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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第三章 時代はまわる
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1.非情

ネオ・ネプチューン沖での帝国艦と第20警備隊の衝突が伝えられた10月21日、テラフォード共和国首都フリートランドは蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。帝国軍軍艦が違法に共和国領域に侵入したというそのことだけでなく、政府が圧力に屈して脱帝者16名の強制送還を受け入れたことが明らかになったからである。

政府としては騒ぎが大きくなる前に内密に、すばやく送還を実行したかったのだろうが、おそらく難民達に同情し政府の方針に憤慨した移民局、あるいは病院関係者の誰かがリークしたのだろう、難民達が収容されていた臨時宿泊施設や病院にマスコミやデモ隊が大挙おしかけ、警官隊ともみ合いになった。

テレビの前で政府職員が難民を施設や病院から無理やり引きずり出し、護送車に押し込もうとしている。父親や母親とみられる難民達が泣き叫ぶ子供を必死に差し出し「この子だけでも、この子だけでも助けてください!お願いします、お願いします!」と集まった群衆に手渡そうとする。しかし手を伸ばした群衆を警官達が押し止め、政府職員が子供ごとその親たちを車に押し込む。

首相官邸前では民主脱帝者評議会を中心とする数万人のデモ隊がシュプレヒコールを挙げ、一部は官邸に突入しようとして警官隊が催涙弾を発射する騒ぎになっている。「残忍な専制政治の手を逃れてきた人々を見捨て帝国の属国になり果てるとは、民主主義の旗手たる共和国の誇りはどこにいったのか!」怒りの叫びが響く。


憮然とした表情で自宅のソファに座りテレビ画面を見つめていたスレイドがふと気配を感じて振り返ると、ファムが大きく目を見開いてテレビを見つめていた。その体が小刻みに震えている。

「この人たちは・・・この人たちはどうなるのですか?」

スレイドはファムの手を握りながら沈んだ声で答えた。

「テラフォードから帝国に引き渡され、帝国で裁判を受けることになるのだろうな。その後は・・・・」とても続けられなかった。

「僕は、僕はここにいてもいいのでしょうか」

目に大粒の涙を溜めているファムの震える肩を後ろからスレイドの妻エマが抱きしめた。

「いいの、あなたはここにいていいのよ」

エマも声を殺して泣いている。




一方、ネット上のSNSでは様々な意見が飛び交っていた。依然として難民達に同情し政府の対応を非難する声は大きく、

「帝国皇帝に直接サン・リミノ条約違反について抗議し、使節団を派遣して難民送還を止めるよう交渉すべきだ」

と主張する者もいたが、他方帝国軍が隣接するアブロリモーゼにも1,000隻の戦列艦を待機させていたことが明らかになると、難民送還は仕方ないとする声も出始めた。その中には、

「1,000隻の戦列艦に上空から爆撃されて地球の二の舞になりたいのか」という声や、

「交渉なんかで専制政治の態度が変わるわけがない」

「交渉を主張する馬鹿共は200年の平和ボケで、軍事の裏付けがない外交に意味がない、という基本も分かっていない」そこから、

「サン・リミノ条約などという紙切れはテラフォードを守ってくれない、ということがはっきりした以上、条約を破棄し再軍備すべきだ」という声も出始めた。

他方で、

「脱帝者評議会とかいう連中は、これまで匿ってやった恩を忘れ、自分たちの都合で我々を戦争に巻き込むつもりか。帝国に返れ!」

「脱帝者の社会統合教育には我々の血税が使われていることをお忘れなく」

などと脱帝者に対する誹謗中傷も数多くみられた。

とうの昔に絶滅したと思われていた戦争の脅威が突如眼前に現れ、テラフォード社会はいとも簡単に分裂に向かい始めたのである。





騒然とした社会の空気の中で翌10月22日、中央宇宙港を包囲する数万の群衆が見守る中、難民達を載せた政府専用船がアブロリモーゼに向けて飛び立っていった。


しかしそのわずか2時間前、中央宇宙港の一番片隅の発射塔からリベラシオンⅡ号がひっそりと飛び立っていったことに関心を払った者は殆どいなかった。

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