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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
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10.ドッグファイト

「敵艦、また変針します」

オペレーターの報告に、ウォラフソンはヒューイに新たな針路を僚艦に伝えるよう命令しようとしたが、はたと考えこんだ。帝国艦は依然攻撃行動をとることもなく、かといって増速してこちらを振り切ろうともしていない。ただ、こちらが最適な攻撃ポジションをとる直前に変針を繰り返すだけだ。今回の変針でもう6度目だ。

(奴さんの狙いは何だ?)まさか、敵も本国からの攻撃許可を待っているのか?はっ、まさかそれはない。ウォラフソンは自分の考えのバカバカしさに苦笑した。ヴァリアント号が船体射撃を行った直後に、敵艦はためらいもなく機動しヴァリアント号の動力部を撃ち抜いたのだ。「全権を委任されている・・・」そう、敵の司令官は言っていた。しかしいくら戦列艦とはいえ、単艦でこのままフリートランドに進撃しても、警備艦隊が総力を結集すればさすがに無傷ではすむまい。ならば、敵は今ここで、テラフォードに対する更なる威嚇材料が必要なのだ。それが何なのか、未だみえない。(少し揺さぶってみるか)ウォラフソンは全艦に対して、増速し帝国艦との距離を詰めるよう命令した。

第20警備隊各艦は緩やかな弧を描いて敵艦後方につくと一斉に増速した。帝国艦との距離がみるみる縮まっていく。距離を詰めれば詰める程、敵艦の対空網からしてみればこちらのミサイル一斉射撃に対応するのが難しくなる。


「敵艦増速!秒速0.2光秒」

警備隊各艦も増速し、再び接近していく。と、これまで眠っていた帝国艦の4つのサブ・エンジンが点火するのが見えた。

「敵艦さらに増速!・・・・・・0.25光秒・・・0.3光秒・・・振り切られます!」

「こちらも最大戦速!」

既に航行用燃料の1/4を使用している。増速、進路変更により燃料は急速に失われていくが、今は敵艦を射程に収め続けることが先決だ。と、突然、帝国艦のエンジンが一斉に消えた。

「?」

警備隊各艦もそれに合わせて減速しようとしたその瞬間、レーダー手が叫んだ。

「敵主砲全門発射!」

「なに!?」無人空間への敵主砲斉射に一瞬、混乱したウォラフソンだったがはっ、として叫んだ。

「メイン・エンジン停止、前方スラスター最大噴射!」

しかし遅かった。主砲斉射の反動とスラスターの前方への逆噴射を使って急激に減速した帝国艦を警備艦隊各艦がオーバーシュートしかかっている。一旦散開してポジションを取り直すよう命令しようとしたウォラフソンにオペレーターの声が追い打ちをかけた。

「敵艦、急降下!」

帝国艦は今度は上向きのスラスターを全開にし、急激に下降している。

「しまった!」

帝国艦の下方からはS-121号が追尾していたはずである。同号もおそらく敵艦をオーバーシュートしかかっており、このままでは衝突してしまう。

・・・・・・・。最悪の事態を予想し誰もが凍り付いたように立ち尽くす艦橋の静寂を、しばらくしてオペレーターの溜息が破った。彼はがっくりと背もたれに寄りかかりながらもレーダー画面を食い入るように見つめている。

「S-121は無事、敵艦の下をすり抜けました」

艦橋にいる全員が、オペレーターが前方スクリーンに映した画面に黙って目を移した。S-121号は艦長の咄嗟の判断で緊急増速装置を使ってさらに増速し、かつ鋭く艦を横倒しにして艦側のスラスターを最大噴射することで、上から覆いかぶさってきた帝国艦を躱したようである。しかしその代償として、警備隊の編隊から大きく飛び出すことになり急速に遠ざかっていく。

おそらく今の急機動でS-121は航行用燃料を大きく消耗しただろう。異常に大きくなった慣性エネルギーを打ち消し第20警備隊の編隊に復帰するためには、さらに大量の燃料を消費してスラスターを噴かす必要があるが、もともと第20警備隊の中で最も小型なS-121に積まれている燃料は少なく、そんなことをすれば編隊に復帰したとしても敵艦を追尾していくエネルギーは残っていないだろう。他方、燃料を温存しつつ最小限の針路変更で戦場に戻ってこようとするなら、現在のスピードと進路からいって復帰まで何時間かかるか分からない。つまりS-121は戦力としては消失した、ということだ。

「敵艦、前進を再開します」


敵艦の意図はまだみえない。こうやってこちらを急激な機動に誘い込みながら追尾側の隊形を混乱させ、包囲網を振り切るつもりなのだろうか。5万トンはあろうかという戦列艦だけに、積んでいる燃料はこちらとは桁違いだろう。しかしテラフォード側は最悪この宙域で燃料を使い果たしたとしても自国内だ。浮遊しながらでも救援を待つことができる。

それに比べて帝国艦は我々をここで振り切ったとしても、その後フリートランドまで航行しなくてはならない。もしこのまま攻撃命令が出ないなら我々がすべきことはただ一つ、なるべく長く追尾を続けて相手に急激な機動を続けさせ、できるだけ多くの燃料を使用させることだ。そのためには我々は追尾と燃料の節約を両立させねばならない。

「副長」ウォラフソンが呼ぶと、先程から腕組みをしたまま黙ってスクリーンを睨みつけていたホフマンが顔を向けた。

「君にこのランページ号のコントロールを任せる。後上方の位置を保ちつつ、追尾を続けてくれ。なるべく効率的なルートを頼む。燃料を節約したいからな」

了解、と短く答えてホフマンは頷くと、前方に歩いていきスクリーンの前中央に陣取って航行用AIに呼びかける。「アルファ、0-1-2に変針。+2度。速度0.15光秒に増速」

ランページ号がホフマンの命に応えて再び動き出したのを確認すると、ウォラフソンは振り返ってヒューイを呼んだ。

「ヒューイ、副長の指示した航路から、次にランページ号が攻撃の最適ポジションにつく座標と時刻を割り出せ。それができたらリライアント、ルースを時間差でその座標に直行させろ。3艦が同時に攻撃ポジションにつけるよう調整するんだ」

これまで4艦が隊形を保ったまま敵艦の航路に沿って追尾してきたが、それではどうしても旋回の外側を回る艦の燃料消費が大きくなってしまう。さらに敵艦が機動の主導権を握っている以上、敵艦が増速・減速を繰り返せば、後手に回らざるを得ないこちら側は敵艦より急激な増・減速を強いられる。それではこちらが先に燃料を使い果たしてしまうだろう。だから今は、リベラシオンⅡ号の追跡で最も効率的かつ予見的な操艦の腕前を証明したホフマンに賭けるしかない。

(さて、これで相手はどう出るかな?)いつ相手が先制攻撃に踏み切るか、という恐怖を抱えたまま死の輪舞は続く。

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