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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
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9.乾坤一擲

「敵艦、機動を始めました」

ホフマン大尉の報告にウォラフソンは(動き始めたか・・・)とスクリーンを見やった。現在、第20警備隊はランページ号の指揮下で敵艦の追尾に最適の位置をとるべく機動しているところである。警備隊の残存兵力は4,000トンのR級警備艦3隻(ランページ、リライアント、ルース)と2,000トンのS級警備艦1隻(S-121)である。本国司令部からの返信はまだない。

既にお互いが敵対行動をとった以上、ウォラフソンとしてはこちらが更なる攻撃に向け機動を始め次第ミサイルの雨が降り注ぐことを覚悟していたが、意外なことにヴァリアント号に対しておそらく出力を絞った主砲攻撃を実施した後、敵艦はこちらの動きに対して特に反応することなく巡航速度でフリートランドに前進を続けていた。

しかし、さすがに対空防御網の死角に入り込もうとするテラフォード側の行動を見過ごす訳にはいかないだろう。敵艦は今、進行方向を針路0-0-0、上下±0度とした水平面からみて右斜め上に大きく弧を描くように旋回し始めている。しかしまだその動きは緩慢で、こちらの動きを窺っているようだ。

「ヒューイ、各艦に対して新たな針路を伝達」


ウォラフソンは既に第20警備隊の残存兵力4艦に対して戦術を伝えてある。まず4艦が敵艦後方の上下左右に占位し追尾する。その上で、本国からの攻撃許可が下り次第、4方向から全ミサイルを同時発射し、敵艦の動力システムを破壊してフリートランドへの進攻を阻む。

敵艦後方はメイン・エンジンがある関係で一番対空防御網が薄いと思われるが、それでも普通に誘導ミサイルを発射した場合、敵艦の回避行動と対空網で殆どが敵艦に到達する前に撃ち落されてしまう可能性が高い。そこでウォラフソンは各艦に最初に発射するミサイルはチャフ弾とするように指示している。チャフ弾は命中しても破壊力はないが、敵の対空レーザー砲で破壊されたり任意の場所で自爆させると、弾頭に詰め込んだ金属片を広範囲に散乱させレーダーを攪乱する効果がある。R級警備艦は各艦6発、S級警備艦は4発のミサイル発射筒を持つため、初めの全艦斉射で20発以上のチャフ弾によるレーダー撹乱幕が敵艦を包み込むことになる。

チャフ弾の直後に全艦が連続でミサイルを全弾発射する。こちらは通常弾頭だが、チャフの影響でこちらの誘導にも支障が出ることを想定し、無誘導で直進させる。但し0.5度ずつ針路に偏差をつけることにより、敵艦の予想航路上にばら撒く予定である。その時点で警備隊が発射できる総ミサイルは全部で約160発。チャフ弾幕で上手く相手のミサイル防御網を撹乱できれば、1発ぐらい防御網を潜り抜けて敵艦のエンジンに命中するものがあるかもしれない。いわば乾坤一擲の攻撃であり、それが失敗すればもはや警備隊に敵艦の進攻を阻む手立てはない。

一方で、攻撃許可が下りないまま敵に先制攻撃を受ければ第20警備隊はなす術なく全滅することは確実だ。既に敵艦は全艦をロック・オンしている可能性が高い。だからウォラフソンは敵のミサイル発射を感知次第、こちらも直ちに全弾を発射するよう命じてある。それはROE違反だが、その罪を問われる頃にはこちらはもうこの世にはいない。



その頃、首都フリートランドの首相官邸4階の首相執務室ではアンナ・ハーコート首相が防衛隊本部統合議長から状況について説明を受けていた。帝国軍戦列艦1隻が共和国宙域を侵犯、対応にあたった第20警備隊旗艦ヴァリアント号が損傷したとの報告である。「要求が受け入れられない場合は、如何なる結果を招こうが甘んじて受け入れることですな・・・」ハーコートは帝国大使の捨て台詞を思い出していた。マントイフェルはきっとこうなることを分かっていたに違いない。

ハーコートが警備艦隊各隊の配備状況と予想迎撃地点への集結までにかかる所要時間について議長に尋ねようと口を開いた次の瞬間、ノックもなしに秘書官が飛び込んできた。顔が引き攣っている。

「帝国大使館の館員が宿舎を引き払い、大使はじめ全員が既に宇宙港に向かっているそうです!」

「なに!?」それでは総攻撃前の退避ではないか!

しかし秘書官の次の報告を聞いてハーコートは真っ青になった。

「すぐに閣議を招集して!」

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