4.真相(1)
ネオ・ネプチューン事件から2週間たった休日の午後、ウォラフソンは首都フリートランド郊外の政府関係者の住宅が立ち並ぶ一画にある家のベルを鳴らしていた。いつものようにヒューイも同行している。よく手入れが行き届いた庭ではカエデやドウダンツツジが美しく色づいていた。
ロックが解除される音がして、ガチャとドアを開けた人物をみてウォラフソンは思わず目を剥いた。
「ファムじゃないか!どうして君がここに?」
ファムはにっこり笑ってお辞儀すると、ウォラフソンを中に通した。そして後に続いてきたヒューイをみると嬉しそうに目を輝かせた。
居間のソファに座っていたスレイドが「やあ、よく来たね」と手を挙げている。スレイドの妻のエマもキッチンから顔だけをのぞかせ、「いらっしゃい」とほほ笑んだ。
「いや、驚きましたよ。まさかファムがいるなんて」
ウォラフソンがファムの背に手をまわしながらいうと、スレイドはにっこり笑って頷いた。
「上に掛け合って、俺の家で預かることにしたんだ。だからファムを警備隊の病院から出したあの後、直接ここに連れて来たんだ。ファムのことを知る人間は最小限にしたかったしな。ここなら警備体制も心配ないし、」といってスレイドは手を振った。「ウチは嫁と二人きりで、この家は無駄に広すぎるしな」
それだけじゃないぞ、と言ってスレイドはにやりと笑った。
「先週からはファム・レ・スレイドになった。以後よろしく」
ウォラフソンはのけぞった。「つまり、ファムを養子に?」
うん、と言ったスレイドの顔は、だが急に険しくなった。「テラフォード市民の子供となれば、政府の気が変わっても簡単に人身御供にはできんだろう?」
ファムの体が強張るのを腕に感じ、ウォラフソンはうなだれた。
「すみません、我々の力不足で。彼らには本当に可哀そうなことをしました」
スレイドは体の前で大きく横に手を振った。
「君が謝るべき事じゃないだろう?私も含めた政府全体が、いやテラフォード国民全てが責任を負うべきことだ」
ダイニングでエマの心尽くしのディナーを堪能した後、スレイドとウォラフソンは居間に移りブラントンのロックで乾杯した。隣のダイニングではファムとヒューイが三次元チェスを始めており、エマが微笑みながら二人の対戦を見つめている。ミュートにしたテレビは今日のスペースフットボール・リーグの結果をダイジェストで放映している。スレイドに促されるままに、ウォラフソンはネオ・ネプチューン事件の顛末を語り始めたところだ。
「何だって?帝国の司令官は・・・・ラ・ファイエット准将と名乗ったのか?」
思わず声が高くなったスレイドにエマが目で窘める。だがファムとヒューイはゲームに夢中で気付かなかったようだ。ごめん、ごめんとスレイドはエマに軽く手を振ってウォラフソンに先を促す。
「相手の見た目は?」
「うーん、長身で黒髪、歳は私と同じぐらいですかね。童顔ですけど、何というか、貴族の威厳とでもいうんですかね、とても落ち着いた感じでした」
スレイドがうーんと頷いて腕組みをするのに、ウォラフソンは尋ねた。
「ダスティンは彼を知ってるんですね?」
うん、と言ってスレイドは話し始めた。
「ラ・ファイエット准将はオーベルニュ外務卿の右腕といわれる人物だ。年齢は29歳、君と同じだな。今はたしか、オクシタン軍幕僚本部長という肩書を持っているはずだ」
「幕僚本部長ですって?」一瞬高くなった声にエマから二度目の警告を受けて、ウォラフソンは声をひそめた。
「そんな人が何故わざわざ前線に?」
やや間があって、スレイドは自分の考えを確かめるようにゆっくりと話し出した。
「もともと、帝国が脱帝問題に大した関心を持っていたとは思えない。過去に帝国からテラフォードに亡命をしてきた事例はいくつもあった。しかしそのどの事例をとっても、帝国側がサン・リミノ条約を破棄することも厭わない姿勢を示してまで亡命者の返還を求めたことはなかった」ウォラフソンが頷くのをみてスレイドは続けた。
「なのに何故、今回はこんなにも強硬に難民の送還を求めるのか、というのが前から気になっていたんだ。考えられるのは、今回の難民達が他の事例とは違った重要性をもっている、ということだ。わざわざラ・ファイエットが出張ってきたことからも、その可能性は高い」
それは?とウォラフソンが問うのにスレイドは頷いて続けた。
「彼らが難民になったそもそもの原因を思い出してみろ。ナージュとシャハリヴァル、二つの村が消滅させられた理由だ」
「プロトフェリジウムか」
そう、と頷いてスレイドは言った。
「どちらもオーベルニュ外務卿の領国で起きた事件だ。そして彼らはその秘密を知るものを全て抹殺する必要があった・・・」
ウォラフソンが思わずファムを盗み見たのに気付いてスレイドは頭を振った。
「いや、彼らが求めたのは難民『16人』の送還だ。ファムは入っていない」
ウォラフソンがはっ、と顔を上げた。
「そういえば・・・」




