3.秘密
「なに?脱走者共が行方不明になっただと?」
机で頬杖をついたまま、オーベルニュは眉をひそめた。RX-02の試験航海の結果について詳細を報告していたラ・ファイエットも驚いて報せを持ってきた秘書官を振り返った。
「はい。報告によると、脱走者16名を乗せた軍の輸送船がコルレンツ星系にて遭難した由にございます」
テラフォードから追放された脱帝者達はアブロリモーゼでテラフォード政府専用船から帝国軍の小型輸送船に引き渡され、そこからオクシタンに向かっているはずであった。
「遭難?」
「はい。コルレンツ星系の航路管制ステーションの報告によれば、当該輸送船はワープ直後にエンジン・トラブルが発生、航路を外れて小惑星帯に突入、爆散したとのことでございます」
「確認したのか?」
「はい、輸送船からの緊急連絡を受けコルレンツ警備艦隊が現場に急行しましたが、残念ながら既に当該輸送船は遭難した後だったとのことでございます。現場に残っていたのは輸送船の残骸、というか艦橋部分のみだったようですが、幸いAIS(自動船舶識別装置)は回収できたようで、その解析から当該輸送船に間違いないとのことでした。また、艦橋内で複数の遺体が発見され、当該船の艦長及びオペレーターのものと特定できました」
「ふうむ」
オーベルニュは手の甲に顎を乗せ、みるともなしに秘書官を見つめる。秘書官は黙って主人の次の言葉を待っている。
「難民共の遺体は見つかったのか?」
「いえ、なにしろ船室部分の損傷が最も大きく、細かな破片以外は何も残っていなかった、との報告でございます。」
考え込む様子のオーベルニュにラ・ファイエットは頭を下げた。
「閣下、申し訳ありません。私の手落ちです。彼らをRX-02に乗せて連れ帰ってきていれば・・・」
ラ・ファイエットの言葉にオーベルニュは手を振った。
「いや、一刻も早くRX-02の試験結果を知りたいと急かしたのは私だ。それに彼らをRX-02に乗せていれば、それこそ全員を処刑する以外になかっただろう?」
「・・・・・・閣下、私の方でもう少し詳しく調査いたしましょうか」
オーベルニュは再び手を振った。
「いや、それには及ばん。脱走者どもがそれほど何かを知っているとも思えん。レオは次の計画の準備にとりかかってくれ」
垂直梯子を降りてくる足音に気づくと、死んだように静まり返った船室で床にうずくまっていた者達は怯えたように肩を寄せ合った。奥の方ではゴホゴホと咳き込む声が続いている。
梯子を降りてきた男はきょろきょろと辺りを見回した後、乳飲み子を抱えた女を見つけると近寄っていく。女は更に怯えて、隣の老人の肩に顔を埋めた。
「ほらよ、ミルクだ。欲しがってただろ?」
船員服の男はミルク瓶を女に差し出した。女は少し躊躇った後、恐る恐る瓶を受け取る。それをみていた別の男がにじり寄ってきて、早口で何かまくし立て始めた。船室の隅の方にいた者達も顔を上げてこちらをみている。
「ちょっと、待て待て」
船員服の男はごそごそとポケットを探っていたが、何やら小型のラジオのようなものをひっぱりだすと、イヤホンを耳に差し込んで言った。
「えーっと、何だって?」
先程の男が言葉を繰り返す。
「うん、ああ、分かった、分かった」
まだ話し続けようとする男を手で制し、船員服の男は言った。
「お前たちは、またリベラシオンⅡ号の客になったってことだ。まあ、何でこうなったか俺は知らんがな。・・・で、どこに行くのかって?うーん、まあ、あれだ、帝国領じゃないのは確かだ。そんでテラフォードよりはましなところだ。多分な」
男の言葉を機械が翻訳すると、再び船室に沈黙が広がった。船員服の男はちらっと先程の女をみやったが、女は子供を隠すように抱えたまま光る眼で男を睨んでいる。男は肩をすくめて溜息をつくと、また垂直梯子を昇っていった。




