのかわりにスレイドがにんまりと笑った。
「な?うちのファムは、天才なんだよ」
すでにすっかり親父の顔である。




