11.死の輪舞
「敵艦、進路変更0-2-2」
ウォラフソンが追尾方法を変更してから2回の針路変更があり、帝国艦はこちらの新たな追尾方法を理解したようだ。今回はランページ号が攻撃ポジションにつくタイミングに合わせて針路を変更している。
「アルファ、メイン・エンジン停止。スラスター1番、30%噴射」
ホフマンが航行用AIに指示を下している。無理に敵航路を辿るのではなく、燃料を節約しつつ外側から大きく回ることで敵の針路の選択肢を限定しようといるようである。ヒューイもその意図を察知し僚艦に新たな針路を指示している。
「リライアント、増速。ルースは減速継続」
ランページ号の左舷を大きく回るリライアントがランページ号を追い抜いていく。ランページ号は右小回頭を終え、緩やかな弧を描いて敵艦の左後上方につける。右舷のルースは減速を継続し新たな動きに備えている。と、その時。
「敵艦、急上昇!」
オペレーターが叫ぶのに、ホフマンは冷静に指示を出す。
「アルファ、前部スラスター50%、下部スラスター80%噴射」
敵艦は下からランページ号を突き上げようとしているのだろうが、この距離ならそれを十分躱した上で絶好のポジションにつける。しかし、オペレーターの次の報告を聞いて思わずウォラフソンは天を仰いだ。帝国艦はランページ号が空けたスペースを利用して上昇しつつ、同時に艦を横倒しにしてきたのだ。狙いはランページ号ではない。左舷のリライアント号だ。
「野郎、戦列艦のくせになんて機動しやがる」
ホフマン副長が唸った。敵艦はランページ号のすぐ下で下部右側のスラスターだけを使って左側転をするように回転しつつ、左舷で増速中のリライアントに覆いかぶさっていく。地上の戦闘機でいうところの「バレル・ロール」という機動だ。
「リライアント、更に増速!」
おそらく妥当な判断だっただろう。減速が間に合わない以上、敵艦を躱そうとして左、あるいは右回頭をすれば、ランページ号が敵艦の背後につくことが難しくなる。しかし増速しつつ直進すれば、自らが囮になることによってランページ号が敵艦の背後につくのをアシストできると考えたに違いない。しかし帝国艦はその動きをも読んでいたかのように、バレル・ロールの途中で増速しつつぴたりとリライアント号の背後につくと、予想外の行動をとった。
「敵艦、リライアントに主砲アクティブ・レーダー照射!」
はっ、と艦橋の全員が固まって見守る中、リライアントもまた緊急増速装置を稼働して最大まで急加速し、さらに左への急回頭で何とか敵の射線から逃れようとする。
既に述べたように、主砲の発射にアクティブ・レーダーは殆ど必要とされない。特に目の前の敵艦はパッシブ・センサーを使用しただけで、主砲で正確にヴァリアント号の動力部だけを撃ち抜くという腕前を披露しているのだ。だからといって、いつ敵艦からの先制攻撃を受けても不思議ではない緊張感の中で各艦は行動している。主砲の斉射を浴びかねない敵艦の正面で、主砲発射の前触れであるアクティブ・レーダーの照射を受けて反応するなというのが無理というものである。まるで先のS-121号の機動をなぞるように、リライアントは第20警備隊の編隊から大きく逸れる軌道に乗って急速に遠ざかっていく。
しかしこれで終わりではなかった。帝国艦は再びメイン・エンジンを切ると、左前方及び右後方のスラスターを同時に噴かして艦をドリフトさせ、右に急回頭する。その射線の先にはルース号が捉えられている。そして再びアクティブ・レーダー照射。リライアント号と同じように、ルース号もまた急加速と変針によって急激に遠ざかっていった。
ついに戦場に残っているのはランページ号だけとなってしまった。しかし諦めるわけにはいかない。単艦であろうと敵の追尾を続けるしかない。
「敵艦、再びメイン・エンジン点火」
敵艦はルース号が急速に離れていくのを確認するようにその場に留まっていたが、ホフマン副長が上昇に使った推力を無駄にすることなく艦を宙返りさせ、そのまま逆さ落としのように敵艦に迫っていくのに気付くと、前進を再開した。
「敵艦の増速、止まりません。秒速0.15光秒。0.2光秒・・・」
もはやこちらを振り回す必要すら感じないのか、帝国艦はフリートランドに向かってまっすぐに加速していく。
「最大戦速。引き離されるな!」
ウォラフソンがスクリーンを確認すると、いつの間にかネオ・ネプチューン近辺まで戻ってきている。
「航行用燃料、残り10%を切りました」
航行用AIアルファが告げる。
必死の加速にもかかわらず、敵艦の背中はどんどん遠ざかっていく。
(これまでか・・・)もともと、艦の性能が段違いなのだ。この距離でランページ号がありったけのミサイルを撃ち込んだとしても、相対速度が開いていくこの状況ではミサイルは敵艦に到達することすらできないだろう。
ウォラフソンが加速を停止させ、敵艦のフリートランド進攻阻止失敗を告げるため艦隊司令部との通信回線を開くようオペレーターに命じかけたその時、
「敵艦斜め前方から多数のミサイルが接近!」
なに!?ウォラフソンがスクリーンを仰ぎ見ると、確かに50発以上のミサイルが敵艦の予想針路と交差するように向かっていくのがみえる。
「敵艦、急減速。上昇します!」
オペレーターが叫ぶのに被せるようにホフマンが吠えた。
「そのまま直進!針路+5度!」
斜め下前方で50発のミサイルがスターマイン花火のように次々と自爆する中、行き足を失った敵艦が急速にランページ号のスクリーン上で大きく迫って来る。
「メイン・エンジン停止、前部スラスター最大噴射!」
ホフマンの操艦はやはり見事だった。今や両艦は同一針路で相対速度をほぼ0にし、ランページ号のスクリーン画面には敵艦の艦橋が大きく映しだされている。誰もが唖然としたその時、艦橋の静寂を通信士の上ずった声が破った。
「フリートランドから通信!」
「来たか!」ウォルフソンは思わず自らミサイル発射システムに手を伸ばした。
・・・しかし、画面に現れた防衛隊本部統合議長が発したのは意外な言葉だった。




